再起を懸けて、地元岐阜のリングに臨む若きボクサーがいる。4月28日(日)、岐阜市文化産業交流センター(じゅうろくプラザ)で行われる『第48回岐阜ボクシングカーニバル』でメインを務める佐伯瑠壱斗(岐阜ヨコゼキ)。大阪から日本フェザー級8位のサウスポー河村真吾(堺東ミツキ)を迎える一戦は、日本ランク入りが懸かった “3度目” のチャンスでもある。
昨年10月1日の前戦は東京・後楽園ホールに遠征し、当時日本フェザー級6位の大橋健典(角海老宝石)と対戦。まだ9戦目(7勝1KO1敗)だった佐伯に対し、22戦(15勝10KO5敗2分)と倍以上のキャリアがある大橋は、前日本フェザー級王者でもあった。試合終了間際にヒザを着く痛恨のダウンを奪われ、結果は大差の判定負けだったが、大橋が仕掛ける接近戦に苦しみながら、連打でロープ際に追い込むなど見せ場をつくり、最後まで食い下がった。
敗れたとはいえ初登場の “聖地” で印象を残し、自信につながる試合を経て迎える今回だが、やや伏し目がちに佐伯の口をついて出るのは、昨年3月の苦い経験のことだった。
愛知・刈谷で開催された興行で初の日本ランカー挑戦が実現するはずが、減量に失敗。計量失格の失態を犯し、セミファイナルに穴を開けてしまった。自らチャンスをフイにした以上に、関係各所に迷惑をかけ、19歳の若者は自責の念にさいなまれた。師匠の横関孝志・岐阜ヨコゼキジム会長もけじめをつけ、例年地元で開催してきた自主興行を1年自粛。責任の重さを痛感させられた。
「自分のせいなんですけど、苦しかったですし、相手の選手のこととか、いろいろ考えて……。ボクシングに戻っていいのか、迷いました」
悩みに悩んだ末、横関会長に胸の内を打ち明け、頭を下げたのは、ボクシングを失うかもしれない状況で再確認した「自分はやっぱりボクシングが好き」という思いからだった。
11ヵ月ぶりの復帰戦となる大橋戦までは、大きなプレッシャーとの戦いだったという。無我夢中で練習に打ち込み、階級は上げたものの、体重調整に神経をとがらせ、戻ったリング。勝負に敗れ、もちろん悔しさはあったが、それ以上に「楽しかった」と振り返る。
普段は地元の内装工事会社に勤め、早朝から働き、仕事を終えてからジムワークに励む。試合が近づけばスパーリングパートナーを求めて名古屋を中心に出稽古に出かけ、帰宅が夜遅くなることも多い。1週間が終わるころにはクタクタになっている。そんな日々が今まで以上にかけがえのないものに感じられる。
「戻ってきて、本当によかったなって思います。ボクシング、やっぱり楽しいなって」
小学5年のころ始めたボクシングは、現在の世界3階級制覇王者・田中恒成(畑中)の父でトレーナーの斉(ひとし)さんに手ほどきを受けたという。佐伯少年が通った岐阜・多治見のアマチュア専門ジム、イトカワジムで田中親子が練習しており、3つ年上の田中とはよくスパーリングもした。
「いつもボコボコにされた」が、小学校の低学年から空手、キックボクシングと経験してきて、ボクシングが「いちばん楽しかった」。何より身近にいた田中がまぶしかった。
「強くて、憧れやったですね。『恒成くんみたいになりたいな』って」
多感な中学時代、一度はボクシングから離れた佐伯に、再びグローブを握らせたのも田中だった。佐伯が高校2年の2015年5月、国内最短記録となる5戦目でWBO世界ミニマム級王座を奪取。その姿に心が騒いだ。
2016年3月に岐阜ヨコゼキジムからプロデビュー。トーナメントを勝ち上がり、その年の中日本新人王に輝く。全日本新人王決定戦進出を決める新人王西軍代表決定戦には敗れたものの、新人離れした巧さは評価が高く、翌年11月の自主興行では、初の8回戦でメインに抜てきされた。タイトル挑戦経験もあった宇佐美太志、華井玄樹というジムの看板選手が相次いで引退し、佐伯にかける期待は大きかった。
20歳になり、初めての試合が地元での2度目のメイン。さまざまな意味で重要なリングになることは理解している。「勝ちたいです……勝ちたいとしか思ってないです」。何度も繰り返した「勝ちたい」の言葉に口下手な若者の決意がにじんだ。
ジムにとっても再出発の自主興行になる。対戦相手の河村は、元ロンドン五輪銅メダリストで東洋太平洋フェザー級王者の清水聡(大橋)、フェザー級ホープの佐川遼(三迫)と、強豪相手に連敗中だが、いずれも鬼気迫るようなガッツを見せ、粘り強く戦った。キャリアでも上回り(16勝8KO5敗1分)、「絶対不利」と横関会長は言う。地方のジムの例にもれず、サウスポーのスパーリングパートナー探しには特に苦労もする。それでも「不利を覆して、勝つことが感動を呼ぶ」と力を込める。挫折を乗り越え、殻を破ってほしい、という愛弟子への思いがうかがえた。
現役引退後、二十代後半で地元岐阜にジムを開設。1993年5月のプロ加盟から今年で26年になる。この間にタイトル挑戦者を何人も送り出し、2007年には長縄正春を東洋太平洋フライ級王者に導いた。だが、それから10年以上、ベルトから遠ざかっている。30周年を迎えるまでに2人目のチャンピオンを出し、「久しぶりに地元(の自主興行)にタイトルマッチを持ってくるのが目標」と横関会長。その一番手が佐伯になる。
中日本新人王予選4試合を含め、全9試合が予定されている『第48回岐阜ボクシングカーニバル』は28日(日)、JR岐阜駅に隣接する岐阜市文化産業交流センター(じゅうろくプラザ)で午後2時に第1試合開始のゴングが鳴る。
文・写真◎船橋真二郎
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