正規王者と暫定王者とで争った日本バンタム級王座統一戦10回戦は18日、東京・後楽園ホールで行われ、正規王者の齊藤裕太(花形)が打撃戦に打ち勝って、暫定王者の木村隼人(ワタナベ)の視界を奪い取り、5回2分8秒、タオル投入によるTKO勝ちを収めた。齊藤は王座統一とともに初防衛に成功した。
写真上=齊藤の右が木村を捉える
この日の勝利で12勝(9KO)9敗3分。その戦績であらかた想像できるように、齊藤の身上は武骨で粘り強い打ち合いにある。
「最近の木村選手をみているとどんどん前に出てくるので、初回から攻めてきたのは予想どおり。だから打ち合いました。それこそオレの土俵ですからね」(齊藤)
花形進会長も「前に出てきてくれて助かったよ。打って離れてという策に出られると、苦しかったからね」
正直すぎる師弟はあっさりとネタをばらした。もちろん、打撃戦という『土俵』に引き込むさまざまな手はずがあるからこその発言であるのに違いない。ただし、この日はそんな別の手立てを使うまでもなく、相手のほうから仕掛けてきてくれた。齊藤、木村ともどうあっても勝ちたい戦いだった。だからこそ、そうなった。正面から気持ちがぶつかり合い、激しい打ち合いという形で火花が散った。
ともどもに勝ちたかった。当然だ。昨年9月に王座決定戦に勝って日本王者になった齊藤には、このタイトルこそがプロボクサーであることのなによりもの証明。なにしろ、王座獲得直前までの3戦は2敗1引き分けと勝ち星なし。そこから大股で栄冠をつかみ取った。だが、初防衛戦を前に難病の『潰瘍性大腸炎』を発症し、試合から離脱を余儀なくされる。
一方、デビュー当時からスピードスターとして脚光を浴びてきた木村も、日本国内でのタイトルには縁がなかった。王者休養で手に入れた暫定王座決定戦で勝ち、あくまでも仮免のタイトリストになっただけ。王者の美味を心ゆくまで饗したいなら、互いにとって初防衛戦でもあるこの王座統一戦に勝つしかないのだ。
木村は初回から飛ばした。最初のうちは硬く、距離が合わなかったが、1分過ぎからは手数が増える。パンチはいずれも軽かったが、回転力では大きく上回る。機先を制す意味では思惑どおりの立ち上がりにも見えたもの。ただ、2回も同じテンポで攻めて出たが、齊藤の右ストレート、左右のアッパーを迎撃されるようになる。左目がまたたく間に腫れ上がり、その眼を塞いでしまう。視界を失ったのは傍目からも明らかだった。3回から木村のペースがガタンと落ちてしまった。
齊藤のワンツー、右ストレート、左右アッパーが次々にヒットしていく。勇敢な木村は真正面に踏ん張って、切り返しのパンチを狙うが、正確さはむろんない。4回には左フックのボディ打ちも齊藤の攻めの効果を高めた。木村は右目上も大きく腫れ上がり、その相貌は悲愴をきわめるようになる。
4回終了から5回開始までのインターバルでは、木村のセコンドがレフェリーに懇願する「もう1ラウンドやらせてくれ」という声が聞こえる。がっつり四つ、真正面からぶつかり合う展開だけに、思いがけない一打も期待できる。そんな一縷の望みを3分間だけ与えてくれと言うわけだ。
試合は続行する。しかし、もはや木村が戦い続けるのは難しい状況だった。齊藤が左右のストレートで追い、一転、右アッパーを突き上げる。木村の体はピクンと硬直する。そんなシーンがそんなに間合いを置かずに2度目。同じように状態が突っ張ったところに齊藤の右クロスがフォローされると、木村の体がぐらりと大きく揺らぐ。ここで青コーナーからタオルが投げ込まれた。
花形会長(右)と喜びを分かち合う齊藤。山中慎介バンタム級トーナメントへの参戦を熱望した
歓喜の刻をこうしてつかみ取った齊藤には、もう未来の希望しか見えていない。この日の前座でKO勝ちした鈴木悠介(三迫)が指名挑戦者として控えるが、実施が発表されたばかりの山中慎介氏(元WBC世界バンタム級チャンピオン)の名前を冠にしたトーナメント戦出場を強く希望した。「(鈴木との)防衛戦もその中でやりたい。強いやつとだけ戦いたい。そして、世界を目指したい」。
齊藤は31歳。すでに3人の子持ち。5月には4人目、「待望の女の子」が生まれるという。不振のころ、「一時は別の人生も考えた」というが、今、心の中にある野心の形に揺るぎはない。
取材◉宮崎正博
写真◉小河原友信
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