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2023-03-07

【連載 泣き笑いどすこい劇場】第15回「当てが外れた話」その1 

平成13年夏場所、念願の初三賞(殊勲)に喜びを隠さなかった朝青龍。左は技能賞の琴光喜(敢闘賞は該当なし)

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世の中、なかなか自分の思うようにことは運びません。
あなたにもきっと1つや2つ、いや、中には数えきれないぐらい計算が狂い、当てが外れて、悔しい思いをしたことがあったはずです。
まして勝負の世界は思ったようにはいかず、切歯扼腕して当たり前とも言えるでしょう。
それでも、それに懲りず、さらに努力を重ねることが成功の秘訣でもあります。
そんな当てが外れて天を仰ぎ、地団太踏んだ話を集めました。
※月刊『相撲』平成22年11月号から連載された「泣き笑いどすこい劇場」を一部編集。毎週火曜日に公開します。

モンゴルの純真!?

最近は千秋楽の一番に勝ったら、という厳しい条件が付くことも多く、三賞を取り損ねて唇を噛む力士が少なくない。

史上3位の25回も優勝するなど、土俵外のトラブルの多さだけでなく、ここ一番の集中力もズバ抜けていた朝青龍だったが、入幕したばかりの頃は気持ちだけ逸ってなかなか結果がついていかず、涙することも多かった。三賞も立て続けに2度、ハネ返されている。

最初の当て外れは新入幕の平成13(2001)年初場所。千秋楽の和歌乃山戦に勝って二ケタの10勝に乗せたら、という条件付きで敢闘賞候補にノミネートされたが、激しい押し合いの末、押し倒されてせっかくのチャンスをフイにした。何もかも初体験だった朝青龍は、満面に悔しさをにじませながらも、

「まあ、(ここまでやれて)十分スよ。お金(賞金)が目の前を通り過ぎていった(笑)。まだまだですね。それにしてもみんな強いな」
 
とどこかサバサバした口調だった。しかし、次の春場所、またしても千秋楽に勝って2ケタに乗せたら敢闘賞、という条件をつけられ、出島の鋭い出足に圧倒されて押し出されると、

「弱いから、なかなか三賞をもらえないよ。もっと稽古して、体重もいっぱいつけないと」
 
とさすがにいまにも泣きだしそうな表情だった。
 
こんな朝青龍がやっと三賞にたどりついたのは次の夏場所。この場所も、千秋楽の安芸乃島(現高田川親方)戦に勝ったら、という条件付きで殊勲賞の候補に挙がった。入幕していきなり3場所連続して三賞候補に挙がるところに朝青龍の非凡ぶりが窺われるが、今度は右からの下手投げで快勝し、晴れて殊勲賞を獲得。三度目の正直を果たした朝青龍は、

「うれしいス。ゆうべはなかなか眠れず、夜中の1時過ぎまで部屋の掃除とかしていた。プレッシャー、ものすごくあったスよ。千秋楽は十両からずっと負けている。また今度も、と思った。今日の勝ちは天獄と地獄。(賞金の)200万円、どうするかって? それはいい。お金のことを考えると良くない(ことが起こる)から」
 
と涙ぐみながら話した。当時の朝青龍はまだ後年のふてぶてしさはなく、純真そのものだった。

月刊『相撲』平成24年1月号掲載

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