4月の第1週、海外のボクシングはぽかんと穴が空いたように大きなイベントがなかった。やむなく『ウィークエンド・プレビュー』は休止したわけだが、ちょっとした注目と言えば、4月5日にアラブ首長国連邦のドバイで行われたカードだろう。中東で行われたボクシングマッチがESPN+を通じてアメリカにライブ配信された。
日本ボクシングコミッションの安河内剛本部事務局長がインスペクター、福地勇治氏がレフェリー、ジャッジを担当したこのカードは、ドバイに本拠を持つラウンド10ボクシングとイギリスのマネージメントグループ、MTKグローバルがプロモートしたもの。
メインイベントではWBCインターナショナルのスーパーフライ級王座決定戦12回戦が行われ、ドバイにベースを置くナイジェリア人アリュー・バミデール・ラシシがニカラグアのリカルド・ブランドンを判定で破っている。また、ジョイントイベントでは空位のWBOヨーロッパ・フェザー級王座が12回戦で争われ、アイルランドのデビッド・オリバー・ジョイスがイギリスのスティーブン・ティファニーを破った。
試合としてはこのメインより前座のほうに注目すべきだったろう。バンタム級6回戦で、リオ五輪フライ級金メダリストのサウスポー、シャホビディン・ゾイロフ(ウズベキスタン)がプロデビュー戦を行い、アンソニー・ホルト(インドネシア)を左ストレート一撃で18秒KOで屠った。また、ライト級6回戦では、アマチュア時代にリオ五輪金メダルのロブソン・コンセイサン(ブラジル)に勝ったこともあるスルタン・ザウルベク(カザフスタン)がタオ・チェンホン(中国=陶承鴻)にKO勝ち。ゾイロフと同じサウスポーのザウルベクは左ストレートを武器にする技巧派だが、この日は右フックで痛烈に沈めている。
ドバイ市内のゴルフ場に特設されたリングでの今回のイベントはあくまでも中規模にすぎないが、世界各国から選手が集まった。その背景にはMKTグローバルの存在が大きい。イギリスではすでに多くの有力選手のマネージメントを担当しているが、世界を視野に入れてのタレント発掘に力を入れる。ゾイロフやザウルベクも個々の契約選手である。この4月にESPNと放映契約も結んだばかり。
ESPNとの契約を契機にトップに就任したアメリカ人のボブ・ヤレンは、ABC、NBCなどのアメリカの地上波や、ESPNでボクシング中継を担い、その後は、世界戦のスーパーバイザーとして世界を回ってきた。若いころから記録収集家として、その方面ではかなり有名な人物でもある。
そんなチームが目をつけた中東のボクシング事情はまだ白紙に近い。東南アジアではシンガポール、マレーシアと新しい興行グループが出現して、試合開催数が急激に増えている。西アジアでは、スーパーリーグというアマチュア大会が人気のインドでは、プロにもようやく関心が集まり始め、パキスタンやイランでも散発的にプロボクシングが開催される。
一方、アラビア半島はほとんど手つかずだった。昨年、サウジアラビアのジッダでWBSSのスーパーミドル級決勝が行われたが、反響はもうひとつだったと言われる。半島南端のイエメンは、ライトフライ級にアリ・ライミというボクサーが出現。連続KOで話題になった。イギリスで空前のスーパースターになったナジーム・ハメドのルーツの地とあって一部から注目を集めたものの、そのライミが2015年、内戦による空爆で25戦オールKO勝ちのレコードを携えたまま死去するとプツリと興行は途絶えた。
唯一の例外がUAEで、寝技の世界一を争うアブダビ・コンバットは総合格闘技の権威ある大会として1998年から開催され続けている、また、ドバイでもアンソニー・ジョシュアが定期的にトレーニング・キャンプを行っている。
ボクシング興行のほうでも、2013年に世界戦が行われており、関心は高い。以前はフィリピンのプロモーションチームが熱心だったが、2015年を最後に撤退。ドバイにボクシングジムを展開するラウンド10ボクシングが昨年から、興行を本格化したばかりだ。化石燃料の恩恵により、観光開発にも力を入れる土地柄だけに、スター選手が誕生すれば、かなりの将来性も感じさせる。まずは今回のような映像配信付きのプログラムを定着させるのが、第一歩になる。
文◎宮崎正博
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