至極のスパーリングが、ついにお披露目──。WBA世界バンタム級チャンピオン井上尚弥(25歳=大橋)と、2020年東京五輪でメダル最有力と期待される堤駿斗(19歳=東洋大学1年)が30日、横浜市の大橋ジムで激突。ギラギラ、ピリピリとした緊迫感を終始漂わせながら、4ラウンドを戦った。その模様をなるべくリアルにお伝えしよう。
上写真=プロのワールドモンスター井上(左)と、アマのモンスター堤
「いやぁ、こっちも疲れましたよー。プレッシャーをかけ続けるということは、パンチをもらう距離に入るから。何発かもらったんじゃないですか?」
井上尚弥は、さわやかな笑顔を浮かべながら、心地よい疲労感を味わっているように見えた。
2016年、国内史上初の世界ユース選手権優勝(フライ級)を果たし、その後はバンタム級にクラスを上げ、「東京五輪金メダル」最有力と目される活躍を続けるアマチュア界の星・堤。昨年はケガや連戦疲れの影響で、不本意な1年を送ったが、負傷も癒え、体づくりも順調な様子で、さらに上のクラスも視野に入れているという。
このプロアマ最高峰の激突は、今回が3度目。2月に1度目、今月中旬に2度目と各4ラウンドこなしてきたが、さて今回の内容は──。
ジャブの差し合いから、切れ味鋭い真剣のやり取りを想起させた。仕掛けるのは常に井上。深く入って上下に打ち分け、そこへリターンの右を狙う堤のブローを、軽やかなステップバックでかわす。左グローブを上下に揺らしながらタイミングを計ると同時にフェイントにし、ミサイルのようなワンツーを打ち込んでいく。
堤も負けてはいない。あのモンスターの右ストレートをスウェーで外しながら左フックをリターン。これを井上はウィービングでかわし、さらに追撃をかけていく。餌をまき、それに食いついたと同時に“本チャン”を叩き込む。カウンターに次ぐカウンター。ダブル、トリプルのトリックは、劇画の世界だけではないのだ。こんな目まぐるしい攻防のやり取りは、こちらが窒息してしまいそうなほど。
しかしやはり一日の長。終始コントロールしていたのは井上だった。思いきりのいい堤が連打を仕掛けると、これをきっちりとブロック、あるいはサイドへと動いてかわし、堤の隙を探り、カウンターを狙う。そしてそこから一気に攻勢に。
「尚弥さんのプレッシャーが強くて、力みすぎて4ラウンドに失速してしまいました。2、3発効いてしまった」と堤。井上の左ボディブロー、右アッパーカットは強烈だった。
井上本人が公言したとおり、一時期、体全体にキレを欠き、スイング系のパンチが多かったが、ストレート系は完全によみがえった。シャープで重厚なブロー、体全体の動きもキレキレで、完全にあの井上尚弥が戻ってきた。
珠玉の4ラウンドを終えると、井上は開口一番、「日本でいちばん反応がいい」と堤を讃えた。「一瞬も気を抜けない。1ラウンド全部集中していないと。もう、このレベルまで来たら、どっちが集中力があるか。どっちがミスをするか」。そんな駆け引きを味わい尽くすことができる相手を得て、充実しきった様子だった。
5月18日(日本時間19日)、イギリス・グラスゴーで開催されるワールドボクシング・スーパーシリーズ準決勝。IBF王者エマヌエル・ロドリゲス(プエルトリコ)との1戦は、まさにそんな戦いになるだろう。まもなく2次キャンプを行い、その後ふたたび、堤、そして堤のライバルとなるリオデジャネイロ五輪バンタム級代表の森坂嵐(22歳)、おなじみゼネシス・カシミ・セルバニア(カシミ)を“仮想ロドリゲス”として迎え、さらに反応を研ぎ澄ましていくという。
文&写真_本間 暁 Text & Photos by Akira Homma
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