いよいよ明日16日(土)に迫ったWBO世界フライ級タイトルマッチ12回戦、チャンピオン田中恒成(23歳=畑中)vs.挑戦者4位・田口良一(32歳=ワタナベ)の調印式と計量が15日、愛知県名古屋市内のCBCテレビで行われ、両選手ともに50.8kgのリミットで1発クリア。あとはゴングを待つばかりとなった。今日15日の様子を報じるとともに、明日の試合展開を占ってみたい。
上写真=田中(左)、田口、すでに戦闘モード!
普段どおり、飄々とした様子の挑戦者・田口に対し、基本的には平静の表情を浮かべながらも、瞬間瞬間に殺気がほとばしるチャンピオン田中。こちらの姿勢も自然と背筋が伸びるほどの迫力だった。
5年前からの田中恒成の“片思い”、そしてそれが“相思相愛”となり、しかし、いったんは破談してしまった両者の対戦。それがとうとう現実となる。
才気あふれる田中恒成に対し、プロに入って地道にコツコツと叩き上げて強くなった田口良一。田中恒成の前戦、木村翔(青木)戦と同様の、対照的な両者の歩みに、ボクシングファンも長く待望してきた試合だ。
「打ち合う時間はきっと長くなるはず。でも、僕は絶対に逃げない」と元世界ライトフライ級統一王者の田口が言えば、「こんなにおもしろいカードはない。試合もおもしろくならないはずがないし、普通の試合では終わらせない」と、世界3階級制覇王者の田中も自信に満ちあふれている。
使用するグローブはともに日本製ウイニング8オンス。チャンピオン田中が、黒(ナックル、甲)、金(親指)、白(掌)の特注カラーに対し、田中はチャレンジャーカラーのブルーだ。
注目の計量は、ともにリミットでパス。両者ともにかなり絞ったことはうかがえたが、王者・田中の鍛え上げられた足が印象的だった。
オールラウンドな万能型の田中恒成と、フィジカルの強さを前面に出して打ち合いに持ち込んでいくスタイルの田口良一。田中がフットワークを使いながら、ヒッティングアウェーしていくパターン。至近距離で打ち合うパターンと、大別すれば、この二通りが考えられる。
フットワークを使う、というと、“逃げる”のイメージが強いかもしれないが、田中の足は“攻める”足。だから、これは全然意味合いも変わってくるし、試合の流れをかたどることにもつながる。田中がもし“逃げ”の足を使うならば、ロープに押し込んで戦うのが得意の田口が、押せ押せムードを上げるだろう。
至近距離での打ち合いは、田口に優位なイメージがあるかもしれない。しかし、実は田中は接近戦も得意。左右ともにボディブローを差し込んでいくタイミングは痛快で、しかも、リズミカルにディフェンスを交えながらの、“攻防の流れがひとつ”なのは、木村戦でも実証済みだ。
「フィジカルの強さでは田口が上」という一般的な評価はどうか。足を止めてたくましく打ち合う田口の姿は、ライトフライ級王座の防衛戦で何度も目にしてきたが、田中のフィジカルも相当である。スピードや技術が突出しすぎているので、彼の戦力の中では目立たないのかもしれないが、打ち負けたり押し負けたりした試合はない。フィジカルやスタミナの化け物、木村を押し戻した姿を思い出してほしい。そして、計量時に披露された下半身、両足の分厚さ──。あのしっかりした足は、間違いなく彼の武器になる。
ともに「打ち合い」を望み、覚悟しているが、そもそも“打ち合い”と“殴り合い”は、まったく異なる。手を出し合いながら、相手のブローをかわし、ヒットを奪う。その意識がより高く、そういう戦力を装備しているのは田中だろう。
セコンドのチームワークからも目が離せない。田中サイドは、これまで同様、チーフに父・斉トレーナーが入り、畑中清詞会長、村田大輔トレーナーが両サイドを支えるいつものメンバー。
対して田口サイドは、元日本フェザー級王者の梅津宏治トレーナーがチーフを務め、小口忠寛、高橋智明・両トレーナーがサポートする。昨年9月に、田口が現役続行を決めたときから、梅津トレーナーが新たにチーフとなったが、このコンビで試合に臨むのはこれが初めて。いきなりの大舞台で、梅津トレーナーの重圧は相当のはずだけに、内山高志、河野公平の世界タイトルマッチで慣れている小口、高橋両氏の振る舞いも重要になる。
激戦必至とうたわれ、苛烈な打撃戦を期待する声が多いが、“平成最後の日本人対決”には、ハイレベルな攻防を期待したい。会場に来ることのできる幸せな観客を何度も総立ちにするような試合を。
この試合はTBS系列で午後4時から全国生中継されるが、一般の視聴者にもボクシングの素晴らしさをなんとしてでも届けたい。
文&写真_本間 暁
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