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2019-03-15

【海外ボクシング】ウィークエンド・プレビュー スペンス、“最強のライト級” と激突

2019年最初のゴールデンカードだ。人気、評判とも急上昇を続けるサウスポー、スペンス。そしてライト級ではあのワシル・ロマチェンコ(ウクライナ)と並び立つ存在のマイキー。この両者が29歳と31歳という戦力の最盛期に、不敗のまま激突する。
※日付は現地時間

写真上=にらみ合うエロール・スペンス(左)とマイキー・ガルシア
Getty Images

3月16日/AT&Tスタジアム(アメリカ・テキサス州アーリントン)

★IBF世界ウェルター級タイトルマッチ12回戦
エロール・スペンス・ジュニア(アメリカ)対マイキー・ガルシア(アメリカ)
※日本時間17日午前10時~WOWOWメンバーズオンデマンドで生配信

スペンス:29歳/24戦24勝(21KO)
ガルシア:31歳/39戦39勝(30KO)

 戦前の予想は圧倒的にスペンス優位と出ている。当然と言えば当然である。身長177cmのスペンスがナチュラルなウェルター級なのに対し、マイキーのベストはあくまでもライト級。スーパーライト級でエリドリアン・ブローナー(アメリカ)やセルゲイ・リピネッツ(ロシア)に勝った実績はあるが、どこか “太め” 感は否めなかった。

 だとすれば互いのベストでの体重差はおよそ6キロ。過去にはロベルト・デュランやヘンリー・アームストロングらがこの “体重の壁” を克服したデータもあるし、スーパーライトで一度テスト済みで、さらに上積みしても十分に戦えるという手応えがマイキーにはあるのか。

 マイキーのすきのない攻防技術を考えるなら、それだけの自信を持ってもいいのだろう。が、スペンスのパンチはキレッキレだし、動きもシャープである。

 攻撃にはやるあまり、無駄な被弾もあるスペンスに、マイキーの角度のあるカウンターブローが入れば、確かにノーチャンスと言えない。

 スペンスは「これに勝ってパウンドフォーパウンド(全階級通して)のトップになる」と宣言している。一方、マイキーが勝てば歴史的なファイターたちと肩を並べることになる。やっぱり、この戦いはどうしてもライブで確認したい。

 もうひとつの注目は、このカードでどれだけの人が会場に集まるか、だ。アメリカンフットボールのカウボーイズのホームであるこのスタジアムのキャバシティは10万5000人。ボクシングでは2016年、カネロ・アルバレス(メキシコ)が5万2000人を集めたのが最高記録。テキサスでは大ヒーローのスペンスだけに、この数字にどこまで迫れるか。

◆薬物疑惑のベナビデス、ネリが汚名返上の戦い

デビッド・ベナビデス
Getty Images

 禁止薬物使用の疑いでWBC世界スーパーミドル級タイトルを棒に振ったデビッド・ベナビデス(アメリカ/22歳/20戦20勝17KO)が13ヵ月ぶりにカムバックする。天才肌の兄ホセ・ベナビデス(ウェルター級)に遜色のない素質と言われて久しいが、今のところシャープさはもうひとつ。タイトルを手に入れたルーマニアの中堅ロナルド・ガブリル戦は2-1のスプリットデシジョンで、再戦となった初防衛戦は完勝も倒しきれず。ブランクはあったとしても、ここは潜在能力の一端でも見せたいところ。

ジェイレオン・ラブ
Getty Images

 対戦するジェイレオン・ラブ(アメリカ/31歳/24勝13KO2敗1分1NC)はかつてフロイド・メイウェザーの秘蔵っ子とも言われた選手だが、安定感を欠いたまま壁に突き当たっている。ベナビデスはきっちりと倒したいところだ。

ルイス・ネリ
Getty Images

 バンタム級10回戦にはルイス・ネリ(メキシコ/24歳/28戦28勝22KO)が登場する。山中慎介とのWBCタイトルマッチで禁止薬物を使用、再戦ではウェイトオーバーと不実の限りを尽くし、日本では悪役中の悪役となったが、切れ目のない連打力が評価され、アメリカ初登場となる。相手はマクジョー・アローヨ(プエルトリコ/33歳/18勝8KO2敗)。五輪代表、世界選手権3位の元トップアマながら、プロではその力を発揮し切れているとは言いがたい。ネリの激しい攻撃にどこまで耐えられるか。

チャールズ・マーティン(右)
Getty Images

 元IBF世界ヘビー級チャンピオン、チャールズ・マーティン(アメリカ/32歳/25勝23KO2敗1分)はグレゴリー・コービン(アメリカ/38歳/15戦15勝9KO)と10回戦。マーティンのボクシングは雑ながら、一発パンチの破壊力は抜群だ。マーティンと同じ身長195cmのコービンは、かつてもっとも優れたアマチュアのスーパーヘビー級とも言われた逸材だったが、チャンスに恵まれなかった。ここで元世界王者を食うことがあれば、ボクサー人生最後の逆転につながるかもしれないが……。

 8回戦にはリオ五輪代表のリンデルフォ・デルガド(メキシコ/24歳/8戦8勝8KO)も。プロではスーパーフェザー級として戦うデルガドは、キャリアの浅いジェームス・ローチ(アメリカ/26歳/5勝5KO1敗)が相手だけに、早々と決着をつけたところ。

3月15日/リアコーラスセンター(アメリカ・ペンシルベニア州フィラデルフィア)

★IBF世界スーパーフェザー級タイトルマッチ12回戦
テビン・ファーマー(アメリカ)対ジョノ・キャロル(アイルランド)
※現地ではDAZNでライブストリーミング

ファーマー:28歳/34戦28勝(6KO)4敗1分1NC
キャロル:26歳/17戦16勝(3KO)1分

テビン・ファーマー
Getty Images

 昨年8月に王座を獲得したサウスポーの技巧派チャンプ、ファーマーは早くも3度目の防衛戦になる。速い身のこなしを存分に活かしたディフェンシブなボクシングで、忙しいスケジュールも楽々とこなしている。

ジョノ・キャロル
Getty Images

 キャロルはオーストラリアでプロ入りし、その後、故郷をホームリングにした。4戦目で参戦した ”プライズファイター・トーナメント” で、キャリア豊富なスティーブン・フォスターやゲリー・バックランド(いずれもイギリス)を連破して優勝、ちょっとした注目を集めた。あだ名はキングコング。たっぷりのあごひげを蓄えたがっちり体型のファイターだが、戦いはいかにも正統派で、異名や容貌ほどの凄みはない。

 ファーマーがボディワークでいなし、鋭いパンチで小突き回してストップまで持っていけるかどうかに注目したい。

リアコーラスセンター
Getty Images

 ところで、この試合は1万人収容のテンプル大学のバスケットボール・スタジアムで行われるのだが、フィラデルフィア出身のチャンピオンが地元で世界戦を行うのは、バーナード・ホプキンス以来、実に16年ぶり。フィラデルフィアと言えば、20世紀初頭のフィラデルフィア・ジャック・オブライエンの時代から現在に至るまで、途切れることなく名ボクサーを輩出しているが、最近、ボクシング興行はまったく低調だ。

 以前は2万人近くを収容する "スペクトラム" でビッグマッチが開催されたもの。伝統のボクシングホール、"ブルーホライズン"(1400人収容)が2010年に閉じられたあと、やはり1300人が観戦できる "2300アリーナ" で中小ファイトが開催されることがあっても、大会場がボクシングに提供されることは久しくなかった。現時点でもウェルター級の不敗の強打者ジャロン・エニス、世界戦連敗も底を見せていないジェシー・ハートらがいるだけに、今回の興行が火付け役になってほしいもの。

★WBA・IBF・WBO女子世界ライト級王座統一戦10回戦
ケイティ・テイラー(アイルランド)対ローズ・ボランテ(ブラジル)

テイラー:32歳/12戦12勝(5KO)
ボランテ:36歳/14戦14勝(8KO)

ケイティ・テイラー
Getty Images

 WBA・IBFのタイトルホルダー、テイラーが、WBO王者ボランテと統一戦を行う。ロンドン五輪のボクシングを成功に導いたひとり、テイラーはリオ五輪が終了するまで、プロに興味を持たなかったが、エディ・ハーンと契約し、今では世界で最も稼げる女子ボクサーになった。7戦目で世界タイトルを獲得し、これが7度目の世界戦になる。きわめてハイテンポで、次々にパンチを繰り出す、イギリス・トラディショナルスタイルのよき伝道者だ。現在の目標はライト級のメジャー4団体の統一。この試合に勝てば、残るはWBCひとつになる(WBC王者はデルフィン・ペルスーン=ベルギー)。

 ボランテはブラジル国外で戦うのは2度目、南米以外では初めて。アマチュアのブラジル王者にもなっているが、世界選手権5連覇、オリンピック・チャンピオンのテイラーとはかなりの差がある。実際の戦いも、粘っこく狙う左ボディブローがいやらしいくらいで、テンポはかなり遅い。

 テイラーの疾風のような攻撃が、ボランテを圧倒していきそうだ。

◆死闘必至のミドル級生き残り戦

ガブリエル・ロサド
Getty Images

 ちょっと格落ちになるがミドル級10回戦が楽しみ。ガブリエル・ロサド(アメリカ/33歳/24勝14KO11敗1分1NC)対マチェイ・スレッキ(ポーランド/29歳/27勝11KO1敗)。フィラデルフィア出身のロサドは無類のタフガイで、その戦いは常に激戦になる。真っ向勝負こそ、このプエルトリコ系アメリカ人の唯一無二の持ち味なのだ。敗戦は多いが、その相手はゲンナディ・ゴロフキン、ピーター・クィリン、ジャーメル・チャーロ、デビッド・レミューと強者ぞろい。最近はやや迫力が落ちたとも言われるが、地元でのファイトで勢いを取り戻したい。

マチェイ・スレッキ
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 一方のスレッキもなかなかの武闘派だ。長身からありとあらゆるパンチを振って迫っていく。ダニエル・ジェイコブス(アメリカ)には敗れたが、その奮戦が光った。ロサド同様、ミドル級のトップで戦うためにはどうしても星を落とせない。

ダニヤル・エレウシノフ
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ジョンジョー・ネイビン
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 この日はそのほかにもホルヘ・リナレス(帝拳/ベネズエラ)に果敢に挑んだルーク・キャンベル(イギリス/31歳/19勝15KO2敗=ライト級)、リオ五輪の最優秀選手(ヴァル・バーカーカップ受賞者)、ダニヤル・エレウシノフ(カザフスタン/28歳/5戦5勝3KO=ウェルター級)、ロンドン五輪バンタム級準優勝のジョンジョー・ネイビン(アイルランド/29歳/11戦11勝4KO=ライト級)。さらに17歳で世界選手権(アマチュア)優勝の“カムデン・バズソー2世”、レイモンド・フォード(アメリカ/19歳=フェザー級)のデビュー戦と、DAZN興行らしい賑やかなラインナップになっている。ちなみに “カムデン・バズソー2世” の由来については、フォードが強くなっていけば、しっかりと紹介していくことになる。

まだまだあるぞ!注目カード
コンラン、ディアス、モスレ…

◆ "アイルランドデー" の主役は今年もコンラン

マイケル・コンラン
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 アイルランドの祝日、聖パトリックデーには今年もニューヨークのMSGシアターで興行が組まれる。主役はやはりアイルランドの星マイケル・コンラン(27歳/10戦10勝6KO)である。リオ五輪での “不当判定” への猛抗議で有名になったコンランはプロ入り後も順当に星を伸ばしているが、もうひとつ“これぞ”という武器が見えてこない。この日の相手ルーベン・ガルシア・エルナンデス(メキシコ/25歳/24書10KO3敗2分)は、ノニト・ドネア(フィリピン)も倒せなかった粘りの選手。ここらで強みを大きくアピールしたいところ。

 この日はウェルター級のベテラン対決、ルイス・コラーソ(アメリカ/37歳/38勝20KO7敗)対サムエル・バルガス(コロンビア/29歳/30勝14KO4敗2分)というシブいカードもあるが、何よりも楽しみなのは若きふたりのプエルトリカンだ。ライト級のジョセフ・アドルノ(19歳/11戦11勝10KO)、スーパーライト級のホスエ・バルガス(20歳/12勝8KO1敗)。どちらとも、アマチュアでの大成など目にもくれず、17歳でトップランクと契約した俊英だ。アドルノのニックネームは “選ばれし拳”。確かにワンパンチの威力は破格。プロでは1年先輩になるバルガスのほうはずばり “天才”。唯一の敗戦はダーティファイトをとがめられての失格負け。熱くなりすぎなければセンスのいい技巧を随所に見せる。いずれも今後が大いに楽しみ。

 この試合はESPN+でアメリカにストリーミング配信される。

◆ディアスが6年ぶり故郷のリングに

フェリックス・ディアス
Getty Images

 北京五輪ライトウェルター級金メダルのフェリックス・ディアス(ドミニカ共和国/35歳/19勝9KO3敗)が16日、6年ぶりに母国で戦う。対戦者も同国人のアブラハム・ペラルタ(28歳/19勝13KO6敗)。

 シャープな攻防に味があるディアスだが、緩慢なキャリア作りをしているうちに勢いを失い、最近は格下にも星を取りこぼした。これが11ヵ月ぶりの試合。同郷の後輩に後れを取るようでは、いよいよ最後の決断をしなければならなくなる。

 なお、この試合が行われる会場は、サントドミンゴの "コリセオ・カルロス・テオ・クルス"。その名は1970年、飛行機事故で亡くなった世界ライト級チャンピオンの名にちなむ。フランスにも飛行機事故で死亡した世界ミドル級チャンピオン、マルセル・セルダンの名を刻んだスタジアムがある。日本にだって、ボクサーの名前を冠にしたスタジアムがひとつふたつあっていいんじゃないかと、つい思ってしまう。

◆五輪女王がプロ4戦目で10回戦

エステル・モスレ
Getty Images

 リオ五輪女子ライト級金メダリスト、エステル・モスレ(フランス/26歳/3戦3勝1KO)が16日、フランスのオート=ガロンヌ県トゥールーズで初の10回戦に臨む。相手のオレナ・メドベデンコ(ウクライナ/25歳/5勝2KO4敗)はプロデビュー2連敗から這い上がってきた頑張り屋だが、最大のライバル、ケイティ・テイラーの尻尾をつかむためには、決して負けられない戦いだ。

 プロモーションチームは違うが、モスレのパートナーのトニー・ヨカ(リオ五輪スーパーヘビー級金メダリスト)はフランス中を大騒ぎさせてプロに転向。しかし、薬物使用の疑いで1年のライセンス停止の真っ最中。ここは婚約者として、さらに頑張らないといけない。

文◎宮崎正博

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