close

2023-03-25

【相撲編集部が選ぶ春場所14日目の一番】大栄翔、2敗を守ってV王手。1差で霧馬山と楽日決戦へ

大栄翔はこの日も落ち着いた突き押しで圧勝。千秋楽も同様の相撲が取れるか

全ての画像を見る
大栄翔(突き出し)翠富士

盤石といえた昨日以上に盤石だった。今日もその相撲に全く揺らぎを見せず、大栄翔が1差で追っていた翠富士の挑戦を退け、2敗をキープして単独トップを守った。
 
この日、翠富士は「立ち合い変化を考えた」と、やや左にずれるような立ち合いを見せたが、昨日同様「相手を見てしっかり攻める」という作戦で、顔を上げ、まずはモロ手で相手の首元あたりを着実につかまえて突きにいった大栄翔には、全く何の影響もなかった。右、左と見ながら突いて、もう一回モロ手、最後は左の突きがよく伸びて、翠富士に何もさせずに白房下に突き出した。これで令和3年1月場所以来2度目の優勝に王手。ここにきても、いささかの硬さも見られない相撲を取れるのはすごい精神力と集中力だ。
 
前半から中盤と、この場所を引っ張り、盛り上げてきた翠富士は4連敗で、ついに優勝圏外へ。それでも、「この緊張感というか、単独首位も(なかなか)経験できることではないんで」という経験を積んだことは、来場所以降のステップアップへの糧になることは間違いないだろう。
 
さらにこの日、3敗組では若元春が豊昇龍に上手投げで豪快に転がされて優勝圏外へ去った。「硬さは特になかった」という若元春だが、豊昇龍が左四つ右上手狙いに来たことで「意表を突かれて、一瞬気持ちが止まって、向こうの流れになった」のだという。こちらも優勝は逃したが、力強い相撲も増え、三役の力をつけていることを証明した場所だった。
 
結局、14日目を終え、大栄翔を追うのは、この日若隆景が休場となったことで(とりあえずこれで、昨日心配?していた来場所の“6関脇”はなくなった)、不戦勝となり3敗を守った霧馬山のみとなった。
 
明日の千秋楽は、この2人が星1つの差で結びの一番で対決、大栄翔は1勝、霧馬山は優勝決定戦を含め2勝すれば優勝だ。
 
この一年の2人の対戦成績は大栄翔の3勝2敗。基本的には大栄翔がモロ手で突いて出るところを、霧馬山が下からあてがって、押し返すかイナして横に回ろうとする、という相撲になるので、立ち合いの勢いを生かせる展開になれば大栄翔、そこをしのいでの動き合いになれば霧馬山に分があるという戦いになる。大栄翔としては、「よく見て」に主眼を置いていたここ2日の相手よりは、やや「起こしにいく」にウエートを置いた突き押しが必要になるところがどう出るか、というところだろうか。
 
通常、この形の1差からの戦いでは、「単純な数学的確率(両者の実力が五分の場合、逆転の可能性は4分の1)以上に、追う者に強みがある」というのが、勝負の世界の常識だが、「硬さを持たずにやれています。いい感じです。前回(の優勝)もあまり硬くならなかったけれども、前回より落ち着いているんじゃないかなと思います」という大栄翔を見ていると、そんな常識も関係ないのでは……、という気もしてくる。霧馬山も、どんな場面でもほとんど表情を変えずにしっかり取れるタイプの力士だと思うが、14日目の不戦勝という変則的なリズムがどう影響を及ぼすか。ただ、本割で勝てれば、「追う者の強み」が生きる展開に持ち込める。
 
とにかく、明日の千秋楽結びまで、ワクワクは続くことになった。“十両千秋楽結びの一番”で組まれた朝乃山-落合戦とともに、楽しみにしたい。

文=藤本泰祐

PICK UP注目の記事

PICK UP注目の記事



RELATED関連する記事