「迷いが出てしまった」と尾川
写真◎ボクシング・マガジン
前日本スーパーフェザー級チャンピオンの尾川堅一(帝拳)は2日、東京・後楽園ホールでフィリピン・ライト級チャンピオンのロルダン・アルデアと10回戦を行い、大差の判定勝ち。尾川は2017年12月、IBF世界同級王座決定戦に勝ちながら、ドーピング検査で陽性反応が出て、タイトル獲得を取り消されて以来のカムバック戦を白星で飾った。
試合後、リング上でのテレビインタビューで、さらに控え室でのプレス取材でも、尾川はその冒頭でいずれも言葉をつまらせた。
「こんな僕をファンの人たちは許していてくれているのだろうか」
不安に苛まれる夜ばかりが続き、リング入場前には「押しつぶされるくらいに緊張」していた。満員の観客の歓呼に安心できても、気持ちはほどけぬまま。
緊張がそのまま気負いにつながった。ブランクによる感覚の乱れもあった。一度は判定勝ちと告げられたあの14ヵ月前の相手、テビン・ファーマーとの再戦を想定して選ばれたか、サウスポーのアルデアを攻めあぐんだ。
「手応えのあるパンチが何度かあった」という前半戦。たしかに豪快な右パンチをストレートで、あるいはオーバーハンドでヒットしたが、フィリピン人はぐらりともしなかった。それは余分な力が入っていたせいなのかもしれない。
「3回くらいからいろんなことを考えるようになってしまって、迷いが出てしまいました」
毎ラウンドのようにポイントを奪いながらも、どうしても攻めきれない。コンビネーションブローとして組み立てられぬ単調な攻撃が続いた。
7回終了間際には右ストレートで棒立ちにさせるも、残り時間が足りずに詰め切れず。8回、9回ははっきりとカウンターアタックを狙うフィリピン人の流れのなかで戦ってしまった。
本人が認めたとおりに課題は多い。けれど、大事なのは、無事に帰還すること、勝つこと。そうすれば次につながる。
「昨日の誕生日で31歳になりました。残り時間もないので今年中に勝負したい」
この夜、流した純な涙は、悲劇を歓喜へと導いてくれる。戦力全開の尾川を、次戦できっと見られるはず。
取材◎宮崎正博
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