上写真=3回、湊は荒川を2度倒してレフェリーストップに持ち込んだ 写真/小河原友信
ミニマム級からミドル級まで(スーパーウェルター級は除く)全12階級で、東日本新人王と西軍代表(※中日本、西日本、西部日本各地の予選を勝ち抜いた選手が戦って決定)が激突する『第65回全日本新人王決定戦』が23日、東京・後楽園ホールで行われた。フライ級決勝5回戦は、東日本決勝で技能賞を獲得した荒川竜平(29歳=中野サイトウ)を3回1分44秒TKOで下した湊義生(20歳=JM・加古川)が頂点に。湊は技能賞を獲得した。
初回、距離を縮めようとした湊の頭の側面を、荒川の右フックが捉えると、湊はバランスを崩したようにヒザを着く。レフェリーはノックダウンを宣告した。
「何がダメージなのか、ダウンは初めてのことだったのでわからないけど、焦りはあった」という湊だが、傍目には焦りはまるで感じられなかった。
対する荒川も、ここでフットワークを使ってマイペースを保った。過去に、詰めに行って失敗した経験があるからだ。
結果的に、湊はそんな荒川に救われた面もあった。綺麗な右ストレートを上下に散らし、サウスポーの荒川の左ストレートを見事に空転させ、ダウンのイメージを消していった。
荒川は、右のリードブローを出さず、湊に先に攻めさせて、左ストレートや右フックのカウンターを狙い続ける。が、湊の右上下、左フックが的確にヒット。2回終盤には湊の右が荒川にダメージを与えた。
そして迎えた3回。荒川の右フックに、湊が右ストレートを合わせて倒すと、立ち上がった荒川に、連打から右をねじ込んで再び倒し、レフェリーストップを呼び込んだ。
「距離が遠いと思っていたので、ジャブ、ワンツーで1回“カマセ”を入れて、行こうと思った。右のストレートボディはずっと練習していて、それを打ち始めたら相手のフックをかいくぐることもできた」
バランスが良く、実に綺麗な右ストレートを放つ湊は、西軍代表決定戦で前評判の高かった濵上京武(島袋)をやはり3回でストップしており、その実力が本物であることを証明した。
中学では、KWBボールの兵庫県選抜チーム『MAJOR HYOGO』に選ばれ、高校にも野球の特待生で進学していた。ショートとピッチャーをこなす身体能力の持ち主は、甲子園、プロ野球選手を目指していたが、「2年のときに修学旅行でディズニーランドに行ったときに、ホテルで同じ学校の生徒とケンカをして」退学。ボクシング好きだった父、アマチュアボクサーだった兄の影響もあって、ボクシングの道を歩むことになった。
「まだ日本ランキングに入るばかりのペーペーが、世界なんて言えない。この前、ユースチャンピオンになった松岡選手と戦いたい」。
今月2日、双子の兄弟で同時に日本ユースチャンピオンとなったことで話題の松岡兄弟(大成)。その弟・新との対戦を望む。
「強い奴とやらんと強くなれへん」というのがジムの教え。湊は、その考え方に共鳴しているのだという。
JM・加古川拳といえば、昔から熟山進之助さんの“男気”あふれるハードマッチメイクがつとに有名。湊もその路線に乗って、本物の強い男を目指す。
ちなみに、退学となったケンカは「KOしました。ハイキックで(笑)。自分でもびっくりしました。ハイキック出た―って(笑)」。その身体能力と格闘センスは見応えがある。もちろん、ボクシングでは、キックは絶対に出さないよう注意しなければ、だが。
一方、敗れた荒川。昨年の東日本新人王決勝で敗れ、今年はその壁を突き破ったが、日本の頂点に立つことは叶わなかった。
「加藤さんにつなぐことができなかったのが悔しい……」
同僚・加藤収二は、昨年度の全日本ミドル級新人王で、先ごろ、チャンピオンカーニバル挑戦者決定戦に勝ち、日本王者・竹迫司登(ワールドスポーツ)への挑戦が決まっている。
加藤への勝利のバトンをつなぐことはできなかったが、いまはゆっくりと、自身のボクシングを見つめ返すことだけに執心したい。
勝者がいれば敗者もいる。でも、いま負けたからといって、すべてが終わるわけではないし、たとえボクシングで成功しなくとも、別の人生で幸せをつかむことだってある。
何事も、諦めたら終わり、だ。つまづきは、人生に付きもの。
どう立ち上がるか。そこにこそ、本当の勝負がある。
文_本間 暁
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