写真上=渡部(右)は終盤、驚異の反撃を見せた
写真◎佐藤伸亮
「やっぱり勝ちたかったですよ。人生って、そううまくはいかないですね」
両者防衛。なんとも言いようのない結末に、渡部は腫れ上がった顔をゆがませた。チャンピオンであって、挑戦者。微妙な立場にある「暫定」の肩書は、ドローの判定により外すことはできなかった。
いつものように豪快なパンチを振るって追い続けたが、同じサウスポーの新藤寛之に足を使われ、カウンターを被弾。5回終了後の途中採点ではジャッジ3者とも新藤の1ポイント優勢とした。6、7回にはまともに左ストレートを浴び続け、立っているのが不思議なほどのダメージを受けた。右目上からの流血も激しく、ここまでかと思われた8回から、驚異の逆襲。終了ゴングが打ち鳴らされるまで、赤鬼の形相で攻めに攻めた。
ドロー決着に複雑な表情の渡部
写真◎ボクシング・マガジン
判定は1ー1のスプリットデシジョン。45戦目で初めて経験するドローにより、暫定王座を「防衛」して生き残った渡部だが、ボクシング人生の先が長くないことは自覚している。「まだ先が見えると思い続けて45戦、挑戦してきた。まだできると思っているが、尊敬する会長がやめろというなら引く」。鈴木慎吾会長は今夜の激闘を称えつつ、進退は「自分で決めるべき」とした。
「嬉しいとも悲しいとも言えないけれど、33年生きてきて、すごく幸せを感じる」と渡部は言った。大病を患い、入院していた娘が一昨日に退院。あと5年は通院しなければならないというが「ベルトを持って、娘とクリスマスを過ごせる」。そう言って、傷だらけの顔をほころばせた。
取材◎藤木邦昭
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