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2018-12-20

【海外ボクシング】ウィークエンドプレビュー 2018年最後の好カードをピックアップ!

写真上=ダブルタイトルマッチを前にフロイド・メイウェザーの激励を受けるジャモール(右)とジャーメルのチャーロ兄弟
写真◎Getty Images

 超人的ボクシングマニアに捧げるウィークエンド・プレビューも2018年最後の回になる。海外のボクシングはクリスマスを過ぎると休戦状態になるからだ。新年の幕開けは1月の第2週から。ちなみに1月11日の金曜日には、さっそくデビン・ヘイニー(アメリカ=ライト級)、フランク・サンチェス・ファウレ(キューバ=ヘビー級)、ルーベン・ビリャ(アメリカ=フェザー級)の不敗のトリオが登場するテレビカードがある。

 また、あらためて念押しするが、ここで紹介するカードはその週の中盤までの予定に入っているものになる。15日、ニューヨークのカネロ・アルバレス対ロッキー・フィールディング戦の前座には強打で人気のデビッド・レミュー(カナダ)が、その2週間前、デオンテイ・ワイルダー対タイソン・フューリー戦の前には注目のライトヘビー級、アンソニー・ヤード(イギリス)が出場するはずだったが、いずれも不出場になった。レミューは前日、脱水症状を起こして、ヤードは「対戦相手が見つからなかったため」とその理由はアナウンスされている。こういったケースは今後もままあるはずで、その点はご承知願いたい。

12月22日/ブルックリン(アメリカ・ニューヨーク州)
チャーロ兄弟のメインは観客を呼べるのか

★WBC世界ミドル級暫定タイトルマッチ12回戦
ジャモール・チャーロ(アメリカ)対マット・コロボフ(ロシア)

 チャーロ・ツインブラザースが2年半ぶりに世界チャンピオンとして共演する。この二人、姿形はほとんど一緒でもボクシングは対照的。ジャモールは豪打でKOを追求し続ける。ジャーメルは技とタイミングを駆使して、テクニカルに試合を作りたがる。ただ、現状の人気面ではともにはっきりとしない。

チャーロ兄弟の兄ジャモールは代役コロボフとミドル級の暫定王座防衛戦
写真◎Getty Images

 ニューヨークではこれで3週連続のビッグマッチになる。8日、マディソンスクエア・ガーデンの小会場シアターで行われたロマチェンコ対ペドラサ戦が5312人。15日、同じMSGのメイン会場で行われたカネロ対フィールディングは2万112人。マンハッタンでの2カードはいずれもソールドアウトとなった。イーストリバーを挟んだブルックリンに立地するバークレイズセンターで開催されるこちらのイベントでも、観客動員で負けたくないところだ。

 さて、試合のほうだが、ジャモールは本来、ウィリー・モンロー・ジュニア(アメリカ)と対戦するはずだったが、モンローの薬物テストで陽性反応が出て、前座に出場予定のコロボフに代役の白羽の矢が立った。

2度目の世界挑戦となるコロボフは元トップアマの技巧派
写真◎Getty Images

 コロボフは押しも押されもせぬかつてのトップアマ。2005年、2007年と世界選手権を制している。しかもこの2大会計11試合で8試合までがジャッジの手を煩わせないストップ勝ちと、圧倒的な強さを見せたもの。プロ入り後もハイテンポで、ミスを少ない堅調な戦いを見せるが、唯一のミスがアンディ・リー(アイルランド)に喫した逆転TKO負け。4年ぶりのチャンスになるが、年齢はすでに35歳。どこまで力を維持できているのかは微妙なところ。やや雑ながらパワーパンチで迫ってくるジャモールを、技でしのげるか。予想となるといささか苦しい。

ジャモール・チャーロ:28歳/27戦27勝(21KO)
マット・コロボフ:35歳/29戦28勝(14KO)1敗

★WBC世界スーパーウェルター級タイトルマッチ12回戦
ジャーメル・チャーロ(アメリカ)対トニー・ハリソン(アメリカ)

弟ジャーメルはスーパーウェルター級王座4度目の防衛戦
写真◎Getty Images

挑戦者モリソンはデトロイト・クロンクジムOBのハードパンチャー
写真◎Getty Images

 ジャーメルは長身パンチャー、ハリソンの挑戦を受ける。古きモーターシティ、デトロイトに存在した伝説のボクシングジム、クロンクの最終世代にあたるモリソンは、大先輩トーマス・ハーンズばりに長身を翻して強打を狙ってくる。ただ、安定感はいまいち。これまでの2敗はいずれも終盤に捕まってのTKO負けである。ハリソンとしては速攻でチャーロのペースを乱していくことが勝機にとつながっていくのだが、タイトル戦4勝中3KOと“倒しのテクニック”も身につけたジャーメルを崩すのは難しいか。とらえどころのないスキルでファイトを管理するジャーメルにかわされて、好打を狙い打たれてしまいそう。チャーロのKO防衛が濃厚とみたい。

ジャーメル・チャーロ:28歳/31戦31勝(15KO)
トニー・ハリソン:28歳/29戦27勝(21KO)2敗

■怪物アジャグバに注目

 アンダーカードは、試合枯れに悩まされてきたトップ選手4人が登場する。ヘビー級10回戦のドミニク・ブリージール(アメリカ)とカルロス・ネグロン(プエルトリコ)はともに1年以上のブランクあけ。アンソニー・ジョシュア(イギリス)にははっきりと力量差を見せつけられて敗れたブリージールだが、強打の元キックボクサー、イズアグベ・ウゴノー(ポーランド)を派手な倒し合いの末にKOで破り株を上げた。ネグロンはクルーザー級でも戦えるが、10kg以上の体重差を行き来しながら7連続KOをマークしている。身長201cm、体重115kgのブリージールの体力勝ちとみるのが順当な線だろう。

 キリル・レリク(ベラルーシ)とのWBA世界スーパーライト級王座決定戦に敗れて以来9ヵ月ぶりとなるランセス・バルテレミー(キューバ)。エリスランディ・ララ(キューバ)に完敗して以来14ヵ月ぶりのロンドン五輪アメリカ代表のチームキャプテン、テレル・グシェイ(アメリカ)。ともに中堅どころを相手に敗者復活戦に臨む。

破壊的な強打が注目されるアグジャバ
写真◎Getty Images

 もっと楽しみなのが、ヘビー級の怪物候補、エフェ・アグジャバ(ナイジェリア)だ。とにかく破壊的な強打が見もの。ここまで7戦でKOをミスしたのは1度だけだが、それも対戦相手が試合開始ゴングとともにすたこらリングから逃げ去っての失格勝ち。ワイルダーの後継者とされるアフリカ人の豪腕をぜひとも確かめたい。同じく6回戦にはアグジャバのアマチュア時代の先輩格エフェトボル・アポティ(ナイジェリア)も出場する。こちらも5戦5KO勝ちだ。

 この試合はPBC(プレミア・ボクシング・チャンピオン)がFOXに提供する新シリーズのオープニングになる。

12月22日/マンチェスター(イギリス)
イギリスのライバル対決、またひとつ

★IBF世界フェザー級タイトルマッチ12回戦
ジョシュ・ウォーリントン(イギリス)対カール・フランプトン(イギリス)

いまや2万のファンを動員する人気王者ウォーリントン
写真◎Getty Images

 イギリス・ボクシングの活況は、さまざまなライバルストーリーをうまくつなぎ合わせるところにもある。

 ウォーリントンはもともとイングランド北部の中堅都市リーズのローカルファイターに過ぎなかった。粘り強いアタックでポイントを積み重ねていくが、決定力に乏しい。そんな選手を上手に導いてスターに育て上げた。日本の天笠尚(山上)を始め、ジョエル・ブランカー(オーストラリア)、パトリック・ハイランド(アイルランド)、キコ・マルティネス(スペイン)、デニス・セイロン(デンマーク)とAマイナスの強豪との激戦を勝ち抜かせていった。そういうキャリアが、どんな苦難にも耐える我らがヒーローというイメージをしっかりと定着させる。その上でリー・セルビー(イギリス)とのライバル物語第1弾を提供。ウォーリントンも見事、期待に応えて戦いに勝つ。いつの間にか彼の試合には2万人の大観衆が集まるようになった。

それでもフランプトンの優位は動かないか?
写真◎Getty Images

 フランプトンはオールマイティな実力派として、高い評価を受ける。アメリカでレオ・サンタクルス(メキシコ)との激戦シリーズに1勝1敗。いずれも2-0判定ではっきりと決着はつかない。第3戦にこだわらないまま、イギリスに帰り、新たな道を開拓させる。伝説の男ノニト・ドネア(フィリピン)を呼び寄せ、文句ない判定勝ちで、またまたファンの心を射止めた。そして今回、ウォーリントンとイギリスのナンバーワン争いを“真の世界一”の座を争う形で提供する。ひとつの戦いを上手に育てるプロモーション力のたくましさにはただひたすら感心させられる。

 ただし、脚本は脚本。リアルな戦いがおもしろくなくては話にならない。それがまたうまくできている。多彩なテクニックを見せつけるフランプトンに、プレッシャーと手数でペースを奪い取ろうとするウォーリントン。KOの予感は乏しくても、12ラウンドずべてにわたって迫真の攻防が楽しめる。スケール感で上回るフランプトン優位は動かせないが、どの局面も火花散る好試合になることは間違いない。

ジョシュ・ウォーリントン:28歳/27戦27勝(6KO)
カール・フランプトン:31歳/27戦26勝(15KO)1敗

■サンダースらの出場も予告

復帰する元ミドル級王者サンダース
写真◎Getty Images

 WBO世界ミドル級の前チャンピオン、ビリー・ジョー・サンダース(イギリス)のカムバック戦も予告されている。この巧みなサウスポーは、10月にアメリカ・ボストンでデメトリアス・アンドレイド(アメリカ)と戦うはずだったが、薬物使用の疑いからマサチューセッツ州コミッションからラインセンスが下りず、世界タイトルを返上していた。発表されている相手のゾルタン・セラ(ハンガリー)は格下ながら、試合には注目は集まるはず。

 このほか4度もの世界戦に敗れても、懸命に戦う姿勢が共感を呼ぶマーティン・マレー(イギリス)はアッサン・エンダム(フランス)と。エンダムは村田諒太(帝拳)に敗れて以来14ヵ月ぶり。アイルランドのニュースターマイケル・コンラン(フェザー級)も出場する。

 期待の若手陣も続々と。ミドル級のイギリス・タイトルを賭けてマーク・ヘフロンリアム・ウィリアムスと12回戦。2009年ヨーロッパ・ユース選手権銀メダリストのへフロンは、その翌年のプロ入り以来じっくりとキャリアをため込んでてきた。リアム・スミス(イギリス)とのきわどい勝負を2度続けて落としたウィリアムスとの戦いは、大事なテストマッチとなる。

 14戦全勝11KOのネイサン・ゴーマン(イギリス)は身長202cmの巨人ラズバン・コジャヌ(ルーマニア)と。ライトヘビー級注目の新星アンソニー・ヤード(イギリス)との対戦がカウントダウンに入っているリンドン・アーサー(イギリス)も顔見せ。身長188cmのアーサーも12戦全勝9KOだ。また、タイソン・フューリーの弟トミー・フューリー(クルーザー級)もプロデビュー戦を行う。

 この試合はイギリス国内ではPPVで。アメリカにはESPN+で提供される。

12月22日/ロンドン(イギリス)
ヘビー級のイギリス対決も

★ヘビー級12回戦
ディリアン・ホワイト(イギリス)対デレク・チゾラ(イギリス)

ホワイト(右)とチゾラは2年ぶりの再戦
写真◎Getty Images

 アンソニー・ジョシュアを追うライバルのホワイトが、因縁の再戦に臨む。チゾラとは2年前に対戦し、ともに死力を尽くした激闘を演じた。2-1判定でホワイトの勝利が告げられると、会場からはブーイングも巻き起こった。その後、幻のWBAチャンピオン、ルーカス・ブラウン(オーストラリア)を失神KOに追いやり、さらに前WBOチャンピオンのジョセフ・パーカー(ニュージーランド)に判定勝ちと順調にトップへのステップを踏む。そんなホワイトも、この対戦は避けては通れない。

 チゾラは34歳のベテランになった。タイソン・フューリーに2敗、デビッド・ヘイにもTKO負けするなど負けが込んできたが、人気に衰えはない。今回の試合にも渾身の戦いを見せるはずだ。

ディリアン・ホワイト:30歳/25戦24勝(17KO)1敗
デレク・チゾラ:34歳/37戦29勝(21KO)8敗

★WBC世界フライ級タイトルマッチ12回戦
クリストファー・ロサレス(ニカラグア)対チャーリー・エドワーズ(イギリス)

 比嘉大吾(白井・具志堅)をTKOに破り、日本からタイトルを持ち帰ったロサレスが、初防衛戦に続いて再びイギリスで戦う。8月のパディ・バーンズ(アイルランド)戦では、圧倒的な強さを見せた。2年前、プロ9戦目での世界初挑戦でIBF世界フライ級王者だったジョンリール・カシメロ(フィリピン)にTKO負けしているエドワーズは、その後は5連勝3KOだが、勢いに乗るロサレス相手では少し荷が重いか。

ロサレスはV2戦もイギリスで
写真◎Getty Images

挑戦者エドワーズは5連勝中
写真◎Getty Images

クリストファー・ロサレス:24歳/31戦28勝(19KO)3敗
チャーリー・エドワーズ:25歳/14戦13勝(6KO)1敗

■不敗ブアティに厳しいテスト

無敗のブアティは試練の一戦
写真◎Getty Images

 リオ五輪銅メダリストでプロでは8連勝(6KO)中のジョシュア・ブアティ(イギリス)が早くも試練の戦いを迎える。WBAインターナショナル王座を賭けて戦うレナルド・クィンラン(オーストラリア)は容易な相手ではない。WBA・IBFのミドル級チャンピオンだったダニエル・ギール(オーストラリア)を2回でKOして引退を決意させ、クリス・ユーバンク・ジュニア(イギリス)にも食い下がった。ここまではスーパーミドル級での実績だが、ライトヘビー級でもオーストラリア期待のダミアン・フーパーから2度のダウンを奪っている(TKO負け)。

 ガーナ生まれのブアティはオーソドックスなボクサーパンチャーで、そのパンチはキレッキレ。ただし、あまりに行儀のよい戦い方で、キンランにかき回されたらどうなるか。

 この日はもうひとり、アフリカ生まれ、イギリス育ちのプロスペクトが出場する。ミドル級のリナス・ユードフィアだ。こちらはナイジェリア・ルーツの25歳。11戦全勝5KOと、まだ試験中ながら潜在能力は高いとされる。

 このカードはShowtime boxing internationalというメディアでストリーミング配信される。

■アジアのスター候補が登場

 22日はアジアでも次世代スターの試合が組まれている。

 フィリピンのセブではクリスチャン・アラネタが格下相手ながら出場。16戦全勝14KOのアラネタは、サウスポーの強打者。試合作りの全景はやや粗いが、右フック、左アッパーにはずば抜けた破壊力がある。日本の精鋭たちのライバルとしてクローズアップされる可能性もあり、要注意だ。

タイのバンプンでの東洋太平洋スーパーライト級シルバータイトル戦に出場するアピチェット・ペッチマニー(タイ)はプロ2戦目。アマチュア経験豊富でAIBA主催のセミプロリーグWSBにも参戦経験がある。きれいなボクサー型ながら、いきなり放り込む左フックは魅力的だ。対するのはやはりタイ人の**サダディー・スリムアン**。8戦全勝6KOのサウスポーだ。ボクシングの質ではアピチェットがかなり上回っているように見えるが、プロ経験の差は気になる。

■ロシアに中央アジアの精鋭が集まる

 23日、ロシアのモスクワではロシア国内、中央アジアの若手がこぞって登場する。とりわけ注目したいのはカザフスタンの3人だ。

 スーパーウェルター級のヌルスルタン・ザンガバエフは2016年、中国でのプロデビュー戦からいきなり10回戦。3戦目より拠点をカザフスタン、ロシアに移し、ここまで5戦全勝4KO。厚みのあるプレッシャーで追い込んでからの左フック、右クロスは鉄拳の如く。うまくキャリアが積めたら、おもしろい存在になる。

 スーパーミドル級のアイドス・イエルボスヌーリーはスタイリッシュなボクサー型。全体にやや堅さが残るが、ジャブ、右ストレートは強い。

 アリ・バローエフはクルーザー級のパンチャー。いかにも重いパンチを持つ。左フックのダブルなど、案外、細部にも手を加えられている。

■中国が脅威となる日は遠くない

 スローペースでも、中国はだんだんとレベルアップしている。新年1月5日、江蘇省蘇州で行われるカードは、地元のホープにはなかなかの試練となる。

 11戦全勝のゲー・ウェンフェン(葛文峰)はWBOインターナショナルとWBOオリエンタルのタイトルをかけてジーメル・マグラモ(フィリピン)と対戦する。マグラモはここまで22勝(18KO)1敗。唯一の敗戦はモハメド・ワシーム(韓国/パキスタン)に喫した僅差判定によるもの。31歳のゲはアムナット・ルエンロン(タイ)にも勝っており、ここでいい勝ち方をすればトップも見えてくる。

 この日はこの一戦を含めて10回戦以上が4組。いずれも地元選手にはタフなマッチメイクばかりだ。そういうことができるのも、今後の人材に自信があるからなのだろう。この市場、日本のボクシング界も放っておくのは、いかにももったいない。

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