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2018-12-14

【海外ボクシング】ウィークエンド・プレビュー カネロがついにMSGで戦う

写真上=ゴロフキン戦から3ヵ月で3階級制覇に乗り出すカネロ(左)
写真◎Getty Images

12月15日/ニューヨーク(アメリカ・ニューヨーク州)

★WBA世界スーパーミドル級タイトルマッチ12回戦
ロッキー・フィールディング(イギリス)対サウル・アルバレス(メキシコ)

 サウル“カネロ”アルバレスのDAZNデビュー戦は、異例の大規模興行となった。ニューヨークのスポーツ殿堂MSG(マディソンスクエア・ガーデン)で行われるイベントは、予定どおりなら全部で10試合。うち世界タイトルマッチが3。カーテンレザー(第1試合)から8回戦で合計104ラウンドにもなる。現役、元で世界チャンピオン経験者が8人。さらに有望新人あり、謎の女子チャンピオンありで、11試合契約合算3億6500万ドル(約400億円)で招いた大スター『歓迎スペシャル』の様相だ。もちろんメインのカネロ3階級制覇トライが目玉になっても、どれもこれもが現在のボクシングの在りかとその将来を占うカードばかりで、熱心なボクシングファンなら、とりあえず全部を見るしかない。

 それにしてもアルバレスは大胆である。あのゲンナディ・ゴロフキン(カザフスタン)との熱闘を制してからわずか3ヵ月で、キャリアにとってきわめて重要な戦いの臨むのだ。

身長差12cmのカネロ(左)とフィールディング
写真◎Getty Images

 もちろん戦前の予想は、カネロ有利に違いない。知名度が違いすぎる。しかし、試されるべき要点が多すぎて、では簡単に勝てますかといわれると「?」とするしかない。フィールディングはもともとライトヘビー級でプロデビューしたボクサー。この7月にドイツに遠征して、地元のタイロン・ツォイゲをTKOに下して世界タイトルホルダーになった。これが初防衛戦になる。身長188cm、リーチ191cmとカネロに比べればそれぞれ12cmも長い。

 メキシコのアイドルはそのハンディを乗り越えられるか、だ。ゴロフキン戦から91日で、これだけの体格差のある相手と戦う準備ができたのか。まずはそこが問われる。予想の根拠として、フィールディング唯一の黒星が初回TKO負けであったり、世界的に無名だからという理由なら、ちょっと甘い考えに過ぎる。

 フィールディングのその敗戦とは、現WBAスーパーチャンピオン、カラム・スミス(イギリス)に喫したもの。その試合前、有望視されていたのは、むしろフィールディングのほうだった。スミス戦後は5連勝。その間にも粘り強いフランス人、クリストファー・リブリースやジョン・ライダー(イギリス)相手に苦戦していることも評価を下げさせたのだろうが、危険な選手であることに変わりはない。

 カネロの鋭いステップ、パワーショットがそれでも上とみるのが確かに順当。フィールディングの長いボディを得意の左フック、右アッパーで叩き、中盤までに決着をつける公算が強い。ただし、序盤の判断を見誤って中途半端なラウンドを重ねると、思わぬ結末を招くかもしれない。

アルバレス:28歳/53戦50勝(34KO)1敗2分
フィールディング:31歳/28戦27勝(15KO)1敗

★IBF世界スーパーフェザー級タイトルマッチ12回戦
テビン・ファーマー(アメリカ)対フランシスコ・フォンセカ(コスタリカ)

スピードが売り物のファーマー(左)は早くもV2戦
写真◎Getty Images

 夏にオーストラリアでの王座決定戦に勝って、初めてワールドタイトルを手に入れたファーマーが早くも2度目の防衛戦に臨む。28歳のサウスポーが迎え撃つのは中米の頑張り屋フォンセカ。こちらは昨年8月、フロイド・メイウェザー対コナー・マクレガー戦の前座で、ウェイトオーバーのIBF王者ジャーボンタ・デービス(アメリカ)に敗れて以来、2度目の世界アタックになる。

 記録の上ならここ5年間無敗のファーマーは間違いなく実力者だ。低いKO率が示すように、決してパンチャーではないとしても、とにかく速い。的確なボディワーク、ステップワークは、観戦する側には小気味いい。初防衛戦のジェームス・テニーソン(イギリス)戦では、ボディショットを決めてTKO勝ちした。

 フォンセカはデービスの圧倒的なハイセンスの前に完敗している。まだ若く、伸びしろはあるし、長いパンチは不気味でも、ファーマーまで届くのかとの疑問もある。

 チャンピオンがハイスピードで攻防を支配していくはずだ。ボディブローがタイミングよく決まればストップ勝ちもありうる。次々に新しい局面へと展開させる、ファーマーのボクシング・テクニックを楽しみたい。

ファーマー:28歳/33戦27勝(6KO)4敗1分1NC
フォンセカ:24歳/24戦22勝(16KO)1敗1分

★WBA・IBF女子世界ライト級タイトルマッチ10回戦
ケイティ・テイラー(アイルランド)対エバ・ヴァルストロム(フィンランド)

女子のスター、テイラーもMSG登場
写真◎Getty Images

 アイルランドの国民的ヒロイン、テイラーが登場する。対戦するWBC女子世界スーパーフェザー級チャンピオンのヴァルストロムは38歳にして初めてフィンランド国外での戦いになる。

 ヴァルストロムは23戦不敗。保持するタイトルは4度も守ってきた。ただ、テイラーはこれまでの対戦者とは格が違う。アマチュアの無敵女王として、ロンドン五輪で金メダリストになり、女子ボクシングの発展に大きく寄与してきた。そのテンポの速い攻防に、ヴァルストロムはついていけるのか。

 順当ならテイラーが大差判定で王座を守るだろう。

テイラー:32歳/11戦11勝(5KO)
ヴァルストロム:38歳/23戦22勝(3KO)1分

カネロ戦が有力視される強打者レミュー
写真◎Getty Images

 元IBF世界ミドル級チャンピオンのデビッド・レミュー(カナダ)が、トレアノ・ジョンソン(バハマ)と12回戦を行う。カネロの次期対戦相手の有力候補とされるレミューは、危険なハードヒッターだ。パンチが当たれば、いつも豪快なKOシーンを造り出す。ただ、最近は単調な攻めが目立ち、きちんと距離を取って戦う相手には苦労するケースが多い。そういう意味ではジョンソンはもっとも苦手とするタイプである。ジャブで間合いを計り、しっかりと距離を作って戦うからだ。ただ、ジョンソンは34歳にして、これが16ヵ月ぶりの試合。そのあたりが勝敗のポイントになるかもしれない。

元王者サダム・アリは7ヵ月ぶりに復帰
写真◎Getty Images

 ニューヨークの人気者サダム・アリ(アメリカ)が帰ってくる。5月、メキシコのニュースター、ハイメ・ムンギアの猛攻にさらされてWBO世界スーパーウェルター級タイトルを失って以来のリングだ。相手のマウリシオ・エレラ(アメリカ)は、38歳の元WBA世界スーパーライト級暫定チャンピオン。こちらも1年半のブランクがある。手堅い技巧が売り物だったエレラだが決め手には欠ける。そういうタイプだったらステップで飛び回るアリはやりやすいのではないか。ウェルター級で再起するアリが、このクラスで活躍するための、そのキーワードを示す戦いだ。

 スリムな長身から繰り出す強打で不敗の16連勝(13KO)のライアン・ガルシア(アメリカ)、メリーランド大学で機械工学を学ぶ元トップアマのレイモント・ローチ(アメリカ)。ふたりの将来性豊かなスーパーフェザー級がそれぞれ出場する10回戦に注目したい。

 オーストラリアから進軍してきたスーパーミドル級ビラル・アッカウィ、11戦オールノックアウトの20歳バージル・オルティス(アメリカ=スーパーライト級)の戦いももちろん見逃せない。

12月14日/コーパスクリスティ(アメリカ・テキサス州)
“判定男”ラミレスは変身できるのか

★WBO世界スーパーミドル級タイトルマッチ12回戦
ヒルベルト・ラミレス(メキシコ)対ジェシー・ハート(アメリカ)

今度は倒せるか、ラミレス(右)
写真◎Getty Images

 地味だけど負けない。サスペンスはないけど強い。ここまで4度の防衛に成功しているサウスポー、ラミレスはそういう評価に満足してはいないのだろう。そろそろ脱皮を図りたいと、今回もKO宣言しての戦いだ。このハートとは昨年9月に対戦してダウンを奪って判定勝ちしている。今度はしっかり倒しきりたいところ。

 けれど、その前戦、採点上は激しく追い上げられ、結果としてポイントは接近していた。ラミレスも189cmの長身だが、ハートはそれ以上、191cmもある。やりやすくはない。さらに、自らが初黒星をつけたあと、北米タイトルを獲得するなど調子を上げてきている。

2度目の世界挑戦となるハートは父の夢を叶えられるか
写真◎Getty Images

 ハートの父ユージンは“サイクロン”というあだ名を持つ1970年代の伝説的な強打者。デビュー以来19連続KOを記録してセンセーションを巻き起こしながら、ついに世界タイトルマッチの機会にありつけなかった。息子はこれが2度目の世界戦。今度こそものにしなければ、トレーナーをつとめる父に報いることはできない。

ラミレス:27歳/38戦38勝(25KO)
ハート:29歳/25勝(21KO)1敗

 前座の女子8回戦にはリオ五輪ライト級銅メダリストのミカエラ・メイヤー(アメリカ)が出場する。ここまで8連勝(4KO)の彼女は、30戦のキャリアを持つカリスタ・シルガド(コロンビア)とグローブを交える。

 また、10代のホープが3人も登場する。注目はライト級のガブリエル・フローレス・ジュニア(アメリカ)だ。2016年のU-17全米選手権で優勝すると、シニアで戦うことなくアマチュアを卒業。17歳でプロに転向した。デビュー当時から話題を集めた多彩な攻撃は、11戦目(10勝5KO無敗)を迎えて、どこまで成長しているのだろうか。

12月15日/キエフ(ウクライナ)
ダラキアンが地元ウクライナでV2戦

★WBA世界フライ級タイトルマッチ12回戦
アルテム・ダラキアン(ウクライナ)対グレゴリオ・レブロン(ドミニカ共和国)

 ダラキアンはこれが2度目の防衛戦。今年2月、ロサンゼルス近郊イングルウッドで開催された軽量級の祭典『スーパーフライ』で初めてアメリカのリング登場。ベテランのブライアン・ビロリア(アメリカ)を大差判定で破って、初のタイトルをウクライナに持ち帰った。緩急を心得た戦い方から、硬質な右パンチ、そして対角の左ボディブローを得意とする。

 挑戦者のレブロンは36歳のベテランだ。過去2度、タイで世界戦を戦ったが、いずれもクロスファイトの末に星を落とした。

 ともに攻撃型だけに好試合になりそうだが、はっきりと堅実なダラキアンに分がある。

ダラキアン:31歳/17戦17勝(11KO)
レブロン:36歳/25戦21勝(16KO)4敗

12月15日/クライストチャーチ(ニュージーランド)
連敗のパーカーが再起戦

★ヘビー級12回戦
ジョセフ・パーカー(ニュージーランド)対アレクサンダー・フローレス(アメリカ)

母国で連敗脱出をはかるパーカー(右)はフローレスと対戦
写真◎Getty Images

 前WBO世界ヘビー級チャンピオン、パーカーにとって2018年は最悪の1年だった。アンソニー・ジョシュア(イギリス)との統一戦に敗れ、さらにイギリスのナンバー3、ディリアン・ホワイトにはダウン応酬の末に判定負け。

 それでも野心は尽きない。このカムバック戦を終えたら、イギリスをベースに戦い、再びトップを目指すという。26歳とまだ若い。スピード豊かで、右パンチは強烈だ。ラウンドを重ねると単調になるなど、まだ成長過程の課題も見える。フローレスがここ4年で4戦とイレギュラーな活動をしている中堅だけに、景気よく勝って再び勢いをつけたい。

パーカー:26歳/26戦24勝(16KO)2敗
フローレス:28歳/19戦17勝(15KO)1敗1分

 前座にはパーカーのアマチュア時代からのライバルジュニア・ファ(ニュージーランド)がWBOオリエンタルというローカルタイトルの暫定王座をかけてロヘリオ・オマール・ロッシ(アルゼンチン)と対戦する。15戦全勝8KOのファは身長196cm。以前は120kgを超える体重だったが、最近は110kg代半ばまで絞り込んでいる。やや緩慢だった動きは、これで改善できているだろうか。

まだまだあるぞ!注目カード

■五輪銀メダリスト、ネイビンが出場

 イギリスのボクシングはとても活発で、カネロ対フィールディング戦のあるこの夜も各地で試合が行われる。ロンドン市内ベスナルグリーンのライト級8回戦にはジョン・ジョー・ネイビン(アイルランド)が出場する。

 ネイビンは29歳にして10戦全勝5KO。まずはそこそこだが、これは故障によって一時、アクティブな活動ができなかったため。アマチュアではそうそうたる戦歴を誇る。オリンピック2度出場で、北京ではベスト8、ロンドンで銀メダルを獲得。世界選手権でも2つの銅メダルを手にしている。戦うアイリッシュそのままに、厳しいアタックを身上とする。ただし、打たれもろい一面があり、そこが今後の成長力に影響を及ぼすかもしれない。

 ネイビンと対戦するレイナルド・カヒナ(ニカラグア)の戦績は14勝(10KO)55敗5分で現在27連敗中。ここ5年、イギリスに拠点を移してから勝てなくなったが、これはこれで驚きの数字ではある。

■スター候補、デュボアの欠場は残念

 イギリス東部エセックスでは、フランク・ウォーレンがプロモートする興行が行われる。ウォーレンはDAZNにカードを提供するエディ・ハーンのライバルで、40年近くイギリスのトッププロモーターの座を守ってきている。この日のイベントもESPN+でアメリカにも中継される。

 この夜、ウォーレンが擁する若手がずらりと勢揃いするはずだった。『はずだった』とは、つまり目玉中の目玉がプログラムから削られたからだ。ダニエル・デュボア(イギリス)という21歳のヘビー級だ。9戦9KO勝ちで、ジョシュア、ワイルダー、フューリー3強の現在の次に彼の時代が来ると多くの関係者が予言する。この日、世界挑戦の経験もある202cmの巨漢ラズバン・コジャヌ(ルーマニア)と対戦する予定だった。だが、インフルエンザにかかってしまって、残念ながらカードから離脱したもの。

 イベントはそのまま行われる。サニー・エドワーズハービー・ホーン(ともにスーパーフライ級)、ウィリー・ハッチンソン(ライトヘビー級)、ライアン・ガーナー(スーパーフェザー級)らウォーレン自慢の若手の戦いがテレビやPC画面に踊るはずだ。

■40歳ブレーマーが再起

ブレーマー(右)はブラントに勝って以来のリング
写真◎Getty Images

 WBAとWBOの元世界ライトヘビー級チャンピオンユルゲン・ブレーマー(ドイツ)がカムバックする。ハンブルグのカードの8回戦でパブロ・ダニエル・サモラ・ニエバス(アルゼンチン)と対戦するもの。

 WBSS(ワールドボクシング・スーパーシリーズ)に出場して、この10月に村田諒太(帝拳)からWBA世界ミドル級タイトルを奪ったロブ・ブラント(アメリカ)に1回戦で快勝しているブレーマー。負傷でトーナメントを離脱して、この日が14ヵ月ぶりのリングになる。サモラ・ニエバスも37歳だけに、ブレーマーの現在のコンディションを測る一戦になる。

■チェチェンの狼がプロ初陣

 注目の新人が12月15日、カナダ・オンタリオ州トロントでデビューする。23歳のスーパーライト級モフラディン・ビヤルスラノフ(カナダ)だ。リオ五輪にはアルトゥール・ビヤルスラノフの名前で出場しベスト8で敗退しているが、2015年パンアメリカン大会では金メダルに輝いた。当時から「プロとしてもっとも魅力的な素材のひとり」と評価されていた男だ。

 話題性はそのボクシングのみならず、素性にもある。ロシア連邦ダゲスタン共和国マハチカラ出身。その血はロシア本国との戦いに明け暮れるチェチェンにある。アマチュア時代のあだ名“チェチェン・ウルフ”はその出自に由来する。マハチカラもまた内乱にさらされ、彼とその家族はアゼルバイジャンに逃れ、さらにカナダに移住した。そして格闘家の兄に触発されてボクシングを習うようになり、やがて頭角を現す。

 リオ五輪でのカナダチームはたったふたりの出場だった。女子フライ級のマンディ・ビジョルドの敗北とともに、まことに不運な判定だった。激高したカナダ・ボクシング連盟が、言葉をきわめた抗議文を公にして話題にもなった。

 五輪終了後、その去就が注目されたが、大きな大会から姿を消した。その間に大学で心理学を学び、この夏、カナダのナショナルチームにプロ転向の意思を伝え、準備を進めていた。

 力強いボクサーパンチャー型で、鋭い連打が素晴らしい。経験を積んで上位に進出してきてほしい。

文◎宮崎正博

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