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2023-05-12

【連載 大相撲が大好きになる 話の玉手箱】第9回「ウソでしょう」その2

平成24年九州場所2日目、千代の国-玉鷲戦は投げの打ち合いとなり、千代の国(奥)のマゲが一瞬早く土俵についた

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世の中はさまざまな矛盾にあふれています。
にわかには信じられないこともいっぱいです。
大相撲界にも「それ、ウソでしょう」と思わず頬をつねり、聞き直したくなる話があちこちに転がっています。
そんな信じられない、ホントの話を集めてみました。
※月刊『相撲』平成31年4月号から連載中の「大相撲が大好きになる 話の玉手箱」を一部編集。毎週金曜日に公開します。

大銀杏は付け毛

マゲは力士の象徴、シンボル。どこにいても、マゲをみれば「あっ、お相撲さんだ」とわかる。あの力士たちが大事にしているマゲ、みんな、自分の毛、つまり自毛で結っている、と思うでしょう。ところが、違うんですよ。
 
平成24(2012)年九州場所2日目、西前頭14枚目の千代の国は東前頭16枚目の玉鷲と対戦。目まぐるしい攻防を経て、千代の国の右上手投げ、玉鷲の左掬い投げの打ち合いになり、両者ともほぼ同時に頭から落ちた。軍配は玉鷲に上がったが、当然のことながら物言いがつき、協議の結果、やはり玉鷲の勝ちになった。千代の国のマゲの先がわずかに早く土俵に着いていたのだ。
 
負けた千代の国はがっかり。肩を落として引き揚げてくると、

「ダメですね。ダメダメ。今日は立ち合いから負けていました。ずっと劣勢で、苦し紛れに打ったワザは効かない」
 
とため息をつき、次の瞬間、意外なことを打ち明けた。

「ああ、また(土俵に)落ちた拍子に大事な毛が抜けてしまった。実は自分の髪、量は多いんだけど、天然パーマで、途中で切れてしまうんですよ。だから、大銀杏を結うとき、他の力士からもらった付け毛をつけるんです。これ以上抜けたら、マゲが結えなくなるよ」
 
エエッ、だ。ま、人には人それぞれの、他人には分からない事情ってものがある。こういうのを、きっとこういうんでしょうね。髪(神)のみぞ、知るって。

月刊『相撲』令和元年12月号掲載

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