写真上=クルーザー級最強を誇るウシク。ヘビー級進出の期待も大きくなってきた(写真◎Getty Images)
ボクシングの『知性』が、縦横に張り巡らされた見事な戦いだった。10日、イギリス・マンチェスターで行われた主要4団体統一世界クルーザー級タイトルマッチ12回戦である。チャンピオンのオレクサンダー・ウシク(ウクライナ)がチャレンジャーのトニー・ベリュー(イギリス)を8回2分ちょうどでノックアウトし、通算7度目の防衛を果たした。あまりにも豪快なフィニッシュもむろんながら、それまでの展開が実におもしろかったのだ。(文/宮崎正博)
ウシクの実力、安定感はプロ16戦(全勝12KO=この日の結果を含む)のみですでに証明されている。ただし、プロとしての魅力については批判的な声も少なくない。
身長190cmのサウスポーはとにかく安全運転に過ぎる。動きは抜群にいいし、スピードもあるのだが、その攻めはすべて自分の安全圏からのもの。そんなチャンピオンに対し、ベリューは「アウトボクシングをやらせない」と宣言してリングに向かった。
クルーザー級のWBC王座を放棄してヘビー級に上がり、元チャンピオンの人気者デビッド・ヘイ(イギリス)を2戦連続でTKOに下しているベリューは、ウシク相手に徹底したカウンターアタックを仕掛ける。ウシクの攻め終わりを待って強烈な右ストレートを見せた。
ウクライナ人はだから、挑戦者を攻めきれなかった。4回にはのっけに左ストレートで相手をぐらつかせたが、ラウンド半ば、下がるベリューを追ったところに右カウンターを食って、いったん自分の防衛ラインを再確認せざるをえなくなった。
ベリューのほうはラウンド終盤に手数をまとめて印象点のアップにとりかかる。ポイントの上では微妙ながらも、ペースはベリューの手の中にあった。

強烈な左でべリューを沈めたウシク(写真◎Getty Images)
流れが急変するのは7回だ。ウシクの波状攻撃が一気に加速する。右ジャブがクリーンヒットして、ベリューの心理をかき乱した。常に退いて戦っていたベリューは、戦いが自らの優位で進んでいるとは確信できていない。だから、前に出る。そうなると、ウシクの左右の動きが活きてくる。速いコンビネーションがうなりを上げる。いつもなら、それでも『安全第一』のウシクだが、今回は次のラウンドでビシッと決めた。ベリューの手立てを切り崩し、危険な右パンチの軌道とタイミングを読み切ったからこそできたことだ。
ウシクの左ストレートがジョーをかすめる。ベリューが立ち尽くしたその一瞬を見逃さない。すかさずワンツー。最後の左をアゴに命中させると、挑戦者の191cmの体が吹っ飛ぶ。ロープ最下段で頭部をバウンドさせたベリューはそのまま立ってこなかった。
ボクシングとはおもしろいもので、ただの一撃でその評価を一変させる。WBSSファーストシーズンで強打のマイリス・ブリエディス(ラトビア)、ムラト・ガシエフ(ロシア)と連勝して優勝しながらも、反応はいまひとつだったのに、今回はまるで違う。『年間最高選手』という声もあったし、ヘビー級戦線の強力なタレントとしてクローズアップされ始めた。

クルーザー級ではすでにWBSSを制覇し、4団体も統一。次なる野望はヘビー級か(写真◎Getty Images)
試合直後に引退を表明したベリューは、「ウシクは史上最強のクルーザー級だ。イベンダー・ホリフィールド(アメリカ)がしたように、彼がクルーザー級からヘビー級王者になるのを見てみたい」と勝者を絶賛する。記者たちも同じだった。ヘビー級への興味のあるなしに、ウシクへの質問は集中する。
「この1年は自分にとって大変な1年だった。今は家族とともに休みたい。将来のことを考えるのはそれからだ」
と、いったんはかわしたウシクはこうも続けた。
「そんな質問をしてくる記者の人たちもプロフェッショナルだから、分かっているはずだ。(ヘビー級転向のためには)もっと準備が必要だ。でも、世界ヘビー級チャンピオンは私の夢だ」
記者たちが熱望したアンソニー・ジョシュア(イギリス)戦実現の話は先延ばしになった。ただ、ウシクのスピードと技術が、身長2メートル周辺、体重100キロ越えがレギュラーになったヘビー級に通用するのか。あまりにも興味深い。ウシクの決断が待ち遠しい。
それにしても今回の試合だ。考え抜いた手段で対戦者の美点を盗み取る。盗まれた側は、また考えて、とげの殻から栗の実を引き出すように料理した。そんなボクシングの駆け引きという面白さを存分に堪能するには、ライブで見るのが一番。この放送をストリーミング放送してくれたDAZNに感謝するしかない。
さて、次は12月2日。デオンテイ・ワイルダー(アメリカ)対タイソン・フューリー(イギリス)の対決。今度はWOWOWの前に全員集合だ。
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