写真上=互いに負けられない一戦は、正木(右)の攻める姿勢が評価される形となった
写真◉小倉元司
スーパーフェザー級の日本ランカーが対した8回戦は、7位の正木脩也(帝拳)が2位にランクされる富岡樹(REBOOT)に2-1のスプリットデシジョンできわどく競り勝った。
ボクサーにとって敗北は大きすぎる経験だ。それが2つ、3つと重なると、なおさらキャリアの考えどきにもなる。この日の両者はまさに同じ境遇にあった。
正木はこの1月、三代大訓(ワタナベ)にダウンを奪われて敗れ、デビュー以来の9連勝はストップした。三代がその後、東洋太平洋チャンピオンになるだけに、あまりにも痛すぎると考えたはず。
一方の富岡はもっと厳しいセットバックだった。前戦で東洋太平洋ライト級王者、中谷正義(井岡)に挑み、ポイントをリードしながら終盤11回に逆転TKO負け、ここで星を落とせば、正木はタイトル挑戦圏内から除かれ、富岡もまた再度のチャンスは遠のく。だから、ともに負けられない。
しかし、両者の攻防はまったく噛み合わない。いや、それこそが富岡の戦法だ。距離を大きく取って、ジャブや左フックの単打でポイントをすくい上げるのだ。それでも、あまりに攻撃数が少なすぎる。正木はよりビジーに戦った。右をボディに伸ばし、カウンターで顔面も狙った。富岡はこれを得意の足さばきで空転させるが、自身のパンチがヒットするのは各ラウンドで数発に過ぎない。
結果的には富岡の戦法があだになる。5回、右目上をカットしてから、両者の距離が縮まり、正木の攻勢がアピールされることになる。どのラウンドともあまりに微妙だったが、クリーンヒットに大差がなければ、より戦おうとした選手にとジャッジの心証は動くのだ。
「相手はパンチを当てたとアピールするのがうまい。ジャッジがこちらのボディブローにポイントを振ってくれてるかどうか、ちょっと心配でした」
勝因は無心の戦闘意欲。三代戦はダウンを奪われた後、考え過ぎて何もできなくなった。今度も難しい試合だったが、考え過ぎずに戦い抜けたという。一時は名門ジムを背負って立つとも評価されたホープ、正木が敗北で作った殻を破れたか。
「早く末吉さん(大=同じ帝拳ジムの日本スーパーフェザー級チャンピオン)に追いつきたいです」と目標を掲げた正木は続けた。左目下にできた黒いクマを指さして、「これは相手の右がかすめて、擦れただけ」と強気をちらり。次はもっと頼もしい戦いを見せてほしい。
文◉宮崎正博
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