アメリカンフットボールの日本社会人「Xリーグ」は12月17日、富士通スタジアム川崎でXリーグ昇格を掛けた入れ替え戦2試合を行った。警視庁イーグルス(2勝4敗、Xリーグ総合16位)対電通クラブキャタピラーズ(4勝1敗、X2東2位)は、電通が延長タイブレークの末、17-14で警視庁を破った。電通はチーム史上初めてXリーグ昇格を決めた。BULLSフットボールクラブ(0勝6敗、Xリーグ総合18位)対ブルザイズ東京(4勝1敗、X2東1位)は、ブルズが31-20でブルザイズを破り、Xリーグ残留となった。
2年前にも入れ替え戦で対戦し、延長タイブレークの末、警視庁が逆転勝ちした両者の対決。今回は、電通が勝利して、悲願の1部昇格を決めた。先制は警視庁、第1クオーター4分、RB金子俊章の12ヤードランでタッチダウン(TD)を挙げた。電通は先発QB山城拓也のパスが好調で、同9分にWR岩田徹へのTDパスが決まって同点とした。
後半に入って、第3クオーター10分、警視庁RB富澤友貴が、ゴール前1ヤードを潜り込むようにしてTDを決めたが、第4クオーター6分に電通は山城がWR下段亮太にTDパスを決めて、同点とした。その後は両チームとも攻撃に決め手を欠き、延長タイブレークに。電通は、1回表の攻撃で山城のパスでレッドゾーンに侵入、K山本恭聖が26ヤードのフィールドゴール(FG)を決めた。その裏、警視庁も26ヤードのFGを狙ったが、スナップが乱れホルダーがボールをきっちりセットできなかった。K宮原亮太はボールを蹴ったが、バーに届かず失敗。電通がチーム創設以来初のXリーグ昇格を決めた。警視庁は、Xリーグ在籍3シーズンで再びX2へ降格となった。
電通勝利の立役者は、QB山城だった。Xリーグで今季2勝を挙げ、「バトル9」では最強のオール三菱ライオンズとも互角に戦った警視庁の強力ディフェンスの前に、電通のランオフェンスは、ほぼ封じ込まれた。しかし山城が、巧みなパスをレシーバーに決めてオフェンスをキープした。警視庁ディフェンスがカバーしていないレシーバーに、オンタイミングで、キャッチボールのようなパスを次々に決めた。電通のファーストダウン14回中、13回がパス。山城のパス成績は20/34で成功率は6割に満たなかったが、電通レシーバー陣の落球がなければもっと数字は伸びていたはずだ。
本来はもう一人のQB多川哲史と、交互に出場する予定だったが、多川が欠場したため、山城が一人で乗り切った。電通は、フィールドがよく見えるスタジアム上部からディフェンスを分析するスポッター席は無人だった。山城は、スカウティングとプレスナップリードで、警視庁のパスディフェンスを読み切って、パスを決め続けたのだった。山城は「LBの裏に落とすのは得意。今日はその持ち味がちゃんと出た。きっちりリードしてボールをポイントに落とせばレシーバーは捕ってくれると思っていた」という。
山城は、今年のクリスマスに31歳となる。日本大学時代はパスの天才と言われたが、3年生の春、関西学院大学との定期戦で大怪我をした。その影響で、いまでも左腕は右腕に比べ目に見えて細い。しかし、過酷なリハビリを経て復帰、4年生では日大のエース番号「10」を付けた。鹿島ディアーズでは、加入年の2009年シーズンにライスボウル優勝、その後はダブルエースQBとして、加藤翔平と共に、オフェンスをけん引した。
鹿島がディアーズ運営から撤退した2013年シーズンの終了で、山城も一度は現役を引退した。一年間コーチを務めたあとディアーズからも離れた。電通にはコーチ兼QBとして頼まれた。いやとはいえず、2015年秋から現役復帰して参加した。2年前の入れ替え戦は「少ししか出場できなかった」という。
今季は元IBMビッグブルーの多川や、同志社大出身の大型パサー永井啓輔とプレー機会を分け合っていたが、シーズン中盤から山城がエース格となった。とは言え練習は週一回。パスの冴えは鹿島時代から代わらないが「ボール(の球速)はやはり遅くなりましたね」という。
山城が在学中、日大は一度だけ甲子園ボウルに出場している。10年前の2007年12月16日だ。しかし山城は負傷中で、QBは一年後輩の平本恵也(富士通フロンティアーズ)が務めた。日大は関学大と死闘を繰り広げ38-41で敗れた。それだけに母校と、そして甲子園ボウルへの思いは強い。
そして、ちょうど5年前の2012年12月17日は、ジャパンXボウルで、オービックシーガルズと対戦、最強オービックディフェンスを相手に、敗れはしたもののパス300ヤード2TDを記録した。オービックQB菅原俊相手に引けを取らないパフォーマンスを見せた日でもある。
この日、勝利を決めた時間帯、「赤対青」の甲子園ボウルが始まっていた。インタビューの中でも「めちゃくちゃ気になりますね」と語った山城。「今日の試合、自分では『裏の甲子園』と呼んでいました。勝てて本当に良かったです」と話した。
最後に、昇格後の来季もプレーを続けるのか尋ねた。「やります。フィジカルは以前ほどではないが、目は大丈夫なので」と、山城は即答した。「鹿島のメンバーは大好きだったけど。今のこのチームのメンバーも大好きになったので、このメンツで(Xリーグで)戦うのが楽しみ。人も増えてくれたら嬉しい」。
3万6千人の大観衆が詰めかけた甲子園球場、日大はスーパー1年生QB林大希の活躍で、27年ぶりの甲子園ボウル優勝を決めた。同じ日、観衆800人の富士通スタジアム川崎で、来季が社会人10年生となる日大「栄光の10番」の先輩も輝きを見せた。QBは続けるほどに熟成する。それがフットボールの醍醐味の一つなのだと改めて実感した。【小座野容斉】
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