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2024-04-16

【連載 泣き笑いどすこい劇場】第23回「負ける」その4

琴欧洲に転がされ、連勝が33でストップ。うつろな目で立ち上がる白鵬(平成21年夏場所14日目)

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勝つための努力を惜しむ力士はいません。
平成24年名古屋場所14日目、夏場所の覇者、旭天鵬がようやく長い連敗のトンネルをくぐり抜けて初白星を挙げ、「優勝したときと同じぐらい嬉しいよ」と大喜びしていましたが、力士にとって、勝つことは無上の喜びであり、人生を肯定することでもあります。
でも、悲しいかな、勝負ですから、勝つときばかりではありません。
ただ、負けたとき、力士たちが垣間見せる表情は勝ったとき以上に個性豊かで、時には人生の真髄に触れたような思いをさせられることもあります。
そんな負け力士のエピソードを集めました。
※月刊『相撲』平成22年11月号から連載された「泣き笑いどすこい劇場」を一部編集。毎週火曜日に公開します。

連勝ストップ

負けは力士を哲学者にもする。平成21(2009)年夏場所14日目、白鵬(現宮城野親方)は大関琴欧洲(現鳴戸親方)に上手投げに敗れ、その年の初場所11日目の魁皇(現浅香山親方)戦から続いていた連勝が33(昭和以降8位)でストップした。2場所ぶりに背中に砂をつけて引き揚げてきた白鵬は、

「(前日、裾払いで日馬富士に快勝し)若干、心に隙があったのかもしれない。いまだ木鶏たりえず、木鶏になれずです」

と尊敬する双葉山の“イマダ木鶏タリエズ”をなぞって話した。たとえ横綱でも、毎日、平常心で土俵に上がるのは、至難のワザなのだ。翌22年九州場所2日目、今度は東前頭筆頭の稀勢の里(現二所ノ関親方)に寄り切られ、双葉山の69連勝にあと6勝と迫る63連勝で止まった。5場所ぶりの負けだった。

土俵下に転げ落ちたとき、一瞬、薄笑いを浮かべた白鵬は、あのとき、何を思ったか、と聞かれ、こうポツリともらした。

「これが負けかって」

その夜、白鵬は明け方の4時まで一人ベッドで韓国映画をボーッと見て過ごしたという。力士は負けを乗り越えることで進化する。

月刊『相撲』平成24年9月号掲載

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