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2018-07-09

スポーツが実現する持続可能な社会。 グリーンスポーツ・アライアンスの挑戦

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6月下旬にアトランタで開催されてグリーンスポーツ・アライアンスのサミットに参加した。持続可能な社会の実現にスポーツが貢献する。日本を出発する前にはそのイメージはぼやけていたが、日を追うごとに徐々にその輪郭がはっきりしてきた。

グリーンスポーツ・アライアンスのサミットの会場になったのは、今、最もサスティナビリティなスポーツ施設であるメルセデスベンツ・スタジアム 写真:樋口幸也

メルセデスベンツ・スタジアムの先進性

 西日本を中心に大きな被害をもたらした大雨が、地球温暖化と関係していると断定することはできない。しかし、100人を超す死者を出した自然災害を目の当たりにして、持続的な社会を実現することの重要性について思いを巡らせた人は少なくないだろう。

サミットの前日に行われたアトランタ・ブレーブスの本拠地であるサントラスト・パークの視察。球場内にブリュワリーがあり、観客は出来たてのビールを飲むことができる。これも輸送における排出ガスの削減を目指したサスティナビリティに関する取り組みの1つ 写真:樋口幸也

 6月26日から3日間に渡り、アメリカのアトランタでグリーンスポーツ・アライアンスのサミットが開催された。グリーンスポーツ・アライアンスは、持続的な社会(サスティナビリティ)を目指した課題解決に、スポーツを通じて貢献することを目的に創設された非営利団体である。このカンファレンスに、グリーンスポーツ・アライアンスジャパンの澤田陽樹代表理事と参加した。

メルセデスベンツ・スタジアムの屋根は開閉式。カメラのシャッターのように8枚の屋根が同時に動くので、あっという間に開閉が完了した。建設費は16億ドル(約1800億円)。屋根の下に360度の円柱状LEDモニターがある 写真:樋口幸也

 今年のサミットのテーマは「PLAY GREENER™:ゲット・イン・ザ・ゲーム」。日本語に訳すと、「持続的な社会の実現に、より取り組もう! この活動に参加せよ」とでもなるだろうか。サミットは、この組織の年次総会のようなもので、持続可能な社会の実現に向けたセッションやワークショップが行われた。当時に、生分解性プラスチックを使った食器や水を流さなくても衛生的なトイレ、蓄電池やソーラーパネルなど、地球環境に配慮した製品が展示されていた。

WATERLESSと名付けられた男性用の小便器は、水を流さなくていいので、水の使用量を大幅に削減できる 写真:樋口幸也

 会場は、LEEDの格付けで、スポーツ施設しては最高位のプラチナを獲得したメルセデスベンツ・スタジアムだ。LEEDは、USグリーンビルディング・カウンシルが制定するラべリングシステムで、サスティナビリティの取り組みの建築物などについて4段階で評価している。

 メルセデスベンツ・スタジアムは、水を使わないトイレやLED照明、LEDモニター、ソーラーパネル、ゴミの分別などでサスティナビリティに関する様々な取り組みを行っている。例えば、フィールドの回りや屋根に取り付けられたLEDモニターは、立て看板に比べると初期投資は必要だが、長い目でみると廃棄物の削減に貢献する。

グリーンスポーツの波が、世界を巡る

「スポーツ施設のサスティナビリティを考えるときに、このスタジアムが基準になります」

 こう語るのは、グリーンスポーツ・アライアンスジャパンの澤田代表理事だ。

オープニングセッションであいさつするグリーンスポーツ・アライアンスジャパンの澤田陽樹代表理事 写真:樋口幸也

「その施設をこの目で見られて、設計したHOKという会社やスタジアムのトップとして運営しているスコット・ジェンキンスというグリーンスポーツ・アライアンスの会長と話ができました。ただ真似するのではなく、日本はどうやっていくのか、わかりやすいベンチマークを見つけました」

期間中、箏の演奏を披露した榎戸二幸さん。演奏が終わるとスタンディングオベーションが起こった 写真:樋口幸也

 マイクロソフト共同創設者ポール・アレンが2010年に設立したグリーンスポーツ・アライアンスは、多くのスポーツチーム、リーグ、スポーツ施設、支援企業、団体と連携が進んでいる。会員はプロチームや大学など400団体を超え、リーグも15団体以上で、関連企業、NPO団体、官公庁なども登録されている。前回のサミットに参加している澤田理事は、この変化を肌で感じている。

「グリーンスポーツ・アライアンスが力をつけてきたということを感じました。サミットの直前にNFL(ナショナル・フットボールリーグ)が参加したということもありますし、前回560人だった参加者が620人に増えています。それから、日本に我々の組織ができ、箏奏者の榎戸二幸さんの演奏がサミットの期間中に3回行われたこともあり、アメリカ国内にとどまるのではなく、国際化していくぞという意志も感じました」

サミットのメイン会場は、スタジアムの西側のスタンドに設けられた。外気は30℃を超えたいたが、開閉式のため、冷房がきいていて快適だった 写真:樋口幸也

サスティナビリティとスポーツの親和性

 サスティナビリティとスポーツ、一見結びつかないように思われるこの2つの親和性は実は高い。実際、アメリカの大学のサスティナビリティ・ディレクターを体育局の中に置いている大学は少なくない。サミットでは、アラバマ大やテキサス大、オハイオ州立大のフットボール強豪校の取り組みが紹介された。

「スポーツの多くは自然の中で行われので、環境を常に意識します。また、スポーツを愛する人たちは老若男女を問わない。スポーツのおける挑戦と、サスティナビリティという未来への挑戦は共通する部分が多いのです」

 澤田理事は、スポーツとサスティナビリティとの関係性をこのように表現した。

 日本では、2019年のラグビーワールドカップ、2020年のオリンピック・パラリンピック、そして、2021年の関西ワールドマスターズと、大きな国際大会が続く。これらのイベントが、どれだけサスティナビリティということを意識されているのだろうか。

Heal the World。マイケル・ジャクソンの遺言

 サミットの中で、スーパーボウルがこれまでどのようにサスティナビリティに取り組んできたのかについても紹介された。このセッションではメルセデスベンツ・スタジアムの隣にあったジョージアドームで24年前に開催されたスーパーボウルから、ゴミをゼロにするための活動が繰り続けられてきた努力が示された。

 そのセッションを聞きながら私は、その1年前にロサンゼルスのローズボウルで開催されたスーパーボウルのことを思い出した。ハーフタイムショーに登場したのが、当時、エンターテインメントの頂点にいたマイケル・ジャクソンだった。そのハーフタイムショーのテーマが、Heal the World、「世界を癒せ!」だった。1993年のことだ。

スーパーボウルが取り組んできた環境への活動。右のロゴマークは24年前(1994年)にアトランタのジョージアドームで開催された第28回スーパーボウルのもの 写真:樋口幸也

  当時は彼が何を言うとしているか、明確に理解できなかった。しかし、当時も地球は傷ついていた。キング・オブ・ポップがキャリアの最高点で、かつ、世界が最も注目するステージで発したメッセージが、サスティナビリティという言葉につながっているだと理解できた。マイケル・ジャクソンが、このテーマのステージをスーパーボウルのハーフタイムショーに設定したのは、スポーツの力を信じていたからではないか。

持続可能な世界の実現にスポーツが果たす役割は決して小さくない。スポーツそのものが、サスティナビリティの発信媒体となりうると、サミットに参加して感じた。

表彰式ではアワードに輝いたアトランタ・ファルコンズとMLSのアトランタ・ユナイテッドのオーナーであるアーサー・ブランク氏らにトロフィーが贈呈された。この盾は日本最大のトレイルランニングレース、UTMF(ウルトラトレイル・マウントフジ)のトロフィーと同じ。グリーンスポーツ・アライアンスジャパンの評議員で木工作家の吉野崇裕の手による 写真:樋口幸也

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