Xリーグ・レギュラーシーズン「強豪対決X(じゅう)番勝負」の「その4」は、9月24日、富士通スタジアム川崎で対決したLIXILディアーズ対アサヒビールシルバースターの対戦にスポットを当てたい。
第4クオーター5分、24対7とリードしたLIXILが、自陣ゴール前4ヤードからのアサヒビールのフォースダウンギャンブルを、パス失敗に追い込んだ。QB鈴木貴史からエンドゾーン内のレシーバー戸倉和哉に投げられたパスを叩き落としたLIXILのLB天谷謙介が、右手を掲げて歓喜を全身で表現しながらサイドラインに向けて走り出した。そして面白いシーンが見られた。サイドラインから走り出た小島健吾ディフェンスコーディネーター(DC)が、ジャンプして天谷と体をぶつけあうセレブレーションをしたのだ。タッチダウン(TD)を取った後などで、よく見られるパフォーマンスだが、選手とコーチ、それもコーディネータークラスがやるのは珍しい。
ただ、気持ちは理解できた。残り6分余りで3ポゼッションが必要な17点リード、LIXILボールのオフェンスとなる。事実上勝利が決まったと言ってよい。この時の気持ちを天谷は「サイドラインの方から(小島DCが)走り出てきたので、あー、来た来た来た。よし、という感じでやってしまった」と試合後に、笑顔で語ってくれた。アサヒビールのパスは、QBとWRは違うが、第3クオーターにTDを決められたときのプレーと同じで、今度はうまくカバーできて潰せたので最高の気分になったという。
小島DCは「大学(慶応)時代にデービッド(・スタントヘッドコーチ)と一緒にフットボールをやってきて、試合は、選手と同じようにコーチも楽しまなければいけないと教わって来た。いろいろな考え方が合って、サイドラインは一喜一憂しないほうが良いという考え方もあると思うが、僕は一喜一憂はあっていいと思っている」と語った。
近年、富士通やオービック、パナソニックには完敗が続くシルバースターだが、鹿島時代からディアーズ戦だけは、好勝負を展開することが多い。両チームの直近対決は2015年9月のリーグ戦だが、シルバースターが31-24で逆転勝ちしている。今季、選手登録をした新たな米国人選手3人は、この戦いには間に合わなかったが、ディアーズにも米国人選手はいない。10日の富士通戦では敗れたとはいえ、23点を奪った。一方でディアーズは富士通に27日の開幕戦で完封負けを喫している。シルバースターは相当に勝利を意識してこの試合に臨んだはずだった。
シルバースターのゲームプランははっきりしていた。ディフェンス&ボールコントロール。今やXリーグ指折りのパワーバックに成長したRB柳澤拓弥のランを軸とした攻撃だ。柳澤は富士通戦でもランでTDを奪うなど、上位チームとの対戦でも実績を積んできた。
その柳澤をディアーズの天谷、安藤彬、桑澤勇士らLB陣が徹底的に封じ込んだ。前半ラン7回でわずか12ヤード。うち3回はロスヤーデージに仕留めた。QB安藤和馬のパスはよく決まっていたが、柳澤のランでショートヤーデージを取りきれない局面が続き、本来ディープに走り込ませたいエースWRの林雄太をファーストダウンを取るための短いパスで使わざるを得ない展開となった。
ディアーズオフェンスは「相手に先制されないとやる気が出ない」と揶揄されたスロースタートぶりが消え、QB加藤翔平のパスとRB白神有貴のランで着々と加点した。シルバースターには、第3クオーターに1TDを許したもののその後の反撃を断ち切った。冒頭に書いた第4クオーターのゴール前ディフェンスでも、サードダウンでシルバースターQB鈴木から柳澤への外のピッチプレーを、きちんと潰していた。結局、ディアーズディフェンスはパスでは252ヤードを許したもののランプレーでは14ヤードしかゲインされず。QBサックも加算するとシルバースターのランは-4ヤードとなった。若きコーディネーターの指揮するディフェンスの見事な勝利だった。
「コーディネーター冥利に尽きる試合だったのではないか」と尋ねると、小島DCは「シルバースター戦に向けて何か特別なことをしてきたわけではない」という。 今年春からディフェンスで第一に考えてきたは、DLが速く動くことだという。「我々のチームは、オービックやIBMのような、体が大きくすごい力を持った米国人選手がいない。だから相手のOLよりも速く動くことしかない」という。LBもDLが動きやすいようにオフェンスの選手をマークする。DBも他チームに比べてアスリートはいないため、オフェンスとの距離感で勝負することだったという。「今日はそれが噛み合った試合だった」と語った。
柳澤封じに関しては「天谷さんや安藤さんたちLBがタックルして止めているように見えるが、DLがしっかり絡んでいて、柳澤さんがトップスピードでLOS(ラインオブスクリーメージ)を超えることは、ほぼ無かった。DLとLBがうまくかみ合ったことの証だと思う」と分析してくれた。
話をしていて感じるのは、自チームの選手にも相手チームの選手にも、だいたい敬称を付けることだ。それもそのはずで、小島DCはまだ24歳。慶応大学を卒業し、2016年からディアーズに加わった。有澤玄・前DCが法政大学ヘッドコーチとなったために今春DCに昇格したばかりなのだ。「選手は、ほとんどの皆さんが年上」だが、それをコーチングに生かしている。
「普通、選手からコーチに言いにくいことはあると思う。『このサインは、ちょっと違うじゃないか』と思っても、特に重鎮のコーチには言いづらい。でも、『僕にはどんどん言ってください』と言っている。それが今のディアーズの体制で勝てる方法なのではないかと思っている」という。
プレーをインストールしている段階では8割くらいの完成度で、実際の練習の中で選手からの意見を聞きながら100にしていくというやり方だ。「僕も選手の声を聞けるのはありがたいし、選手も『自分たちの作り上げたプレー』という意識を持ってくれている」。それが良い方向に回っていると信じている。
次節は、ノジマ相模原ライズが相手だ。ライズのQBデビン・ガードナーとRBシオネ・ホマをどうやって止めるか。若きDCの血は燃えているに違いない。【小座野容斉】
・37-7という大差になったが
・オフェンスが序盤から好調で得点を重ねた
・柳澤をほぼ完ぺきに止めた
・ディフェンスのQBサックやターンオーバーの後で、すかさず得点をした
・去年は逆転劇ばかりだった。
・次戦は、ノジマ相模原ライズが相手だ
・若い小島DCは、なかなかいい仕事をしている
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