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2024-10-18

【連載 大相撲が大好きになる 話の玉手箱】第23回「懸賞」その2

平成28年春場所5日目、宝富士は一歩早く踏み込み、白鵬のカチ上げを封じて勝ちにつなげた

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落ちぶれて、袖に涙のかかるとき、人の心の奥ぞ知る、という民謡の歌詞があります。
コロナ禍の中、ドタバタしながらもなんとか令和3年初場所が幕を開けましたが、初日直前の緊急事態宣言で観客数を急きょ、5000人に減らさざるを得ませんでした。
試練、また試練ですね。
でも、幕内の取組にかかる懸賞は、たった100本減っただけで1300本を数え、芝田山広報部長(元横綱大乃国)は「こんなときに、非常にありがたい」と涙を流さんばかりでした。
ところで、あの懸賞、手取りが1本3万円ですが、力士たちはいわゆる小遣いとしてではなく、実に上手に使っています。
そんな懸賞のおもしろい使い道を紹介しましょう。続編は後日。
※月刊『相撲』平成31年4月号から連載中の「大相撲が大好きになる 話の玉手箱」を一部編集。毎週金曜日に公開します。

守りの堅い宝富士

懸賞は計算外の臨時収入だ。となると、やはりこの使い道が一番じゃないでしょうか。白鵬(現宮城野親方)の張り手、カチ上げと言えば、横審から、

「見苦しい、見たくない」
 
とクレームをつけられるなど、これまで何度も問題になっているが、それが頻繁にみられたのが平成28(2016)年の春場所2日目から名古屋場所4日目にかけて33連勝したときだった。
 
この連勝を止めたのが5日目の西前頭2枚目の宝富士。いつものように白鵬が右を固めてカチ上げるところを、素早く立って体をぶつけるようにして封じ、右を差しながら出てくる出足を利用して左からの小手投げで転がしたのだ。
 
まさにしてやったりだった。足取りも軽く引き揚げてきた宝富士は、立ち合いにぶつかった衝撃で出血した鼻からの血をものともせず、

「昨日(4日目)、帰ってテレビを見ていたら、栃煌山(現清見潟親方)が(白鵬のカチ上げで)やられて鼻から大量に出血していた。痛そうだな、と思って、寝るとき、(カチ上げを)防ぐ方法を考えたんです」
 
と勝因をひとくさり。この一番にかかっていた懸賞は16本。合わせて48万円也だ。報道陣にその使い道を聞かれると、

「貯金します。自分は(相撲も、お金も)守り一辺倒ですから」
 
と言ってニヤリとした。
 
かつて懸賞をもらうと、一晩で使い切り、あとで税金に青息吐息する猛者が続出したため、懸賞の一部を相撲協会が天引きして預かり、税金に当てるようになった。これで心おきなく使うことができるようになったんですが、力士たちの気質も時代とともに変わってきたようです。

月刊『相撲』令和3年2月号掲載

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