Xリーグ開幕戦屈指の好カードと目された富士通フロンティアーズ対LIXILディアーズの一戦は、ライスボウル王者の富士通が、LIXILを大差で完封する予想外の展開となった。LIXILのQB加藤翔平は、試合開始から10回連続でパスを成功させるなど、むしろ調子は良かった。2回目のオフェンスドライブでは、オンタイミングでパスを次々と決め、富士通ディフェンス陣を翻弄。「今日も点の取り合いか」と思われた。富士通の藤田智ヘッドコーチ(HC)が語ったように、試合序盤で起きたターンオーバーが流れを決めた面はもちろんあった。しかし、そのモメンタムをしっかりと掴み、試合の最後まで離さなかったのは、LB鈴木將一郎とK西村豪哲という2人のベテランの働きによるところが大きかった。
第1クオーターに14点を挙げた富士通だが、オフェンスはその後のドライブで敵陣に入ってから攻めあぐみ、3回続けてタッチダウンに至らず、フィールドゴール(FG)トライとなった。西村はそのすべてをしっかり決めた。第2クオーター6分のキックは距離47ヤード、第3クオーター2分のキックは40ヤードと難しい距離だったが、蹴られたボールは美しい放物線でポストの真ん中を通過していった。
長年富士通のエースキッカーとして君臨してきた西村は10月に32歳になる。昨年は、日体大時代からコンビを組んできたホルダーの藤田篤が負傷で長期欠場。急造ホルダーとの微妙なタイミングのずれに苦しんだ。それに加え、学生時代から愛用してきたシューズが廃版となり、その違和感とも戦っていた。この秋から藤田とのコンビが復活。さらに、シューズも、新しいメーカーからサポートを受けており、オーダーして作ってもらったものがフィットしてきたという。
富士通QBコービー・キャメロンと対戦するディフェンスは、「FGで済んだ」と考えてしまいがちだが、着実に3点ずつリードを広げられるのは真綿で首を絞められるのに似ている。後半開始2分で3TDでも追いつくのが困難な23点差となった。このリードがあったから、富士通は、狙いを絞った、よりアグレッシブなディフェンスを展開できるようになった。
ディフェンスを引っ張ったのはLB鈴木だ。切り札的存在のLBトラショーン・ニクソンの反対側のアウトサイドを任された鈴木は、スピードあふれるエッジラッシュで、QB加藤を追い回した。選手の中では唯一人の1970年代生まれで、11月に38歳となる鈴木の動きに触発されるように、ディフェンス陣が加藤にプレッシャーをかけ、LIXILの第3クオーターのオフェンスは-19ヤード。富士通ディフェンス陣の運動量は最後まで落ちることなく、LIXILのハイスコアオフェンスを12年ぶりの無得点に抑えこんだ。
鈴木は、昨年は主将としてチームを日本一に導いたが、一方で選手としては出番が減った。ニクソンに加え、日本代表の竹内修平、187センチ112キロとNFLサイズの大橋智明、パートリーダーの海島裕希と、富士通LB陣はリーグでもトップクラスの陣容を誇る。年齢を考えずとも、出番が減るのは致し方ないところだ。
しかし、鈴木の考えは違っていた。「昨シーズンはキャプテンとの両立で頑張ったからとか、いろいろ周囲は言ってくれたが、試合に出られないという現実にうっぷんがたまっていた」という。春も試合に出ず、トレードマークのような丸刈りから髪をふさふさと伸ばしサイドラインに佇みながら「自分が生きられる場所は何かな」と考え続けたという。「3-4ディフェンスで、ニクソンの逆サイドのOLBという役割を貰って、それが合っていた。自分が攻めることのできるストロングポイントをどうやって売り出していくかに注力できるようになった」という。
鈴木は今の体重は86キロだが、絞った結果ではなく、負傷などで練習ができずに体重が落ちてしまったからだという。「周りのみんなは、春からプレーしてきて、夏仕上げてこの初戦に臨んだと思うけれど、僕は夏前から初めて、ようやくちょっとずつスピードに乗ってきたかな」という状態。「秋が深まるにつれて、もっともっとギアを上げていけるようにやります。竹内、大橋、海島、みんなむちゃくちゃいいけど、負けられないんで」と力強い言葉で締めくくった。
期待されながら勝てない時代が続いた富士通を支えてきた鈴木と西村。キャメロンやニクソンら強力な米国人の存在に目を奪われがちだが、彼らのようなベテランが、連覇を狙うチームの芯となっている。
【写真・文:小座野容斉】
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