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2024-11-08

【連載 大相撲が大好きになる 話の玉手箱】第23回「懸賞」その5

平成28年秋場所7日目、髙安(右)は鶴竜を破り11本の懸賞を獲得した

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落ちぶれて、袖に涙のかかるとき、人の心の奥ぞ知る、という民謡の歌詞があります。
コロナ禍の中、ドタバタしながらもなんとか令和3年初場所が幕を開けましたが、初日直前の緊急事態宣言で観客数を急きょ、5000人に減らさざるを得ませんでした。
試練、また試練ですね。
でも、幕内の取組にかかる懸賞は、たった100本減っただけで1300本を数え、芝田山広報部長(元横綱大乃国)は「こんなときに、非常にありがたい」と涙を流さんばかりでした。
ところで、あの懸賞、手取りが1本3万円ですが、力士たちはいわゆる小遣いとしてではなく、実に上手に使っています。
そんな懸賞のおもしろい使い道を紹介しましょう。続編は後日。
※月刊『相撲』平成31年4月号から連載中の「大相撲が大好きになる 話の玉手箱」を一部編集。毎週金曜日に公開します。

懸賞はすべて父へ

力士たちはおしなべて孝行者だ。親孝行したいので入門した、という力士も少なくない。
 
平成28(2016)年秋場所7日目、東関脇の髙安は横綱鶴竜(現音羽山親方)に得意の左四つになり、右を巻き替えに来たところをセオリーどおり攻め込んで寄り倒し、5勝目を挙げた。残念ながら関脇なので金星にはならなかったが、この日を境に6連勝し、二ケタ勝ち星に乗せるきっかけとなる貴重な勝ち星だった。しかし、引き揚げてきた髙安は淡々としたもの。

「まあ、たとえ相手は誰でも白星に変わりはないですからね。ただ、前に出て勝てたのは、すごく自信になりました」
 
と横綱を食ったばかりとは思えないような顔で振り返ったが、獲得したばかりの11本の懸賞の束を見て初めて表情を崩した。

「今日は父の(66回目の)誕生日なんですよ。これ、全部あげようかな」
 
新弟子時代の髙安はなかなか相撲部屋の空気になじめず、6回も、7回も、飛び出している。脱走したのだ。そのたびに父親の栄二さんは連れ戻し、

「どうか、息子をいじめないでください。お願いします」
 
と兄弟子たちに土俵にひざまずき、頭をこすりつけて頼んだこともあったという。今日の髙安があるのは、まさに栄二さんあってこそ。髙安からこのさまざま思いのこもったバースデープレゼントをもらったときの栄二さんの胸の内を想像すると、こちらも胸が熱くなりますね。

月刊『相撲』令和3年2月号掲載

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