close

2024-12-02

【サッカー】サッカーに必要なメンタルとは?「しなやかな心を育てる」第28回:サッカーに必要な「関西のノリ」

一発勝負を勝ち抜くための、関西の「やったるぞ」精神。さらに県ごとの特徴もあり、西日本勢が注目される場面も多い(イラスト/丸口洋平)

全ての画像を見る
明るく楽しく練習に取り組む京都精華学園高校女子サッカー部。全国3位という躍進の原動力となったのは、「サッカーを好きになり、うまくなりたいという気持ちを引き出す」指導である。2021年度まで同校を率い、現在はINAC神戸レオネッサでアカデミー統括部長を務める越智健一郎が語る「サッカーに必要なメンタル」。今回は、サッカーの世界で成功した選手が多い関西人について述べる。
※本記事はサッカー指導者向け専門誌『サッカークリニック』2024年12月号から転載

取材・構成/鈴木智之

|「大阪の人は、海外のノリですね」

今回のテーマは、サッカーに必要な「関西のノリ」です。

少し前の日本代表には、本田圭佑、岡崎慎司、香川真司(セレッソ大阪)、乾貴士(清水エスパルス)、宇佐美貴史(ガンバ大阪)など、関西出身のアタッカーが多くいました。現在の森保ジャパンでは、堂安律(フライブルク=ドイツ)、南野拓実(モナコ=フランス)、鎌田大地(クリスタルパレス=イングランド)らが、独特の個性で攻撃を牽引しています。

ちなみに、今年9月に行なわれた総理大臣杯全日本大学サッカートーナメントで優勝したのは阪南大学でした。また、昨年度の全日本大学サッカー選手権大会では京都産業大学が準優勝。大学サッカーと言えば、関東優位のイメージが強かったのですが、近年は関西の巻き返しが目立っています。

昨今の主要大会は、グループリーグを勝ち抜いたチームが決勝トーナメントで優勝を争う形式が大半です。一発勝負のトーナメントを勝ち抜くには、実力に加え、勢いが不可欠。格上相手でも、「やったるぞ」という関西特有の負けん気やノリが状況を有利に働かせる気がします。

そもそも、関西人がサッカーに向いているという説が、根強くあります。私の知人で、ヨーロッパのサッカーに携わったことがあるコーチは、「大阪の人は、海外のノリですね」と言っていました。初対面の人に対しても、積極的に話しかけてコミュニケーションをとったり、感情をしっかりと表現したりする人が多いところが、海外の人たちと似ているそうです。

私は、愛知県出身で、東京の大学に通い、その後、京都にやってきました。関西に来て25年。人生の半分を過ごしています。関西は、京都、大阪、滋賀、奈良、和歌山、兵庫の2府4県ですが、それぞれの地域に府民性や県民性があります。


越智氏は東日本・西日本プレーヤーの特徴の違い、個性に目をつけた。これも鋭い観察力、選手との対話からわかるものなのかもしれない(Photo:INAC神戸レオネッサ)

|ユニークさで際立つ西日本勢

大阪人は、人と同じでは面白くないという気質を持ち、人と違うことをやりたがる傾向にあると言えます。自分のアンテナ、感度、取り入れているものを自慢げに語るところがあります。一般的には、良いものは隠したがると思うのですが、関西の人々は、それを自慢したがります。また、新しく採用したものについて、「俺はこんなのを使っている」「こんなことをやっている」と、積極的にアピールする傾向にあります。

サッカーの世界では、個性的なクラブチームが多く、ユニフォーム1つをとっても、独自性にこだわります。大阪の人々は自己主張が強いのですが、なぜか、それが、嫌味になりません。私は、大阪には空気を読む文化があると感じています。大阪の指導者たちは、自分の考えをしっかりと持ちつつも、敵をつくらないような表現方法を心がけているように思えます。

京都は、釜本邦茂さんや柱谷哲二さんなど、気迫あふれるプレーを持ち味とするレジェンドを輩出した土地です。最近は、久御山高校、京都橘高校、東山高校、私が指導していた女子の京都精華学園高校など、テクニカルなスタイルで結果を出すチームが増えたため、技術に優れている印象が強いと思われます。

しかし、大阪ほどスタイルを明確にするチームはなく、やや控えめな印象です。これは京都特有の奥ゆかしさの文化。すべてを表に出すことを美徳としない風潮が、影響しているのかもしれません。

京都の文化には、曖昧さやルーズさが存在しますが、表と裏がある側面を持ちます。例えば、「いい服を着ていますね」とほめられたとしても、「その服は派手ですよ」と批判されているように受け取る場合がありますし、実際に皮肉を込めてそう言っていたりします。京都特有の婉曲的な表現があるのです。

京都は、上品さを重視する傾向にあり、かつての都であった歴史から、東京に近い雰囲気が感じられたりもします。プライドを内に秘め、サッカーにおいて、それを前面に押し出すことはありません。大阪の影響を受けているものの、そこまで極端にはやらない立ち位置なのかもしれません。

関西には、大阪、京都、兵庫が上で、滋賀、奈良、和歌山は下という位置づけがあります。その中において、滋賀は、自己主張が強く、うまく生き抜くための目鼻が利く感覚があります。

滋賀のサッカー文化には、野洲高校が大きな影響をおよぼしています。近年は近江高校の躍進が目覚ましく、昨年度の全国高校サッカー選手権大会では、準優勝に輝きました。前田高孝監督の独特な指導法や「パイレーツ軍団」としての話題性は戦略的であり、選手のモチベーションを高めるツールだったように思います。メディアの活用がうまく、インタビューなどでも注目を集めました。

今年度の全国高校野球選手権大会では、滋賀学園高校の応援団によるダンスが、大きな話題となりました。彼らには選手よりも目立ってやろうというポジティブなマインドがあり、その勢いが選手との一体感を醸成しました。応援席が注目されると、プレーする選手にとって、良い意味でのプレッシャーになるでしょう。それと同時に、大きなあと押しになったに違いありません。みんなで盛り上がる姿勢は、非常に関西的だと言えるでしょう。

高校野球の話で言うと、昨年度の全国高校野球選手権大会では、慶應義塾高校(神奈川県)が優勝しました。関東では、彼らのような文武両道が、真面目で王道的なアプローチ、伝統的なアプローチによって、注目されますが、ユニークさでは西日本勢が際立っているのではないでしょうか。

|「よっしゃ、やったろう」の精神

「しなやかな心」というこの連載のテーマから考えると、ユニークさやノリの良さは重要です。ノリだけで勝てるわけではありませんが、最後のひと押しのスパイスになり得ます。大会でラッキーボーイが誕生したり、それが勝利への要素になったりするのは、「よっしゃ、やったろう」という気概や精神性があるからこそです。

関西には、強い相手に勝ったら目立つという感覚があります。そういった姿勢が、結果として、勝利につながっているのかもしれません。自分たちが劣っていることをマイナスには捉えません。むしろ、ジャイアントキリングを意識し、強い相手ほど燃える、「よっしゃ、やったろう」の精神があるのです。トーナメントでは勢いが重要で、それが関西チームの強みと言えるでしょう。

千葉県のある中堅高校の監督は、関西の選手を積極的に獲得していました。関西の選手にはやってやるぞというメンタリティーがあるので、全国レベルの強豪校に対しても、臆するところがありません。俺たちが倒してやるというマインドで入学してくるそうです。一方、関東の選手は、ある程度固定化されたヒエラルキーの中にいるため、下克上の意識が強くない傾向にあります。どうせ無理だろうという諦めの気持ちが先行しがちなので、既存の関係性にとらわれない関西出身選手たちの存在が重要とのことでした。加えて、関西の選手は、「俺たちのほうがうまかった」「あの崩しは完璧だった」と、負けてもそれを素直に認めない一面も持っています。

私は、現在、兵庫のINAC神戸レオネッサで働いていますが、兵庫は、大阪府に隣接することから、お笑いコンビ「ダウンタウン」の出身地である尼崎市や甲子園球場がある西宮市あたりまでは大阪マインドの影響を感じます。

近年の高校女子サッカー界においては、姫路市の日ノ本学園高校が強豪として知られています。ちなみに、1992年度から開催されている全日本高校女子サッカー選手権大会は、神戸市でスタートしたトーナメントです。かつて女子の日本リーグが盛り上がっていた時期には、TASAKIペルーレという強豪チームが神戸市に存在していました。女子サッカーに関して言うと、神戸はトラディショナルな面を持っているのです。

高校男子サッカーの世界では、岡崎慎司らを輩出した滝川第二高校が最も有名でしょうか。神戸弘陵高校のようなテクニカルなスタイルを志向するチームもあります。

日本は、東西に長く、地域性がサッカースタイルに影響している部分が多々見受けられます。そのようなことを考えながら、チームや選手の特徴を分析してみるのも面白いでしょう。「関西のノリ」という視点をふとしたときに思い出してみてください。新たな発見があるかもしれません。


【今月のポイント】

1. 関西人がサッカーに向いているという説がある
2. ユニークさやノリの良さは、最後のひと押しのスパイスに
3. 関西の選手は、負けを素直に認めない一面も持つ


(Photo:INAC神戸レオネッサ)
越智健一郎(おち・けんいちろう)
INAC神戸レオネッサアカデミー統括部長
1974年生まれ、愛知県出身。愛知県立瀬戸高校から日本体育大学へ進学。愛知県の高校で2年間講師を務めたあと、京都精華女子高校(現在の京都精華学園高校)へ赴任した。2006年にサッカー部を創部し、監督に就任。サッカーの楽しさと勝利を両立させ、12年度の全日本高校女子サッカー選手権大会で3位、14年度の全国高校総体で準優勝に導いた。個々の技術の高さと判断力をベースにした魅力的なサッカーは、女子高校サッカー界で異彩を放った。21年度も全日本高校女子選手権に出場。22年からINAC神戸レオネッサでアカデミー統括部長を務める


【サッカーに必要なメンタルとは?「しなやかな心を育てる」第28回:サッカーに必要な「関西のノリ」】を掲載したサッカークリニック2024年12月号は
こちらで購入

PICK UP注目の記事

PICK UP注目の記事



RELATED関連する記事