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2025-01-16

【相撲編集部が選ぶ初場所5日目の一番】独走態勢構築ならず! 豊昇龍、熱海富士に投げられ土

綱取りへ視界良好かと思われた豊昇龍だが、苦手の熱海富士に転がされて土。あす以降立て直して再び綱取りに前進していけるか

熱海富士(小手投げ)豊昇龍

この日から横綱照ノ富士が休場。2日目のこのコラムで書いたとおり、次世代の旗手が名乗りを上げることになる可能性が高いこの場所を戦いたい気持ちは大いにあったと推測するが、残念ながら体がついてこなかった、という結果となった。
 
これにより、「次に角界を背負う男が照ノ富士越えを果たして世代交代を印象付ける」というシーンは今場所は実現しないことになり、場所の意味合いは、「今いる中で相対的に強い力士が、それを証明して、次代の旗手に名乗りを上げる場所」と変わった。
 
きのうまでの段階で、そこに名乗りを上げる圧倒的な一番手と目されたのが豊昇龍。役力士ではただ一人全勝、優勝争いでも独走への流れができつつあるように見え、優勝が条件の綱取りへも、視界は良好かと思われた。
 
しかし、そう簡単にはいかなかった。豊昇龍はこの日、熱海富士の小手投げに土俵に転がされて土。綱取りの厳しさを味合わされることになった。
 
この日の相手の熱海富士は、豊昇龍にとっては、平幕の中では有数の苦手力士。今場所はまだ白星が挙がっていないとはいえ、嫌な相手には違いなかった。この1年の対戦成績は3勝3敗。先場所は勇み足で星を拾っているので、実質的には2勝4敗だ。左上手を許すと動きを止められ、苦戦する印象がある。
 
そんな苦手意識が作用したのかどうかは分からないが、この日の豊昇龍は、立ち合い、このところ自らの相撲にいい流れをもたらしていた突っ張りを採用せず、モロ差し狙いで立った。
 
この策は、結果から言うと、半ば成功、半ば失敗した。左は差せなかったが、それでもそのあと熱海富士が右差しに来るところを下からおっつける形が作れた。一方の右は、熱海富士が右四つとあってスパッと入ったが、深く入りすぎ、腕を返す前にガチッと抱えられ、動きを止められる要因になってしまった。
 
豊昇龍の右の動きを止めた熱海富士はすかさず左上手。豊昇龍は右下手投げで動くが効かず。それでも豊昇龍は、そのあと相手の上手を切って、攻めに出る。しかし熱海富士は再びガチッと豊昇龍の右の二の腕を極めると、出てくるところを小手投げで振って転がした。

「宝富士関も4連敗してきょう勝ったので、“一緒に脱出しよう”と言われて、力になりました。ここまでバラバラで、自分の相撲が取れていなかったんで、自分の相撲を取り切ろうと頑張りました」と熱海富士。開き直りと執念があるだけに、連敗中の力士はそれはそれで怖い、ということか。豊昇龍は、さすがにこの日はノーコメントだった。
 
この日、豊昇龍が敗れたことで、三役以上の全勝はいなくなった。一方、平幕のきのうまでの全勝力士はいずれも白星を重ねた。王鵬は今場所大関戦初戦の大の里を突破。腰の手術を経て思い切った動きがさえる千代翔馬は髙安を寄り切り。元気すぎる40歳・玉鷲は明生を引き落とし。首の調子がよくなってパワー復活の金峰山は錦富士を寄り切った。
 
これで豊昇龍は、優勝争いの先頭集団から一歩後退する形になったが、とはいえ、まだ情勢的に優勝候補の最右翼であることには変わりはないだろう。きのう書いたとおり、1敗したからと言って、まだ精神的にギリギリまで追い詰められる必要はない。もちろんこれで緊張感は増すはずなので、それが今後どう出るか、というところはあるが……、またあす以降、白星を重ねていける可能性は十分あるだろう。
 
この日は豊昇龍だけでなく、琴櫻、大の里を含めて大関陣が全滅。琴櫻は4連敗、大の里も黒星先行となり、どうやら今場所の優勝争いの豊昇龍への対抗馬は、関脇以下から出てきそうな雲行きとなってきた。
 
豊昇龍と同学年の王鵬や、優勝経験のある尊富士(現在1敗)あたりが勝ち残ってくれば、それはそれで盛り上がると思うが、さてどうなるか。豊昇龍の星取りとともに、関脇以下からだれが飛び出してくるかも、今場所のもう一つの焦点になりそうだ。

文=藤本泰祐

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