3月中旬、ナイキ本社で開催されたプレス向けイベントのためアメリカ・オレゴン州ポートランドを訪れた際に、トレイルランニングのセッションを体験してきました。その模様をお伝えします。同イベントで発表された、新しいナイキ フリーに関するレポートは、現在発売中の『ランニングマガジン・クリール』6月号、『陸上競技マガジン』5月号に詳しく掲載しているので、併せてお読みください。 取材・文/高橋幸司
大自然に囲まれたポートランドは、ランニングやトレイルなどのアウトドア・アクティビティーが盛んな町。今回のセッションでは、町の北西部にあるフォレスト・パークにあるトレイルコースを走った。町を貫くウィラメット川沿いの、森林の広がる丘陵地帯にあるコースだ。
今回のセッションで世界中から集まったプレスを先導してくれるのは、ナイキ・アスリートのデイビット・レイニー選手とキーリー・ヘニンガー選手。デイビッド選手はトレイルやクロスカントリーだけでなく、2015年には年間最優秀ウルトラランナーに選ばれた実績をもち、キーリー選手もウルトラ兼トレイルランナーで、Nike Sport Research Labで生体力学研究員として働くナイキ社員でもある。
今回のセッションでは、走力に合わせて2マイル(約3.2㎞)、4マイル(約6.4㎞)、6マイル(約9.6㎞)とコースを選択できた。トレイルランニングは僕自身、初めての体験なので、無理せずに4マイルあたりにとどめておこうか…と、弱気の虫が顔をのぞかせたが、「トレランは途中で歩いてもかまわないもの。楽しんで走ってほしい」という二人の言葉に、オレゴンの山を走れる滅多にない機会だし、それならばと、一番長い6マイルに挑戦してみることにした。
市内のホテルから車で10分ほど移動したところがコースの出発地点。ポートランドは人口約65万人とそれなりの規模のある町だが、少し郊外に出れば、こうした豊かな自然のなかでランニングを楽しめる場所が広がっている。スポーツが身近にある、本当に素晴らしい環境だ。
準備体操をして、いよいよ森の中へ。このときのワクワク感はトレイルランニングならではのものだろう。ランナーたちの足音と息を吐く音の合間に聞こえてくる、小川のせせらぎや小鳥のさえずりに心が癒される。まずは、緩い坂道を1マイルほど走ったところで小休憩。いよいよ、ここから、未舗装の道を行く本格的な「トレラン」となっていく。
それにしても、山を走るなんていつ以来だろう。思い返せば、小学生以来か。学校からの帰り道、通学路から外れて友人たちと獣道を駆け上って帰ったのがバレて、先生にメチャクチャ怒られたりしたなあ…などと思い返しながら、気分良く走れていたのは最初のうちだけ。「トレランは歩いてもいい」と言っていた先導役の2人は当然歩くわけはなく、これくらいは序の口というようにスイスイと山を駆け上がっていく。心臓が飛び出そうになりながらも何とか食らいついていくが、グネグネと蛇行するコースを曲がるたびに、先頭との距離が徐々に開いていくのが分かった。
それでも、初めて履くトレランシューズの、地面をとらえるグリップ力にかなり助けられ、何とか折り返し地点まで到着。GPSウォッチのデータを見ると、高低差240mほどを駆け上ってきた計算だ。麓では濃かった木々もまばらになり、差し込む光がまばゆくあたりを照らす。その中で、参加者たちとハイタッチを交わすうちに、生まれてくる一体感と充実感。「走るタイムにかかわらず、いろいろな人たちが同じ素晴らしい景色を共有できるのが、トレイルランニングのいいところです」とキーリー選手は語っていたが、その言葉の意味を噛み締めた瞬間でもあった。
しかし、本当に大変なのは帰りの下りだった。地面の凹凸や木の根っ子などに気を取られているとスピードに乗れず、上りのとき以上に先頭グループからどんどん引き離されてしまった。森の中で一人道に迷ったらまずいと必死に追いかけ、麓にたどり着いたときには、脚はパンパン、搾り出るほどの汗が噴き出していた。
「最近では、いろんな年齢層の人たちがトレランを楽しむようになってきましたが、走っているうちに何が起こるか分からない、それに対処していくのもトレランの面白さの一つです」とデイビッド選手。初めてのトレランで、山を走る喜びも難しさも実感した今回のセッションだが、単にロードを走るだけでは鍛えられない脚力や体幹の力、メンタルも養われた気がする。トレランの魅力に、一気にハマっていきそうな予感がした。
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