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2025-04-29

【サッカー】アスレティック・ビルバオ育成組織メソッド部門の責任者が語る、U-18年代に求められるプレーの原理とは(前編)

ランデル・エルナンデス・シマル(Photo:BBM)

サッカークリニック5月号の特集は「進化するビルドアップとその指導」。
スペインのラ・リーガに所属するアスレティック・ビルバオで、育成組織メソッド部門の責任者を務めるランデル・エルナンデス・シマルの、「指導者」「トレーニング」「選手」「プレー理解」という4つのブロックを通じて、スペインで考えられている「良い指導者のあり方」を学んでいく連載。
Vol.17となる5月号では、ブロック4:「プレー理解」-テーマ2:「プレーの原理原則(スペースとプレーリズム)U-18編」を掲載している。
BBMsportsではそれを前後編に分け公開する。前編はU-18年代で求められるものを主に取り上げる。

文/ランデル・エルナンデス・シマル 翻訳/杉山智春

(引用:『サッカークリニック 2025年5月号』-【連載】スペイン式 良い指導者のあり方-より)

U‒18年代で求められる集団でスペースを扱うこと

育成年代の選手に携わる際は、スペースとプレーリズムについての取り組みが必要不可欠と言えます。U‒12年代における取り組み(4月号参照)については、教育的な観点や選手の好奇心を大事にしながら、それらを習得していくべきでしょう。そして、その後のU‒18年代においては、個人によるスペースの認知やその創出だけでなく、集団でスペースを扱うことが求められます。

また、スペースとプレーリズムは密接な関係にあるので、両者を切り分けずに、相互関係にあるという前提で考えるべきでしょう。スペースとプレーリズムの関係性を正しく理解した上で、両者に取り組めば、パフォーマンスの維持につながるでしょう。


◆U‒12年代とU‒18年代におけるキーファクターの違い

U‒12年代については、基本となるコンセプトを目的に応じたトレーニングの中で習得していくことが重要です。それに対し、U‒18年代については、実際のピッチで行なわれるリアリティーがあるフットボールに近づかなければいけません。それらの違いに関し、異なるキーファクターから考察します。

1.認知

素早い判断:プレー時のスペースや時間は、年代が上がるにつれ、どんどん制限されます。ですから、的確な情報収集、素早い判断、正確な実行が、必要とされます。

プレーの読解:プレーの流れを読み、次に起こるプレーを予測できる、すなわち、プレーを読解できるのがU‒18年代です。味方の得意なプレーや相手の動きのパターンを分析することが欠かせません。

共有と理解:グループとしてのプレー理解や高いプレースピードを表現するためには、個人およびグループとして、各局面を共有し、理解を深めなければいけないでしょう。

2.フィジカル

ダイナミックさと緩急:年代が上がるにつれ、プレーにダイナミックさが生まれます。トランジションが流動的になり、インテンシティーにおいては、スピードの緩急を扱えるようになるでしょう。

エネルギーとパワー:U‒12年代とU‒18年代では、試合中にかかるフィジカルの負荷に大きな違いがあります。U‒18年代については、プレーリズムやエネルギーを試合の流れの中で保つとともに、高いパワーを発揮するべき瞬間を読み取ることが求められます。

ボディーコンタクト:インテンシティーが高くなると、ボディーコンタクトが増えますし、体を使ってボールを守らなければならないシーンも増加します。ボディーコンタクトの争いで勝てれば、チームがボールを保持する時間を生み出せます。

3.戦術

ボールを持たない選手:高い強度の守備に対して、攻撃側に求められるのは、プレーのクオリティーとともに、ボールを持たない選手が相手を集めたり、固めたり、外したりすることです。

集団による良い関係性:サポート、壁パス、トライアングルといった集団による良い関係性は、相手のプレッシングを回避しながら、優位性を生み出し、そして、守備ラインの突破へとつながります。

ボールから遠い選手の関わり:複数の選手が関与する状況においては、各個人の判断やボール付近の選手だけが重要視されるわけではありません。ボールから遠い選手の関わりも必要です。

U‒18年代のピッチは、U‒12年代のそれよりも広いため、両年代におけるボールから遠い選手と他者との関わり具合は、大きく異なります。競技人数が8人から12人に増えるとともにピッチサイズが大きくなると、各選手のプレービジョンの豊かさが、パフォーマンスの良し悪しをより左右します。広いスペースを認知できる、短いパスと長いパスを扱える、前進と保持のタイミングを理解できるといったことです。そして、それらを表現するためには、ボールから遠い選手の関わりが必要不可欠。味方に動きを与えながら、スペースを生み出し、時間をつくることにより、アドバンテージを獲得できます。

4.心理

緊張感がある戦い:U‒18年代は、育成年代ではありますが、勝敗に対するプライオリティーがより高くなります。対戦相手の存在により、厳しい環境での戦いを強いられますが、緊張感がある戦いこそが、選手をたくましくする1つのプロセスと言えるでしょう。

プレッシャーの中での的確さ:ミスが結果に直結するというプレッシャーの中でのプレーは、選手の集中力を研ぎすませます。そこで冷静かつ的確にプレーできることが、トップレベルの選手に求められる要素です。

インテリジェンス:どんなシチュエーションにおいても、プレーの流れを的確に読めるのが、優れたインテリジェンスを持つ選手の特長です。前がかりに攻めるべきときなのか、あるいはスピードを緩めるべきときなのか、そういったことをハイプレッシャー下でも判断できる選手を育てなければいけません。
(後編に続く。後編では図を交え例も公開!)


著者
ランデル・エルナンデス・シマル(Photo:BBM)
PROFILE
Lander Hernandes Simal / 1976年、スペインのビルバオ生まれ。スペイン1部リーグに所属するアスレティック・ビルバオのアカデミーにおいて、監督として指導の任にあたった経歴を持つ。現在は育成組織メソッド部門の責任者として、アカデミーや地域のクラブが適した選手育成を行なうための優れた指導者の養成およびトレーニングレベルの向上に努める。弁護士資格とスペイン・サッカー協会公認指導者ライセンスレベル3(UEFA-PRO)を持つ


翻訳者
杉山智春(Photo:BBM)
PROFILE
すぎやま・ともはる/ 1993年、神奈川県生まれ。大学入学時から指導者活動を始め、日本で3年間コーチを経験した(AC等々力、湘南ベルマーレ普及〈アシスタント〉)。2015年にスペインのビルバオへ渡り、現在はバラカルドCF(スペイン3部)のアナリスト兼U-16監督を務める。19年にスペイン・サッカー協会公認指導者ライセンスレベル2(UEFA-A)を取得した

「【連載】スペイン式 良い指導者のあり方」が掲載した「サッカークリニック2025年5月号」はこちらで購入

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