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2017-11-17

韓国・報恩郡スポーツ施設視察レポート メダリストの故郷が韓国にあった

 こんな立派なスポーツ施設が、こんなところにあるのか。事前にパンフレットなどで見ていたが、実際に目にするのとは大違いだった。日本にも、これだけ恵まれた施設はいくつあるだろう。

 韓国・報恩郡のスポーツセンターを目にしたときの素直な感想だ。メインの陸上競技場に、スタンド付きのサブトラック。視察ツアーに参加してある実業団のコーチと「実業団選手権なら、このスタンドで十分収容できますよね」と、話したくらい立派なスタンドがサブグラウンドについている。このほか、サッカー2面に野球場2面、テニスコートや100mの室内練習場やアスリート専用のトレーニングルームもある。

マルティ峠くねくね道は、10kmのクロカンコース。きれいに整備されている。

 事前にパンフレットで施設の写真は見ていたが、実際に目にするとその規模に感動するしかなかった。

 報恩郡に立派なスポーツ施設があり、そこに日本のスポーツ選手を呼びたいという話を聞いたのは、5月のことだった。サッカーでも野球でも、陸上でも、日本のスポーツマンに訪れてほしい。そのためのプロモーションの予算はあるという。

 マラソン大会に参加する、Jリーグのジュニアチームを派遣する、どこかの陸上チームに試験的に合宿をしてもらうなど、いくつかのプランが浮かんだ。しかし、何かが足りないような気がした。報恩郡が望んでいるのは、末永い日韓のスポーツ交流だ。単発で終わったのでは意味がない。

 そこで考えたのが、陸上競技部の指導者による視察ツアーだった。陸上競技部にしたのは、私がこの業界に精通しているからという理由だけではない。街の中心部にあるスポーツ施設はもろとん、世界的にも珍しい10kmのクロカンコース、マルティマルティ峠くねくね道が整備されているからだ。ここを喜んで使うのは、陸上部以外にない。

視察ツアーの目的は、合宿の予定地として候補に入れてもらうだけではない。日本のチームの合宿受け入れるために必要なものは何かを教えてもらうことができる。改善すべき点を指摘してすれば、報恩郡側も喜んでくれるはずだ。

 6月には、ジョン・サンヒョク郡守(報恩郡の代表)をはじめ、報恩郡の主要なスタッフが来日した。その場で、視察ツアーのプランを伝えると、すぐに実行に移そうということになった。

白い線で示したのが10kmにおよぶクロカンコース、マルティ峠くねくね道。

 時期は日本の実業団が比較的時間があるときというわけで、実業団選手権の翌週、9月。下旬に決まった。それから、知り合いの実業団の指導者に連絡をして、視察ツアーへの参加を呼び掛けた。長距離選手の合宿は長期にわたる。「同じところばかりだと、選手が飽きてしまうんです。新しい合宿場所を探していたので助かります。参加させていただきます」というチームもいくつかあり、8人の指導者が集まった。

 成田空港を飛び立ち、ソウルの金浦空港に着いたのは23時、ここから報恩郡までは、バスで2時間半くらいかかる。にもかかわらず、女性のスポーツ課長が出迎えてくれた。報恩郡の気合が伝わってくる。

 それから1日半、報恩郡のスポーツ施設や観光地の視察が続いた。宿泊したのは、オープン前の俗離山森体験休養村。韓国のオンドル(床暖房)が暖かい。ここから10㎞のクロカンコース、くねくね道まではジョグ10分で行ける。このほか、民間のホテルや公共の宿泊所などもある。

 10kmのクロカンコースは、まだすべてができあがっておらず一部を走っただけだが、砂が敷いてあるので、表面が平らで水はけがよく、走りやすい。適度なアップダウンがあるので、脚づくりの時期に利用するとよさそうだ。

メインスタジアムでは、韓国のスポーツ大会が開催される

 トラックとクロカン、これにロードのコースがあれば、長距離合宿には問題がない。視察ツアーの間に、韓国の陸上部の合宿があり、私たちが観光をしていた古刹、宝住寺へ続くロードを走っていた。交通量も信号も多くないので、ロードはどこでも走れそうだ。

こちらがサブトラック。ぐるりとスタンドが取り囲んでいる

法住寺の近くのロードを韓国の実業団の選手たちが走っていた。

 ジョン郡守は、ここから多くのオリンピック選手が巣立っていってほしいと語っていたが、それは、韓国に限ったことではない。日本のランナーもこの恵まれた環境で鍛えて、オリンピックを目指してほしいと思う。

 正直言えば、食事や宿泊所など、日本の感覚まま行くと、戸惑うこともあるかもしれない。しかし、それもこれも経験だ。世界で戦うのであれば、些細なことに動じない精神力も必要になる。幸い、韓国なら日本国内で移動するのと同じくらいの金額で行ける。宿泊料金も食費も日本よりはるかにリーズナブルだ。

アスリート用のジム。一般の利用者用は別にあり、合宿をすればここを使える

 個人としては、今回1周することができなかった10kmのくねくね道をいつかは1周してみたいと思っている。450mと標高は高くはないが、緯度が高いので夏でも涼しく走れそうだ。マラソンのための脚づくりに、クロカンコースで走り込む。視察ツアーに参加したランニングクラブ、リスタートの石川哲行代表が、クラブで合宿を計画しているというので、それに参加させてもらってもいいかもしれない。オリンピアンにはなれないが、日韓のスポーツ交流の一翼になれるのではないか。

 なお、視察ツアーの様子は、陸上ライターの石井安里さんに陸上競技マガジン12月号でレポートしていただいた。視察ツアーに参加した指導者のみなさんのコメントも掲載されているのでぜひ読んでほしい。そして、興味があったらぜひ韓国スポーツの中心地を訪れてほしい。

3種類の宿泊施設がある俗離山森体験休養村。マルティ峠くねくね道へは、走って10分ほどで行ける。6人部屋が1泊14000~20000円。

報恩郡が経営する忠北アルプス自然休養林。タイプの異なる宿泊施設がある。6~8人部屋が7300~10400円。

スポーツパークにある100mの室内補助競技場。天候に左右されずにトレーニングができる。

報恩郡の焼肉店で、報恩郡の関係者の歓待を受ける日本の陸上競技指導者たち

553年に建立された法住山は、国宝もある立派なお寺。

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