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2016-10-11

強靭LIXILオフェンスの87プレー 18点差を逆転しIBM倒す(2016年10月9日)

 アメリカンフットボール「Xリーグ」の第4節注目のカードの一つ、LIXILディアーズ対IBMビッグブルーの一戦は、10月9日に富士通スタジアム川崎で行われ、LIXILが52-48で逆転勝ちし、3勝1敗とした。敗れたIBMは2勝2敗となった。

LIXILディアーズ○52-48●IBMビッグブルー(2016年10月9日、富士通スタジアム川崎)

【LIXIL vs IBM】キックオフリターンでも5回139 ヤードと活躍したLIXILのWR前田=2016年10月9日、撮影:小座野 容斉 (Yosei Kozano)

 春のパールボウル決勝でも対戦した両チームは、2014年11月の社会人準決勝では
IBM〇69-54●LIXIL
と、両チーム合計が123得点でリーグ記録となるシュートアウトゲームを演じたことがある。今回も、2年前の再現のような試合展開だったが、勝敗の結果を変えたのはLIXILのQB加藤翔平が率いるオフェンスの成長だった。

◇第2クオーター28得点、IBMがペース握る

【LIXIL vs IBM】第3クオーター7分、IBM末吉が29ヤードを走りこの試合3本目のTD=2016年10月9日、撮影:小座野 容斉 (Yosei Kozano)

 前半はIBMのペースだった。第2クオーターにRB末吉智一がLXILディフェンス陣のタックルをはね飛ばす15ヤードのランで先制タッチダウン(TD)。直後のLIXILのオフェンスで、加藤のパスを捕球したWR呉田達哉がIBMのDB矢部伯門のタックルでファンブル。ボールを拾い上げたDB保宗大介がリターンTDを決めた。1分足らずで14点を奪ったIBMは、さらにQBにケビン・クラフトを投入、2TDを重ねた。

 LIXILも、負けていなかった。10-28と18点差で迎えた前半残り1分26秒からのオフェンスで、加藤は8プレー74ヤードを1分15秒でまとめ上げ、WR中川靖士にTDパスをヒットした。まさに2ミニッツオフェンスのお手本のようなこのドライブで加藤のパスは7/8、後半へ11点差で折り返した。

【LIXIL vs IBM】第3クオーター6分、LIXILのQB加藤からパスを受けたWR前田がTD=2016年10月9日、撮影:小座野 容斉 (Yosei Kozano)

 しかしIBMは、第3クオーター開始直後のオフェンスで、この日好調の末吉が2本目のTDをランで決め再び18点差とした。18点差となるのはこれが3回目だ。流石に逆転は難しいかと思われた。

 ここからはやられっぱなしだったLIXILディフェンス陣が見せ場を作る。QBクラフトのパスを第4クオーター冒頭まで2度インターセプトし、得点を断ち切った。逆にLIXILは後半のオフェンスではパントは1回だけ。加藤のパスだけでなくRB丸田泰裕、岡部朋也のランも好調だった。

【LIXIL vs IBM】第3クオーター6分、LIXILのDB佐野がIBMのQBクラフトのパスをインターセプトしてリターン=2016年10月9日、撮影:小座野 容斉 (Yosei Kozano)

◇第4クオーター 息詰まる攻防

 第4クオーター9分、LIXILはQB加藤からWR呉田へTDパスが決まってついに45-48と3点差まで追いついた。残り時間は2分17秒。LIXILはオンサイドキックと見せかけてボールを転がすキックで、フィールド深くまで蹴り込んだ。タイムアウトが3回残っており、IBMのオフェンスを止められるという判断だった。

【LIXIL vs IBM】第4クオーター9分、LIXILのWR呉田がIBMディフェンスの3人を引きずりながら執念のTD=2016年10月9日、撮影:小座野 容斉 (Yosei Kozano)

 IBMはクラフトから末吉へのパスでファーストダウンを更新すると、先発しながら途中から交代していたQB政本悠紀を再び投入する。縦の突破力がある政本と末吉を組み合わせれば、リードオプションからのランなどでディフェンスの的が絞りにくくなる。

 しかし次のプレーで、LIXILはDE平澤徹が少しループするようにOLのプロテクションをかわして、ノーブロックでパスラッシュした。政本は外に逃げるが、平澤の後から少し遅れて入って来たLB天谷謙介にタックルされて4ヤードをロスしてしまう。結果的には、このプレーが勝敗を分けた。

【LIXIL vs IBM】第4クオーター10分、IBMのQB政本のランをロスタックルに仕留めるLIXILのLB天谷=2016年10月9日、撮影:小座野 容斉 (Yosei Kozano)

 サードダウンロングとなり、IBMは再びQBをクラフトにスイッチせざるを得なかった。そしてクラフト何かに魅入られたように、LIXILディフェンス陣が密集するミドルゾーンへパスを投げ込んでしまう。ボールはLB安藤彬の胸にすっぽりと収まった。安藤は27ヤードをリターンし、ゴール前19ヤードからLIXILの攻撃となった。

【LIXIL vs IBM】第4クオーター10分、IBMクラフトのパスをインターセプトしたLIXILのLB安藤=2016年10月9日、撮影:小座野 容斉 (Yosei Kozano)

 残り時間は1分、フィールドゴール(FG)は、ほぼ確実な距離だ。ファーストダウンで、加藤はQBドローで14ヤードを進み、ゴールまで5ヤードとした。次のプレー。加藤はWR中川に逆転のTDパスを投じた。52-48と、この試合で初めてLIXILがリードを奪った瞬間だった。

【LIXIL vs IBM】第4クオーター、逆転をかけたドライブでLIXILのQB加藤がQBドローから14ヤードをゲイン=2016年10月9日、撮影:小座野 容斉 (Yosei Kozano)

 少しだけ問題だったのは時間が42秒も残ってしまったことだ。タイムアウトも2回残っていた。QBクラフトは5プレーでボールオン25ヤードまで前進、残り4秒からヘイルメアリーパスを投げた。

 エンドゾーンでボールを奪ったのは、またしてもLIXIL安藤だった。最終スコアは52-48、常にリードされ続け、3度にわたる最大18点差をはね返したLIXIL会心の逆転勝利だった。

【LIXIL vs IBM】最後のプレーで逆転の望みをかけたIBMのパスをインターセプト、ボールを掲げるLIXILのLB安藤=2016年10月9日、撮影:小座野 容斉 (Yosei Kozano)

◇QB加藤、最後は13回連続パス成功

 LIXILのヒーローはQB加藤だ。パス442ヤード、6TD、37/52、成功率71.2%という数字もさることながら、被インターセプトがゼロだった。2014年11月の敗戦では、パス501ヤード7TDを記録したが、インターセプトも5本献上した。

 大量リードされ、キャッチアップオフェンスを展開するQBは、NFLでもインターセプトを量産するケースが多い。終始追い上げなければならない場面の中で、自らのミスによるターンオーバーを許さなかった加藤の危機管理は称賛に値する。

 しかも、ディフェンスが奪ったインターセプトを、試合終了時の1本を除いてすべてTDに結び付ける勝負強さだった。試合最終盤では13回連続でパスを成功させた。

【LIXIL vs IBM】パス442ヤード6TDでインターセプトはゼロ。最後は13回連続でパスを成功させたLIXILのQB加藤=2016年10月9日、撮影:小座野 容斉 (Yosei Kozano)

 加藤だけでなくLIXILオフェンス全体が、練り上げられた強さを見せた。12分クオーター、48分の試合で、ディアーズのオフェンスプレーはランが35、パス52と、実に計87プレーもあった。

 15分クオーター、60分だったら優に100プレーを超えていたのではないか。通常の2試合分に近い。IBMのディフェンスが、最後にスタミナ切れしたのも無理はなかった。

 加藤は「あらゆる場面を、細かく想定して練習している。自分たちがやってきた練習の方が、体力的にも精神的にも厳しい。オフェンスの選手は『いつもの練習よりはイージーやな』と思っていた」と語る。

 リードされて焦ることはなかったかと質問すると「自分たちがディフェンスの選手として出ていけるわけではないし、1回のドライブではどんなにいいプレーをしたとしても、7点もしくは8点しか取れない。そこはどうにもならない。ディフェンスがどこかで相手を止めたり、ターンオーバーでボールを奪ってくれるだろうとイメージして、その時に確実に点を取る気構えだった」と言う。

 最後の逆転TDは「まずはボールセキュリティーが最優先、最低でも(FGの)3点、可能な限りTDを取るという狙い通りにできた」と話した。

【LIXIL vs IBM】第4クオーター11分、LIXILのQB加藤からWR中川へ、逆転のTDパスが決まる=2016年10月9日、撮影:小座野 容斉 (Yosei Kozano)

 春シーズンで富士通フロンティアーズ、オービックシーガルズと強豪相手に逆転勝ちを重ねてきたLIXILは、リーグ戦でもノジマ相模原ライズに14点差、IBMに18点差をつけられながら逆転した。大量リードされても、サイドラインのコーチや選手たちにはまったく動揺が見られない。逆境でのメンタルの強さはリーグ随一ではないだろうか。

 それでも、森清之ヘッドコーチ(HC)は「とにかくミスや反則が多かった。これでは本当に強い相手と戦ったら自滅する。今日のIBMは(DEの)ジェームズ・ブルックスや(RBの)高木稜がいなくて、クラフトも今季初出場で調整段階。本当に全部出し切った強さではなかった」と自戒を忘れない。「ただ、ミスした選手も次のプレー機会には集中してやってくれた。それが良かった」という。

 18点差の場面では「加藤には『奥を狙いすぎるな。FGでもいいから』と言い続けた。雑なプレーになっても傷口を広げるだけ。とにかく我慢のフットボールだった。ただ、こういう試合が多くなることを予想して、春からいろいろな条件を設定して、オフェンスもディフェンスもキッキングも練習を重ねてきた」という。

 試合終了後のあいさつで、鈴木修平主将から指名された加藤は「今日は僕の奥さんの誕生日です」と、スタンドのファンに報告し、祝福の拍手を受けた。加藤の夫人は昨年までディアーズのチアリーダーとして活動、選手たちもよく知っている。勝利したら「お前に試合後のあいさつを振るからな」と鈴木主将やWR前田直輝に言われていたという。その"プレッシャー"が好成績に結びついたのでは?と尋ねると「それもゼロではなかったですね」と笑顔を見せていた。【写真/文:小座野容斉】

【LIXIL vs IBM】試合後に勝利のあいさつをする、LIXILのQB加藤=2016年10月9日、撮影:小座野 容斉 (Yosei Kozano)

森清之HCの試合後コメント

 「第4クオーターに1本差とする(45点目の)TDを返して以降は思い通りにできた。(Kの)青木もいやらしいところに蹴り込んでくれた。最後、相手に時間を残し過ぎたけれど、TDを取れるときに取るなとは言えないので」
 「星勘定をして、この試合は負けてもいいとか、トーナメントで再戦の可能性があるので手の内隠してという余裕はない。試合で持てる力を出し切って戦うことが、一番いい練習になる。強くなるチャンスだと思っている。過去を振り返っても、フットボール的に内容がすごく良くて、相手を圧倒する思い通りの試合が続いているシーズンは、何かのきっかけでガタガタっと崩れることを経験してきた。今季のようにずっとしんどい戦いを続けていることは、強みになっていくと思う」

LB安藤彬の試合後コメント

(第2節ノジマ相模原戦に続いて決定的な場面でのインターセプト)「今日もおいしい場面でいただきました。1本目のインターは、下がったところにパスが飛んできた。捕りに行ったというよりは、DLのプレッシャーのおかげです」

【LIXIL vs IBM】第4クオーター10分、IBMクラフトのパスをインターセプトしリターンするLIXILのLB安藤=2016年10月9日、撮影:小座野 容斉 (Yosei Kozano)

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