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2017-07-22

霊泉寺温泉MAD&MUDDY おばあちゃんの家で 泥んこになって遊ぶ

 数年前、ランニング文化の盛り上がりとともに、障害物レースが日本に上陸した。木材を組み合わせたやぐらや壁を登ったり、網の上を渡ったり、燃え上がる火の上を飛び越えたり、泥水の中を進んだり…。

 しかし、障害物がすべて人工的なものであるため運営に莫大な費用がかかることもあり、一気に衰退していった。ところが今年、スポーツブランドのリーボックがスポンサードする同様の障害物レース、スパルタンレースが開催されるようになった。次回は10月21日、22日に神奈川・さがみ湖リゾート プレジャーフォレストでの開催が決まっている。

 障害物レースを人工の工作物をほとんど使わず、野山を駆け回りながら楽しもうというイベントが、7月15日に長野県上田市で開催された。

 霊泉寺温泉MAD & MUDDYと題されたレースは、両手を使わないと上がれないような急坂を這い上がったり、倒木を潜ったり、沢を遡行したり、ロープを使って崖を下ったり、落ち葉が吹きだまった急坂を駆け下りたり、泥んこの中を駆け抜けたり、滝つぼに飛び込んだりと、まさに自然の障害物レースだった。

 霊泉寺温泉は、上田市の南、松茸がとれる山に囲まれたたった4軒の山間の温泉場。上田市の温泉といえば、別所温泉や鹿教湯(かけゆ)温泉が有名だが、霊泉寺温泉は、秘湯好きに知られた文字通りひなびた温泉場だ。

 実行委員長は、和泉屋旅館の若女将、清水理絵さん。地域活性のイベントでもある。ひなびた温泉場とMAD & MUDDYというアメリカンなネーミングのコントラストが、このイベントのある種「訳のわからなさ」を助長している。

 レースが終わった夜に開催されたウエルカムパーティ(終わったあとにウエルカムって? フェアウエルじゃないのか)には、これまたひなびた温泉場には似つかわしくないアフリカンダンスの一団が登場してドラムを打ち鳴らしたり、「こんなところを走らせるのか?」というコースデザインの「訳のわからなさ」と同様に、イベントそのものの混沌とした状況を表していた。ただ、このアンバランスは状況に身をゆだねられるゆるい気持ちで参加すると、心地いい幸福感に包まれる。

 このカオスな状況を作り上げたのが、プロデュースを手がけた田中崇さんだ。上田市でカヤックやスノーシューなどのアウトドアイベントを手掛ける田中さんについて書き始めと紙数がいくらあっても足りないので、詳しくは書かないが、田中さんのイベントは、「お金を払ったから楽しませてくれ」というスタンスでは、決して楽しめない。

「遊ぶ場所を教えてあげたから、あとは自分で楽しんでね」という、アウトドアスポーツの王道(?)を貫いている。

 レースの話もしておこう。随所に障害物がある約4.8kmのコースを2周する。ところが私は1周目の残り1㎞くらいのところで、稚児ガ渕という滝つぼに飛び込んだときに、うかつにも眼鏡をはずすのを忘れて、滝つぼに眼鏡が吸い込まれてしまった。透明のフレームのために見つけることができなかった。

 眼鏡がなければ、障害物レースは走れない。あえなくリタイアとなった。

 レースを最後まで走れなかったのは残念だったが、翌朝には早朝ヨガのプログラムもあり、レース、温泉、パーティ、ヨガと、混沌としたイベントを存分に楽しめた。

 愛知県から参加した30代前半の女性2人のうちの1人が、霊泉寺温泉について言っていた言葉が印象に残っている。

「おばあちゃんの家に来たみたい」

 そんな素敵な温泉場で開催されるMADでMUDDYなイベントは、来年も開催される予定。松茸山を駆け廻り、混沌に身をゆだね、温泉につかる。おばあちゃんの家が好きな人はもちろん、「物好きだね」とか「変わっているね」という言葉をほめ言葉だと思える人にはおすすめのイベントだ。

霊泉寺MAD & MUDDY 01 スタート直後の急坂、これはまだ序の口

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霊泉寺MAD & MUDDY 02 トレイルの女王もしりもちをつく急坂を駆け下る

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霊泉寺MAD & MUDDY 03 稚児が渕へダイブ。私はここで眼鏡をなくした。

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霊泉寺MAD & MUDDY 04 終わったあとにウエルカムパーティ。アフリカンダンスで盛り上がる

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