サッカーはチーム・スポーツだからこそ、コミュニケーションの大切さがよく指摘される。では、どのようにしてコミュニケーションをとり、個人の能力とチームのまとまりを高めていけばいいのだろうか? 『しつもんメンタルトレーニング』を考案し、対話の専門家である藤代圭一さんに実例を挙げてもらいながら、具体的方法を2回に分けて聞いた。2回目は指導者から寄せられた質問に対する解決策を紹介する(1回目はこちら→https://www.bbm-japan.com/_ct/17267611)。
(出典:『ジュニアサッカークリニック2019』)
指導者からはこのような質問をよく受けます。
このような問題を抱えた指導者には自分自身が子供たちにどんな問い掛けを行なっているかをまず振り返ってもらいました。その際、試合後に「なぜ、勝てないんだ?」、「この試合で負けたのは誰のせいだ?」、「ミスしたのは誰?」といった否定的な問い掛けをしていることが分かったのです。
指導者の否定的な問い掛けはチーム内に伝染します。すると、チーム内で責任をなすりつけ合ったりすることが起こり得ます。子供たちは次の試合で失敗を恐れた消極的なプレーに終始してしまうことでしょう。
子供たちに変わってほしいのであれば、まずは大人が変わることが大切です。その指導者には「子供たちを自分の思い通りに変えなければいいチームにならない」という考えがあったため、「本当にそうでしょうか?」と問い掛け、考え直すきっかけをつくりました。そういった考え方は往々にして、自主的な成長機会を奪う要因となります。
また、指導者がアドバイスや指示を逐一送ったり、身の回りの世話まで丁寧にやったりすることも注意が必要です。自分が子供たちにしてあげた以上の見返りがほしくなってしまうからです。与えすぎてしまう態度も改めてもらいました。
その上で、しっかりとした問い掛けを意識してもらったのです。例えば以下のような問い掛けです。
このような前向きな問い掛けを行なえば、雰囲気が悪くなることはまずありません。質問をしてくれた指導者もこの問い掛けにトライしたところ、「友達を否定するような会話がなくなった」と報告してくれました。
その指導者に伝えたことがもう1つあります。
「コミュニケーションは、お互いの違いを尊重することからスタートする」という考え方です。
人間は大切にしているものや価値観がそれぞれ違います。しかし、お互いの違いが尊重できていれば、違いから生じた問題に直面してもうまく解決することができるのです。もちろん、違いを理解しただけですべての問題を解決できるわけではありません。しかし少なくとも、お互いを尊重した関係性ができていれば、物事をいい方向に導きやすくなるのです。
質問をもらったこの指導者のチームには、『価値観シート』(下の図1)と『選手を知るための質問シート』(下の図2)を使ってお互いのことについて知る時間をつくってもらいました。
『価値観シート』は「大切にしていることは何ですか?」という問いに対し、「責任」や「達成」といった32個の代表的な価値観の中から「チームの一員としてサッカーをプレーする上で自分が大切だと思う6個」を子供たちに選んでもらうものです。
『選手を知るための質問シート』は自分のことを知るために「好き」や「得意」といった8つの項目に答えてもらうものです。
この2つのシートを記入する際に重要なのは答えを制限しないことです。本当に自分が出したい答えを書いてもらうために、3つのルールもつくりました。
書き出したあと、その理由をお互いに伝え合ってもらいました。そうすることによって「一人ひとりが考えていることや大切にしていることが違う」ということに気づけます。
「お互いの違いを知ること」がコミュニケーションの第一歩です。お互いの違いを知ることができたら、チームメイトを尊重できます。良いコミュニケーションにもきっとつなげられるはずです。
『価値観シート』に関してはその後、チームとして大切にする価値観を4つ程度に絞ってもらいました。それが「チームにとって大切にするもの」となりました。また、そうしたことにより、子供たちは、「自分たちで考えたこと」がチームの価値観として反映された、という喜びと自信を持てたのです。
取材・構成/髙野直樹
写真/宮原和也、BBM
藤代圭一(ふじしろ・けいいち)/1984年生まれ、愛知県出身。一般社団法人スポーツリレーションシップ協会代表理事。教えるのではなく問いかけることでやる気を引き出し、考える力を育む『しつもんメンタルトレーニング』を考案。全国大会優勝チームなど、さまざまなジャンルのメンタル・コーチを務める。著書に「子どものやる気を引き出す7つのしつもん」(旬報社)、「スポーツ大好きな子どもが勉強も好きになる本」(G.B.)がある。http://shimt.jp
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