※上のメイン写真=ドリブルで相手守備陣を何度も切り裂いた大阪市ジュネッスFCの川口遼己(10) 写真/河合拓
清水昭彦 もともとは大阪市の選抜チームでした。『大阪市FC』というチーム名で活動していたのです。現在、クラブの顧問を務めている米田文範が発起人です。1990年代まではジュニアチームは大阪市内に数えるほどしかなかったそうです。その後、少年団やクラブチームが増え、それぞれが多くの試合を組めるようになってきたため、選抜形式をやめて単独のチームにしたそうです。それが2001年です。そのときに、「若さ」を意味するフランス語の「ジュネッス」をチーム名に入れ、『大阪市ジュネッスFC』に改称しました。現在は、私がジュニアユースを担当し、弟の亮がジュニアを担当しています。2人とも大阪市FCのOBです。
清水亮 小学生を対象にして、『ジュネッス南』、『ジュネッス阿倍野ブランチSS』というスクールを開いています。
ジュネッスのジュニアチームは「小学3年生以上のスクール生の選抜」という形をベースにしています。スクールとチームが活動する曜日は違いますが、平日2日と週末に活動しています。両方に参加している子供もいます。
清水昭彦 サッカーを通じて、健全な人格の育成を行なうことです。
そして、サッカー選手としての成長という観点では次の4つの要素を指導コンセプトとしています。1:個人でボールを保持する
2:動きながらボールを止めて、蹴る
3:状況を見て自分で判断する
4:できる限り前を向く
特に、4の「前を向く」ターンの技術にはこだわりを持っています。ボールを奪いに来た相手と入れ替わるターンの使い方は重点的に教えています。多くの場合、前を向ける状況なのに、ワンタッチでバックパスを選択することが多いのですが、改善するように繰り返し指摘しています。
清水亮 2の「動きながら止めて、蹴る」という要素について例を挙げるなら、コントロールした足をボールに触れるのと同時に地面に着地させることを徹底している点です。ボールに触れてから着地すると、1歩余分にステップを踏まざるを得ず、スピードを落とすことになるからです。
3の「状況判断」に関しては、ゲーム形式のトレーニングを多くして身につけさせています。目的に応じたトレーニングを繰り返し行なうことで、コンセプトを少しずつ選手の体に馴染ませていくという考えを持っています。
清水昭彦 いいえ。私たちはまだ現役でプレーしながら指導を始めました。最初は指導についての知識が十分ではなく、試行錯誤を繰り返していました。私が指導を始めた2002年には、当時小学6年生だった丸橋祐介・選手(現在はセレッソ大阪)がいましたが、そのときは現在の指導コンセプトとは違ったものでした。先ほど挙げた4つの指導コンセプトが試行錯誤の中から次第にできあがったのは今から10年ほど前なのです。
清水亮 この指導コンセプトはさまざまなことを試した末にようやく決まった印象です。例えば、ドリブルだけやってみたり、踊りながらボールタッチをして身体操作能力とコントロール力を同時に高めることに取り組ませていたりしました。それが必要だと思ってやったのですが、「コントロール力だけが伸びて状況判断が悪くなる」デメリットも感じました。子供たちも「ボールを奪われなければいいスポーツ」と勘違いし始めたようでしたので修正しました。
清水昭彦 いろいろと試すうちに、本当に必要な要素が整理されてきたのだと思います。優先して教えるべきことは「どのチームでも必要になること」です。チームのスタイルと相性が良ければ個性が活きるタイプの選手もいますが、本当にいい選手はどのチームに入っても重宝されるものです。そういう選手を育てたいです。
清水昭彦 そうです。ドリブルだけやらせることや、ボール扱いが得意でない子供にポジショニングばかり教えることにも、同じように違和感を覚えました。以前は、「この年生まではドリブルだけやろう」などと特化してやっていたのですが、選手がそれぞれに持っている能力も志向も成長段階も違いますので、一律に決めることはできないと思ったのです。それからは、選手個々を見て指導するように変えました。
もちろん、全選手に必要なこともあります。例えば、正確にボールを扱うことや奪われないこと、守備を頑張ることなどです。一方で、『エラシコ』や『ヒールリフト』は全員ができるようになる必要はないはずです。ただ、それらの技をしたい選手が練習して覚えようとしているのであれば、そうした点を伸ばす指導をすることで強烈な個性が育っていくのを手助けすればいいと思います。
清水昭彦 ジュニアユースとジュニアの指導者が情報を共有し、コンセプトに沿って指導しています。また、各コーチは1つのカテゴリーだけを受け持つのではなく、さまざまな学年を指導するようにしています。選手も同じグラウンドで練習することで、お互いの練習風景を見たり、コミュニケーションをとったりすることができています。
清水亮 練習の難易度は異なりますが、基本的に教える要素は変わりません。大きな違いとして挙げられるのは、ロングパスを使った展開があることくらいだと思います。ジュニア年代では大きな体格の選手以外は精度のあるロングパスを蹴ることがなかなかできませんので、基本的にはショートパスを使わせます。クロスの際も基本的にはグラウンダーで通すように指導しています。「浮き球を蹴ってはいけない」ということではなく、精度のあるボールを蹴れないのであれば、グラウンダーのパスを工夫すればいいのです。反対に、ロングパスを蹴れる子供にはミドルシュートを積極的に打つように教えています。打てる状況であれば、パスする味方を探すより、シュートを打ってほしいからです。
清水亮 現在はサッカーの専任コーチはいません。大学生、社会人など、さまざまな肩書のメンバーで指導にあたっています。
清水昭彦 私たち兄弟がそうであるように、このクラブはOBが教えるというサイクルで引き継がれてきています。これからも私たちの教え子が指導者として帰って来られる、家族のようなチームであり続けたいと思っています。
清水亮 プロ選手をもっと輩出したい気持ちもあります。大阪市FC出身の濱田武・選手(2017年に現役から退いた)、大阪市ジュネッスFCになってからはセレッソ大阪の丸橋選手がいますが、現時点では2人だけです(ジュニアユース出身の起海斗・選手がレノファ山口FCへ来季加入する)。いつの日か、ガンバ大阪とセレッソ大阪の両チームの主力にジュネッスのOBがいる『大阪ダービー』を見たいものです。
(取材・構成/平野貴也)
写真右のジュニアユースの清水昭彦(しみず・あきひこ)・監督は1983年生まれ。小学校教諭。大阪市FCのジュニアとジュニアユースを卒団後、高校卒業時までプレーし、大学在学中から大阪市ジュネッスFCで指導を始めた。写真左のジュニアの清水亮(しみず・りょう)・監督は86年生まれ。同じく大阪市FCのジュニアとジュニアユースを卒団後、高校卒業後までプレーし、その後、大阪市ジュネッスFCで指導を始めた。活動は主に大阪市の阿倍野区と住吉区、そして堺市で行なっている(http://www.geocities.jp/jeunessefc2002/)
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