<取材・構成/安藤隆人>
藤島 いいポゼッションとは、受け手と出し手の関係が良好で、出したパスに対して周りもしっかりと関われているものです。端的に言えば、出し手の質だけでなく、受け手の質も重要です。出し手と受け手の質が高いことが前提としてあるボール運びや相手の崩しが、いいポゼッションに当たると思います。
藤島 私は受け手のほうが優先されるべきだと思っています。受け手の状態がいいときに出してあげるのです。昌平高校も受け手のことを優先的に考えてボールを動かす姿勢を持っています。
藤島 選択肢をたくさん持ってプレーすることです。相手の存在が常にある中で、「相手は何をされると嫌か」、「相手が何をしてきたらどう動くか」などの駆け引きを、出し手だけではなく受け手もするべきです。特に、近年は相手のプレッシャーが厳しくなり、スペースが少なくなっています。だからこそ、ギリギリのところで相手をかわしたり、パスを通したりできなければいけません。
例えば、足元で受けて相手を食いつかせたり、かわしてから受けることで前を向いたりする狙いを持ってボールを受け、次の選択肢も持つのです。受け手は次の瞬間に出し手に変わります。指導者は、選手(受け手)が次の受け手、さらにその次まで意識しているかどうかを見極めないといけません。意図のあるプレーか、ただのクセなのか、といった点を見逃さずにトレーニングに落とし込むことが大切です。
ボールをいくら動かしてもいい判断や意図がなければ相手を崩すことはできません。周囲を見ることは基本のこととして私は捉えています。周囲が見えていなければ選択肢は増えません。
藤島 縦へポゼッションしていかなければいけませんが、縦にボールを入れることが大事なのではなく、縦に入れたあとが大事です。パスしようとしたときの受け手の状態、受け手の次の選択肢、さらには次の受け手になる選手が味方を見て新たな選択肢を持つこと。これら3つのタイミングが一致しないと、縦に素早いポゼッションからゴールに結びつけることはできません。
藤島 やはり、駆け引きの要素をトレーニングに入れないといけません。ポゼッション練習でも駆け引きの要素をたくさん入れて、①強いパスか、弱いパスか②足元か、スペースか③時間をつくるパスか、ワンタッチで展開するパスか④受け手の意図を読んでいるか、受け手は出し手に意図を伝えているか、などをパスで判断させることが大切です。
先ほども話したように、相手を食いつかせるパス、味方に前を向かせるパス、勝負を決めるパスなどは、受け手と出し手だけのメッセージ交換だけでなく、周囲にも波及させることが大切です。サッカーは「1対1」のスポーツではありません。1人から全体へ、「1対1」から全体へ波及できるように、トレーニングの中で当たり前のように駆け引きをする状態をつくらなければいけません。
藤島 加えて、ドリブルや横パス、あるいはロングパスで、スペースをつくったりフリーの味方をつくったりするイメージもなければいけません。サッカーは地上だけではなく、空中(空間)も使えます。手前が密集状態になっているのであれば奥(遠く)を使って攻めるなど、何通りも方法があることを理解させなければいけません。ポゼッションはやはりゴールに到達するためのプロセスです。ポゼッションを強調しすぎて、「ボール回し」を盲目的にさせてしまうのは気をつけなければいけません。ポゼッションにおけるアイディアは、あくまで相手によって変化させなければいけないからです。「相手がこうだから、自分はこうしよう」などと、駆け引きすることで、アイディアはより豊かになります。
藤島 すると、手段が目的にならず方法の一つとなり、アタッキング・サードで意図的に優位性をつくり出すのを意識させることができます。「ゴールを奪うためのポゼッション」という前提の上で、イメージの共有と駆け引きを練習していくのが重要なのです。
藤島 そうですね。
ただし、私がこれまで話してきたことを、ただ「ゴールへ向かおう」といった単純な言葉で伝えてしまってはいけません。イメージの共有や駆け引きを奪ってしまう危険性があるからです。「どうしたらゴールやシュートに結びつけられるか?」という問いかけを、いろいろなアプローチで選手たちに投げかけながら練習を積み重ねていくことが重要です。
昌平のチームづくりを進める上では、速攻、遅攻、テンポの切り替え、前からプレスを仕掛けてのショート・カウンターなど、複数のパターンを想定して練習しています。その中で、ドリブラーを組み込み、ドリブルをアクセントとすることにも取り組んでいます。私としては、ドリブルのないポゼッションなど考えられません。
藤島 単純なことを言えば、「パスもあるし、ドリブルもある」といった選手は、それだけでほかの選手よりも多くの選択肢を持っていることになります。だからこそ、ドリブラーは個人としてだけではなく、チームとして活かしたいのです。ドリブルなくしてボールを保持しながらのいい崩しはないと思っています。
藤島 最終ラインから細かくつないでいくことばかりがいいわけではありません。リズムは一定ではいけませんし、リズムに変化をつけた中で相手と駆け引きをし、前向きに多くの選手をゴール前に行かせることが大切です。
今年の昌平でポイントとなっているのがフォワードの佐相壱明・選手(8月30日に大宮アルディージャへの来季加入が内定)です。彼はディフェンダーをうまく釣り出しながらターゲットとなり、周囲との連動性を引き出せる存在だからです。しかし、今年のインターハイではその点がうまく噛み合いませんでした。ボールを回していても、「縦パスを入れるためのボール回し」になってしまい、「縦パスを入れてからの選択肢の連動」を出すまでには至りませんでした。その点を反省し、現在は今日話してきたような「縦パスのその先」を強く意識して練習しています。昌平のいいポゼッションを構築するためのアプローチと考え、取り組んでいます。
<プロフィール>
藤島崇之(ふじしま・たかゆき)/1980年4月12日生まれ、神奈川県出身。習志野高校、順天堂大学でプレー。2007年に昌平高校の監督に就任。14年に全国高校サッカー選手権大会へ初出場すると、15年はプリンスリーグ関東に初参戦。初出場となった16年のインターハイではベスト4に進出した。昨年は同校初のJリーガーを2人同時に輩出(ジュビロ磐田の針谷岳晃とサンフレッチェ広島の松本泰志)。今年は佐相壱明の大宮アルディージャへの加入内定が決まっている
<出典:サッカークリニック2017年11月号>
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