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2017-09-13

9秒98の桐生祥秀は 日本最速のGKだった?

写真/田中慎一郎

 9月9日に福井県で行なわれた日本インカレで桐生祥秀・選手(東洋大学4年)が男子100mで日本人初の9秒台となる9秒98をマークした。実は桐生選手、小学生時代はサッカーをしていたのだが、どんな選手だったのだろうか?
『サッカークリニック』の2016年12月号では連載企画『ジュニアクラブ訪問』で彼の出身クラブである『プライマリーサッカークラブ』を訪ね、2人の恩師に取材している。
 桐生選手に関するコメントを紹介しよう。
取材・構成/平野貴也

――リオデジャネイロ・オリンピックに陸上競技の男子短距離で出場した桐生祥秀選手(東洋大学)はOBだそうですが、サッカーでプロになった選手などはいますか?

寺村コーチ プロはいません。しかし、滋賀県で言えば、草津東高校や野洲高校など県内の強豪高校に進み、全国大会に出場した選手はいます。例えば、昨年のインターハイに出場した野洲のミッドフィルダー林雄飛選手などです。桐生選手に関して言えば、サッカーではありませんが、このチームからオリンピック選手が誕生したというのは本当にうれしいことです。みんなで応援しました。2013年に彼が100メートルで10秒01を記録(日本記録は10秒00)したときは、ウチにも報道陣が取材に来ました。
桐生選手は中学生のときに陸上競技に転向しましたが、子供たちが自分のいいところを見つけて伸ばしていく姿を見るのは楽しいです。OBの活躍はサッカーではなくてもうれしいことです。

――桐生選手は少年時代、どんなサッカー選手だったのですか?

寺村コーチ 彼は足元の技術で勝負するタイプではありませんでした。しかし、スピードがありましたので、スピードだけで相手を抜いていました。守備で抜かれてもすぐに追いついていました(笑)。特にサイドバックをやったときの攻め上がりと戻るときのスピードは強烈でした。体は小さいほうでしたけど、滋賀県大会出場がかかった試合など、勝負どころでは負けん気の強さを見せるタイプでもありました。見ていて心を動かされるプレーをしていました。

峯コーチ 桐生選手の学年は私が担当していたのですが、彼はフリーランニングもドリブルも速かったです。当時のチームは足の速い子がたくさんいて、最初はその中の1人という印象でしたが、卒団する頃には確実に最も速い選手になっていました。

写真/中野英聡

――桐生選手は少年時代にゴールキーパーだったと話していました。快足の選手をキーパーに起用するのは珍しいと思います。「足が速い」と聞くと、快足ストライカーやサイドアタッカーのイメージが先行しますが……。

峯コーチ 同じ学年でそれまでキーパーだった子供が5年生になるときに家庭の事情で辞めてしまいました。正ゴールキーパーがいない状況になったのがきっかけでした。いろいろな選手を試したのですが、桐生選手はシュート・ストップの反応も良かったですし、スペースに走り込んで来る相手フォワードに対して前に出て止めるのもうまかったのです。「キーパーをやってくれないか?」と私がお願いしました。キーパーの練習をさせながらも、フォワードでときどき起用するとスペースへ抜け出して豪快にゴールを決めていました。それでも、5、6年生のときは正ゴールキーパーと言える存在でした。
確かに足は速かったのですが、同じ学年に足が速い上に足元の技術に長けた選手がほかにも何人かいたのです。そのため桐生選手を前線で起用することはあまり考えていなかったのです。ただし、キーパーのポジションにおいても桐生選手の特徴はやはりスピードでした。ジュニア年代は最終ラインの裏への蹴ることが多い傾向がありますが、彼は相手のカウンターに対して、相手の選手よりも早くボールにたどり着いてピンチの芽を摘んでいました。
彦根市選抜のセレクションもゴールキーパーで合格していたのです。キーパーとして「前に出るときの出足の鋭さがいい」という評価をもらっていました。

――桐生選手に、「陸上競技に転向せず、サッカーを続けてほしかった」という思いはありますか?

峯コーチ 陸上競技に移って良かったと思っています。卒団する頃、「中学生になったら陸上競技をやる」と桐生選手が決意したときも、同学年の選手や彼の家族もみんな、「桐生君は陸上のほうが向いている」と納得し、応援ムードになっていました。私の息子も彼と同い年で同じ中学校に通っていたので、サッカーをやめて陸上競技に進んだあとの状況も伝え聞いていました。運動会の頃になると、桐生選手が本気で走るかどうかが話題になるくらいに大会などで活躍していたので、「そのうちオリンピックに出るんじゃないか」と冗談で言っていたのです。それが本当にオリンピック選手になり、銀メダルも獲得したので、今では「そんな選手に出会えて刺激的だった」という思いです。

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