獅司に体勢を立て直すいとまを与えず、掬い投げから右差し手と右腰をぶつけるようにして寄り切り、4連勝とした藤ノ川。連日きびきびした動きで、幕内前半戦の土俵を盛り上げている
全ての画像を見る
藤ノ川(寄り切り)獅司
この日は大の里が霧島を余裕を持っての叩き込み、豊昇龍も若隆景を寄り切りと、両横綱が危なげなく白星。さらに関脇安青錦も力強く隆の勝を押し出した。そして昨日まで黒星先行だった大関琴櫻も、内容的には立ち合い少し動いて上手を取りにいくような相撲ではあったが、伯桜鵬を退けて星を五分に戻した。関脇王鵬こそ宇良に星を落としたが、まずは4日目にして今場所初めて、安泰ムードの漂う土俵となった。
そんな中、幕内前半戦の土俵で、キラリと光る元気な相撲を見せているのが、入幕3場所目の20歳・藤ノ川だ。この日は獅司を、右の差し手を突きつけながら根こそぎ倒すような相撲(決まり手は寄り切り)で白星。この日を終わって大の里、安青錦と3人だけとなった、初日から勝ちっ放しの一員に名を連ねた。もちろん平幕では全勝はこの藤ノ川だけだ。
藤ノ川と言えば、177センチ、120キロと、幕内では翠富士に次ぐと言っていい小兵。この日の対戦相手の獅司とは、身長で17センチ、体重で49キロもの差がある。もちろん藤ノ川としては、潜って攻めるということになるが、これだけ体格差があると、潜りにいっても引っ張り込まれたり、上手に手を掛けられたりの危険は常にあるので、なかなか難しい相手のはずだ。
しかしこの日の相撲は、最初から最後まで藤ノ川のペースで進んだ。まず立ち合いはオーソドックスに下からガチッと当たる。ここでうまいのは、頭で当たって上体で絶妙な角度を作り、相手から廻しを取りづらい形にしているところだ。藤ノ川によれば「当たったあと左が差せなかった」とのことだが、むしろ右がズボッと深く入った。
ここで、「止まったらヤバいと思って」すぐに動けるところが、藤ノ川の相撲勘のよさだ。すぐに差した右から掬い投げ。「無理やり振ったら、(相手が)よろけた。そこが勝負どころと思って出ました」と藤ノ川。そのまま右の差し手を突きつけながら出た。同時に下から自分の右腰を相手にぶつけるようにしながら相手の重心を浮かせているのもまたうまい。最後は自分も少し崩されながら相手を倒したが、その前に獅司の足が俵を踏み越しており、寄り切りとなった。
この藤ノ川の魅力は何と言っても、小兵でありながら、相手の力をかわして勝とうとするのではなく、常に前に攻め切って決着をつけようとしているところだ。例えばこの四股名を「つけてほしいな」と希望していたという先代の伊勢ノ海親方(元関脇。「藤ノ川」としては先々代)は、ソップ型の力士で、横への動きや蹴返しなどもあり、相手の力も利用しながら、スピードで翻弄していく、というタイプだったが、同じくスピードが武器ではあっても、当代の藤ノ川はちょっと違う。素早い動きで勝機をつかみ、その小さな体でとにかく前へと攻めて相手を倒そうとする。ファンとしてみれば、とにかく応援したくなる、小気味のいい相撲っぷりなのだ。負けん気の強さがにじみ出ている面構えも魅力的。
先場所負け越した西9枚目が現在のところ最高位だが、果たして上位と当たったらどんな相撲を取り、どこまで通じるのか、早く見てみたい若手力士だ。
4戦全勝には、「まだ4日目。序盤で勝っているだけ」という藤ノ川。両横綱と安青錦が安定して走っているだけに、まだ優勝争いがどうこうという段階ではないが、このまま暴れ続けて、上位陣による争いだけでなく、小粒でもピリリとした味付けを、今場所の土俵に効かせていってほしいものだ。
文=藤本泰祐