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2017-06-26

ケガを乗り越えて復活の二冠。 サニブラウン、日本陸上で100m、200mを制す

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 6月23~25日に、陸上の日本選手権が大阪・長居スタジアムで開催。注目の男子100m・200mは、サニブラウン・アブデル・ハキーム(東京陸協)が18歳にして二冠を獲得した。

 2015年には世界ユース選手権(18歳以下の大会/コロンビア)で、100mと200mを共に大会新記録で優勝。スーパースター、ウサイン・ボルト(ジャマイカ)が保持していた記録を破ったことで、サニブラウンの名は一気に世界へと知れ渡った。さらに、同年8月、北京で開催された世界選手権200mに出場すると準決勝に進出。そして、今年、日本選手権で圧倒的な走りで二冠となり、夏に行われるロンドン世界選手権代表に内定した。

 若くして輝かしい成績を収めてきたが、道のりは順風満帆ではない。

 小学生のころに陸上を始め、東京・城西大城西中3年になると全国大会でも結果を残すようになる。しかし、入学当初は激しい成長痛に悩まされ、練習に顔を出さない日々も続いた。それでも「自分のペースで」と無理強いをしなかったのが、家族、そして山村貴彦先生だった。山村先生自身も00年シドニー五輪400mに出場している名スプリンター。城西大城西中・高とサニブラウンの指導に当たり、その才能を開花させていった。

 良き仲間にも恵まれた。15年、世界ユースで結果を出した後に行われた和歌山インターハイでは、100mで大嶋健太(東京高、現・日大)に僅差で敗れ、200mでは同じ日本陸連ダイヤモンドアスリートである山下潤(福島高、現・筑波大)、犬塚渉(浜名高、現・順大)らと競り合うなど、仲の良い先輩たちと走ることを楽しんでいた。4×100mRでも仲間たちとバトンをつないで入賞。“世界一”であっても「インターハイは簡単に勝たせてもらえないですね」とうれしそうに話す高校生らしい笑顔が印象的だった。

 高校3年生で迎えた昨年は、リオ五輪を目指したシーズン。しかし、6月、日本選手権を前に、左太ももの肉離れを発症して、その後はリオ五輪、U20世界選手権(20歳以下の大会)に出場できず、長く試合から遠ざかった。

 その間、ケガをしたことで体のバランスを意識し、体幹の強化にも取り組んだ。さらに、卒業後にはアメリカの名門・フロリダ大学への進学も決定。今秋の入学予定で、現在は三段跳の五輪金メダリスト、クリスチャン・テイラー(アメリカ)らと共に、オランダを拠点に練習を積んでいる。その成果もあり、細かった身体はよりアスリート体型に成長。苦手だったスタートからの加速は、低い姿勢を保てる筋力とフォームを身に付けて改善された。得意の後半は、軸がブレることのない安定したフォームと、天性の接地がかみ合って強さを増している。インタビューの受け答え一つひとつに自信がうかがえるなど精神面でも成長。ケガを糧に進化し、この舞台に戻ってきた。

 その競技実績から“怪物”のように思われるかもしれないが、普段は仲間たちとはテレビゲームで遊ぶのが好きで、お茶目な性格。同級生だけでなく先輩や後輩たちにも慕われている好青年だ。日本選手権100mの後は、400mで世界選手権代表に内定した2学年上で仲良しの北川貴理(順大)と喜びを分かち合った。

 つらいときに支えてくれた家族、先生、仲間の思いを胸に、いつも刺激を与えてくれるライバルたちと共に、再び、サニブラウンは世界の舞台に立つ。

(プロフィル)
サニブラウン・アブデル・ハキーム/1999年3月6日生まれ。188㎝・78㎏、O型。城西大城西中→城西大城西高卒。今秋からアメリカ・フロリダ大学への進学が決まっている。
自己ベスト
100m10秒05(17年)=日本歴代6位、U20世界歴代11位
200m20秒32(17年)=日本歴代8位、U20世界歴代22位タイ
※記録は2017年6月27日現在

写真は2015年和歌山インターハイ200mの決勝。(写真左から)犬塚、山下、大嶋といった強力な先輩たちと対峙し、タイトルを獲得。良きライバル、仲間たちと共に成長してきた(写真/田中慎一郎)

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