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2017-12-25

ボディビル界のグルメ王 須山翔太郎選手の食事学

数々のスポーツ一大イベントが開催される年末年始。一方で、オフシーズンに突入し、来シーズンに向けて体づくりに余念のない人も多いだろう。体づくり=筋肥大。そして、筋肥大のためには食事・栄養摂取が重要だ。トップビルダーの1人であり、今年の日本ボディビル選手権では2位につけた須山翔太郎選手は、ボディビルダーには珍しいグルメ派。メリハリをつけた食生活で体力的、精神的にストレスを回避できているという。
(取材・構成/岡田真理、撮影/星屋宏道)
※本稿は、2016年2月に発行の『トレーニングマガジンVol.43』に掲載したインタビューを再構成したものです。ここでご紹介する須山選手の食生活、栄養摂取の考え方は当時のものです。何卒ご了承ください。

月~金は決まった食事メニュー
週末の外食はよいリフレッシュに

 サッカー少年だった須山選手が筋トレを始めたのは、中学3年生のとき。トレーニング部の顧問だった理科の先生が、理科室を改造してトレーニングルームを作っており、サッカー部を引退した須山少年も、そこで筋トレをするようになったそうだ。
 高校生になると、トレーニング熱はさらにヒートアップ。食品メーカーが出していた栄養素別のガイドブックを読み漁り、昼の弁当にはササミを詰めて持参する日々を送っていたという。中学生時に57kgだった体重は、みるみるうちに増えていった。
「当時は、ものすごい勢いでトレーニングをして、ものすごい量を食べていました。夜中に大きなおにぎりを2個食べたり、ナポリタンを食べたり。その頃には既に、ボディビルのために体づくりをしていたので、体重を増やさないといけないと思ってガツガツ食べましたね。若さもあって胃腸も元気でしたから、たくさん食べることは全く苦ではありませんでした。筋肉が増えるにつれて、食べたものを吸収できるキャパもアップしていくので、面白いように体がデカくなっていきました」
 食べた分だけ筋肉も増え、20kgほどの増量に成功。20歳のときには少し絞って、75kg以下級の大会に出場した(現在の体重は82~83kg)。
 現在はボディビルダーとして活躍する傍ら、パーソナルトレーナーとしても活動。仕事のあるときには、なかなかゆっくりと食事をとることができないため、ガッツリ食べるのは朝のみ。
「朝起きてから、鶏胸肉のソテーと野菜、そして白米を食べています。これは月曜日から金曜日まで同じ。鶏肉と白米の量も毎日同じで、分量をきっちり量って食べます。特に、タンパク質の摂取量は気にしていますね。また、野菜はインゲンやコーンなどをよく食べています。これは体のため、というよりも、彩りがよくて食欲をそそるのと、シンプルにおいしいから。以前は、ボウルいっぱいの生野菜を毎日のように食べていたこともありました。その辺りはその日の気分によって食べたいものを、という感覚で決めています」

キーワードはバランスよく。野菜もその日の気分に応じて、食べたいものをとる

 月曜日から金曜日の5日間の食生活では、基本となるタンパク質をしっかりとって、炭水化物の量でカロリー調整を行う。カロリー調整は、その日の行動量、トレーニング量、体の感覚で微調整を行うとのこと。ただし現在は、毎日ほぼ同じリズムで生活しているため、ほとんど同じ量を摂取しているそうだ。
 土曜日と日曜日は、クライアントなどと外食をすることが多いという。よく行くのはイタリアン、フレンチ、和食。外食のときは栄養素のことは気にせず、好きなものを食べる。それが、精神的によい気晴らしになっているそうだ。
「月曜から金曜までの間に家でとる食事は、減量食とそこまで大差ありません。減量中は食事のタイミングを変えたり、炭水化物を加減したり、オイルものを少し減らしたりするくらいで、ベースは同じです。基本的に土日の外食がなくなりますが、2015年は減量中にも外食していました。もちろん、食事の種類には気をつけていましたけどね。赤身のステーキや和食を中心に食べるようにしていました。イタリアンやフレンチは大好きなんですけど、減量中はさすがに我慢しました(笑)」

料理番組でテクニックを習得し
ストレスのない食生活を送る

 ボディビルダーというと、「ササミをミキサーにかけてドロドロにして飲む」「生卵を1日に何個も食べる」などという、極端な食事方法の逸話が思い浮かぶ。しかし、須山選手はそれを強く否定。
「生卵を何個も食べるなんて、したことないですよ(笑)。鶏肉は僕も毎日食べますが、ドロドロにして飲むなんて、絶対にないです。毎朝食べる鶏肉は、おいしく食べられるように調理しています。おいしい食べ方があるんだったら、そのほうがいいですよね。毎日おいしく食べることこそが、僕の食生活のこだわりです」
 須山選手は料理するのが好きで、時間さえあれば料理番組を見て研究しているとのこと。家ではよく餅を食べるのだが、その食べ方にもかなりこだわりがある。
「僕はアップルパイとか、りんごを使ったものも好きなんです。りんごは毎日食べているんですけど、りんごをレンジで温めて、餅で巻いてハチミツをかけて食べるとか。あと、味噌ピーナッツを餅でくるんで食べたり、普通にきなこで食べたり。餅は、4つくらいのバリエーションで食べます」
 須山選手は月曜日から金曜日まではほぼ決まった食事をとっているが、特にストレスは感じていない。それは、「おいしいもの」を毎日食べることができているからだ。
「習慣化してそれに慣れているからという理由もありますが、おいしく食べられているから苦しくないのだと思います。我慢しているという感覚がありません。やっぱり自分で研究しておいしく作ることができるというのが大きいと思います。僕が平日に食べている料理は、人に出しても普通の食事として食べられると思いますよ。料理がうまいか否かにもよりますが、食事のコントロールで苦しんでいる人は、自分で食材の調理法を研究すればいいと思います。料理のテクニックを身につければ、苦痛が軽減されて、ストレスフリーに食生活を送れるはずです」

食事コントロールに行き詰まったら
息抜きに自由な食生活を

 もともと食べることが大好きで、おいしいお店をリサーチしては足を運ぶという須山選手。ブログには華やかな料理の写真がズラリとアップされている。
「平日は栄養のことを考えて決まった食事をしている分、外食は好きなものを選びます。食べる順番も、昔は気にしていましたが、今はまったく。お酒もたしなむ程度には飲みますし、スイーツも食べます。リラックスタイムでもありますから、神経質にならないようにしています。やっぱりメリハリが大事かな、と」
 そんな須山選手だが、最近は「あまり食べられない」という悩みもあるのだという。
「昔は大会が終わったら8kgとか10kgとか、一気に増やせていたんですけど、最近は3kg増やすのもやっと。結構頑張って食べているんですけどね。少し胃腸が弱ってきているのかな…と。餅をよく食べているのは、おなかに入りやすいからという理由もあります。プロテインドリンクはもちろん毎日飲んでいますが、そのように流動食にしてとるような工夫もしていますね。食べるのも仕事ですから、やっぱり食べないといけません。胃腸が強くて食べられるからこそ体がデカくなるわけで、胃腸をケアすることはビルダーにとって、もう1つの課題かもしれないですね」
 若いビルダーのなかには、365日ストイックに食生活を管理しようとして、むしろストレス過多になってしまっている人も多いのではないだろうか。だが、須山選手はこう考える。
「ストイックな食生活を毎日ストレスなく継続できる人はもちろんそれでいいのですが、なかには体力的にも精神的にも行き詰まってしまう人がいるんじゃないかと思います。そんな人には、僕のようにメリハリをつけた食生活をし、時には好きな料理を好きなだけ楽しむビルダーもいることを、知ってもらうだけでも違うかなと思いますね」

【PROFILE】
すやま・しょうたろう
1981年生まれ。99年日本ジュニア選手権優勝。2004年には東京選手権を制覇した(22歳での優勝は歴代最年少記録)。16年世界選手権(75kg以下級)3位。17年アーノルド・クラシック4位、日本選手権2位、世界選手権10位。都内を拠点にパーソナルトレーナーとして活動している。

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