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2020-10-10

コロナに壊された「ゲームプラン」  切り替えて壮大な活劇に挑む=元アメフト選手、役者・田谷野亮

田谷野亮さんと内木志さん=撮影:小座野容斉

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 アメリカンフットボールを引退後、まったく違う世界で活躍している元選手は数多い。その一人が、俳優の田谷野亮さん(34)だ。10月15日から始まる演劇「怪盗☆ドラゴンカンパニーVol.1『イサヤ島の王女と神の右腕』」(CBGK シブゲキ!!)に、座長・主演として全力で取り組んでいる田谷野さんと、ヒロインの一人、内木志さん(元NMB48)に、話を聞いた。田谷野さんは、芝居に懸ける情熱と、アメフトとの強い絆について熱く語ってくれた。【聞き手・小座野容斉】

【インタビューの後編】「楽しく」厳しい稽古、観客は一緒に「参戦」 役者・田谷野亮がアメフトで培った「座組」とは


「助け合う力」で人脈が広がり一座がグレードアップ

 劇作家・小説家の故つかこうへいさんの作品に傾倒して、2016年に、自分の名を冠した「たやのりょう一座」を旗揚げ、つか作品にしぼって公演を重ねてきた田谷野さん。今年は、舞台役者として勝負の年だった。
 2月につかさんの「ストリッパー物語」を上演。さらに、4月には「飛龍伝」を上演すべく、稽古に取り組んでいた。ヒロインは2019年の「蒲田行進曲」から3作連続となる女優の中村静香さん。満を持しての取り組みだった。しかし、3月、新型コロナウィルス感染症が急速に拡大。政府の緊急事態宣言を受けて、「飛龍伝」はいったん5月に延期とした。しかし、一月延期しても、観客を入れて舞台を上演できる状況ではなく、無念の上演中止となっていた。

 ◇これまで、つかさんの芝居を突き詰めてやってきた田谷野さんが、今回はエンターテインメントに徹した楽しいお芝居をやる。その理由を教えてください。

◆田谷野:完全にコロナの影響です。もともとこういう舞台もやりたいという構想は僕の中にはありました。そして、劇場がシブゲキという、東京・渋谷のど真ん中。これはもう、振り切ったド派手なことをやろうというのが、最初の考えです。こういう状況下で、それでも劇場に足を運んでくださるお客さんがスカッとできるような作品をやろうと考えました。


◇「ストリッパー物語」そして「飛龍伝」と、つか作品を2本続けて上演する予定だった“ゲームプラン”が、大きく変わってしまいました。それをスパッと切り替えられたのは?

◆田谷野:いや、それでも「飛龍伝」の中止では、だいぶへこみました。東京芸術劇場という大きな舞台で、大作をやる。気合が入っていましたし、一座としても、もう一段階上に行くことができるチャンスだったので。みんなも落ち込んでいました。
 
 切り替えられた理由の一つは、人脈が増えたこと。コロナ禍の中で、演劇のコミュニティがみんなで助け合おうという方向になりました。その中で劇場さんともコンタクトとることが増えましたし、裏方さんというかスタッフさんとも話をする機会が増えました。そういうつながりが濃くなりました。その面では逆にラッキーでした。

 次のステップに行くときに、背骨がしっかりしたというか。いま、稽古をさせてもらっているこの場所も東京芸術劇場のものですが、それを借りられるようになった。今回は、壮大な舞台なので、裏方の人が凄く多い。

 「飛龍伝」は来年、もう1回チャレンジする予定ですが、今回できた人脈や裏方さんの力があれば、1段階グレードアップした、たやのりょう一座で、もっとバージョンアップした形でやれるな、と思っています。

 アメフトでいえば、エースQBが負傷して出られなくなった。違うゲームプラン・戦術で戦う。そしてチーム全体がグレードアップしたところに、エースQBが戻ってくれば、より強いチームになれる。そういう感じです。

ワクワクが詰まった冒険活劇

 今回、上演する「怪盗☆ドラゴンカンパニーVol.1『イサヤ島の王女と神の右腕』」は、「劇団はらぺこペンギン!」を主宰する、脚本家・演出家の白坂英晃さんが書いたオリジナル作品。演出は、田谷野さんとはつか作品を通じて長い付き合いの「劇団☆新感線」こぐれ修さんが手がける。
 田谷野さん、内木さんに加え、女優の中村有沙さん、グラビアアイドルの天木じゅんさんらが名を連ね、「海賊と美女が繰り広げる冒険活劇」だという。

たやのりょう一座提供

 ◇今回のお芝居のコンセプトを教えてください。

 ◆田谷野:冒険です。僕と、作家の白坂さんと、こぐれさんの、少年時代のワクワク感が全部詰まっています。もっとわかりやすく言うと、「週刊少年ジャンプ」の世界です。「ワンピース」「ドラゴンボール」「ルパン三世」のような、冒険と友情と戦いです。予備知識はまったくいらない、本当にわかりやすいお話です。内木さんは、さらわれるお姫様という、わかりやすい設定です。

 ◇見どころは

 ◆田谷野:舞台セットを初めて組むのです。今まではつかさんの芝居だったので、セットはほぼなかった。衣装もほぼなかった。素の舞台で、セリフだけの応酬でした。

 今回、本格的なセットを初めて組むし、衣装もきっちり揃えて、見た目からカッコいい。殺陣もあるのです。舞台で殺陣をやるのは初めてです。歌あり、踊りあり、殺陣ありの「エンタメのブッフェ」をお見せします。

舞台では初めてという殺陣の稽古に余念がない田谷野さん=撮影:小座野容斉

舞台では初めてという殺陣の稽古に余念がない田谷野さん=撮影:小座野容斉

 ◇演出のこぐれさんとは、つか作品を通じての付き合い。今回は作風が変わって娯楽活劇となります。

 ◆田谷野:もともと、(こぐれさんの)新感線が完全にエンタメなので、何十年と培ってこられた、お客さんに対するエンタメの提示のやりかたが凄いなと。改めて感じました。

 ◇キャストも多いですね。

 ◆田谷野:25人です。

 ◇アメフトのオフェンス、ディフェンス、スペシャルチームの合計人数と同じですね。

 ◆田谷野:(笑)

 ◇(内木さんに説明)アメフトは試合に出るのは11人ですが、チームで試合をするのに、最低それくらい必要という人数がだいたい25人です。オフェンスもディフェンスも専門職なので。ですが、田谷野さんは、選手時代はいろいろなポジションを掛け持ちして、二刀流どころか三刀流くらいの選手でした。

 ◆内木:凄いですね。知らなかった。すごい体力があるのですね。

 ◇体力だけでなく、センスがずば抜けていて天才でした。

 ◆内木:選手をやっているところが見たかったですね。

 ◇田谷野さんが、内木さんに出演をオファーした理由を教えてください。

 ◆田谷野:イサヤ島のお姫様「ナバナ姫」という役で、漫画のような世界の、わかりやすいお姫様を探していました。アメフト時代の人の繋がりで、法政のトレーナーをやっていた人から紹介されました。「本当にお姫様みたいな子がいるよ」と。

 ◆内木:その方がNMBのトレーナーをされていたのです。そのご縁で声がかかりました。田谷野さんのことは、その時点では存じ上げなかったです。

 ◇その時の気持ちは。

 ◆内木:とてもうれしかったです。舞台はこれまでに何度か出ていましたが、もっと出演したかったのです。コロナで、1本舞台が中止になってしまって、出られなくなった。そういう時に声をかけていただいたので。

 ◇いつ芸能界に入ったのですか。

 ◆内木:芸能のお仕事は11歳からするようになりました。アイドルとしては6年間活動してきました。去年の夏にNMBを卒業して、主に東京で芸能活動をするようになりました。卒業して3回目の舞台。ステップアップする大きなチャンスだと思っています。今回の舞台は、田谷野さんもそうですが、関西の方が多いので、稽古も関西ノリで楽しいです。

 ◇過去に出た舞台や、映画・テレビドラマの経験を教えてください。

 ◆内木:NMB時代は、映画は1本、テレビドラマは出たことがありませんでした。 舞台では、これまで3回お芝居しました。最初がNMB在籍時に出た、ノンバーバル(無言)劇で、セリフなしで顔の表情やダンスで見せる「KAKERU」という作品。次が主演で、網走でバーで働く女性を演じた「アイバノ☆シナリオ」という作品でした。三作目は「KAGEKI 黒蜥蜴」です。

 ◇「会いに行けるアイドル」として活動してきましたが、舞台での芝居もそういう場所ですね。

 ◆内木:NMBを卒業した後は、舞台のお仕事をメーンにしているのはそういう理由です。直接見に来ていただいて、いろいろなものを伝えたい。そう考えています。元々は人見知りで、人の前に立つのが嫌いだったのですが、NMB時代の活動を通じて、それが変わりました。人と関わることが多くて、ステージだけでなく、握手会などで、ちょっと自信がつきました。

 ◇今回の舞台について、教えてください。

 ◆内木:9月1日から1カ月以上、週6日稽古してきました。もう、ほぼほぼ、できています。最初から通せるくらいきちんとやっています。今回は、物語が壮大です。まだ、絵コンテでしか見ていないのですが、セットも豪華なので楽しみです。私自身と、私が演じるナバナ姫とは似ている部分も多いので、私なりにナバナ姫を演じたいと思っています。楽しみにしていてください。
稽古前にストレッチをする内木さん。連日の稽古も「楽しい」という=撮影:小座野容斉

稽古前にストレッチをする内木さん。連日の稽古も「楽しい」という=撮影:小座野容斉


 ◇田谷野さんは、内木さんだけでなく、中村有沙さん、天木じゅんさんと、美女に囲まれますが。
 
 ◆田谷野:3人だけでなく、一座の女性はみんな美女です。ピュアな彼女達を守りたいと思わせてくれます。

 僕は、座組の中で自分を中心に考えていない。誰が真ん中に立ったら面白いのか。面白いなと思う人をはめて行って、足りないところに自分が入る。今回も、姫が真ん中に立って、僕はその周囲に入る。

 早稲田時代に、監督からは試合の前日に「明日はレシーバーやれ」「QBをやれ」と言われていました。ポジション的に足りないところへ行って、エース級の働きをする。 僕は今でも、NFLをよく見ていますが、チーフスの10番、タイリーク・ヒルが好きなんです。QBマホームズは確かに凄いけれど、ヒルがいろいろなポジションに入って、中心に立っているマホームズを輝かせている。ああいう働きをしたいと思っています。
                                                                          (後編へ)

 中村有沙さん、天木じゅんさんのコメント

中村有沙さん
「今度、海賊の話やんねん!」「魚の国と野菜の国が争うねん!」
座長のこの言葉から、ここまでワクワクが広がるなんて。大切な人を“守る”こと。
それしか知らずに考えるよりもまずは行動をしてきた、そうやって生きてきた 1 人の女としてどこまでカッコ良くいられるか。またお茶目にいられるか。今回の私の課題です。
万全の対策をして、是非劇場でお待ちしております。今回は配信公演も行われます。心休まるご自宅でご鑑賞も可能です。ただただ観て、沢山笑顔になっていただきたい!!その為に精一杯努めてまいります。

天木じゅんさん
天木じゅんです!ずっと舞台に立ちたいと言い続けて、この度、オーディションを勝ち取り舞台出演が決まりました!作品と役に向き合って限界突破し続けられるよう頑張ります!どうか無事に安全に公演が出来るように祈るのみです。その時はみんな、観にきてね!^^

         ▽       ▽

 「たやのりょう一座」の第6回公演「怪盗☆ドラゴンカンパニーVol.1『イサヤ島の王女と神の右腕』」は、10月15~18日に東京・渋谷の「CBGK シブゲキ!!」で。期間中に計7回の公演を予定している。劇場に行くことができない人のために、インターネットでの配信も行う。チケットなどの詳細は一座のウェブサイトで。

たやのりょう一座
https://www.tayanoryo1za.com/


見に来るお客さんをすかっとさせたいという田谷野さん=撮影:小座野容斉
 田谷野亮(たやの・りょう)
 1986年9月18日、大阪府出身。少年時代にアメリカンフットボールを始め、関西大倉高、早大ビッグベアーズ、Xリーグのオービックシーガルズでそれぞれ活躍した。早大時代は、DBだけでなく、QB、WR、RBなどあらゆるポジションをこなすジョーカーとして名を馳せた。
 2007年には、法政大とのリーグ戦で、5回に及んだ伝説的な延長タイブレークを戦い、QBとしてパス1回、WRとしてパスレシーブ2回、RBとしてラン1回と、あらゆる形でタッチダウンを決めた。卒業後加入したオービックでも、ライスボウルに2回優勝したが、膝の負傷のため現役を引退し、俳優を志した。
 12年に人気特撮シリーズ「仮面ライダーウィザード」でデビュー。16年には「たやのりょう一座」を旗揚げし、つかこうへいさんの作品を演じてきた。昨年は「蒲田行進曲」、今年2月には「ストリッパー物語」を上演した。

内木志さん=たやのりょう一座提供
 内木 志(ないき・こころ) 
1997年4月6日生まれ、滋賀県出身。 NMB48の元メンバー。2019年夏にNMBを卒業後は、舞台やグラビアなどで活躍中。20年に鹿児島県・ヨロン島特命大使就任。代表作に、Engeki Project KERMIS Vol.4『KAGEKI黒蜥蜴』、舞台『アイバノ☆シナリオ』など。写真集『こころまち』(双葉社)好評発売中。



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