メキシコのファイターはどうして強いのか。その理由のひとつに、高地に存在する恵まれたボクシング環境がある。標高3000メートルの地にあるオトミとサン・ファン・ヒキピルコ。このいずれもに立派なボクシングジムがあり、トップ選手が思う存分にトレーニングに励んでいた。
この場所でエリック・モラレスに会うのは2度目。前回は彼が現役時代にマルコ・アントニオ・バレラとラバーマッチに向けて調整していたときだった。「一言でここは最高だから」。いまはトレーナーとして同じティファナ出身の前WBO世界スーパーウェルター級王者ハイメ・ムンギアを指導する立場で滞在している。
オトミのキャンプではエストラーダへのリベンジを誓い、クアドラスがトレーニングする メキシコ州にあるセントロ・セレモニアル・オトミは首都メキシコシティから車で1時間半ほど走らせた海抜3000メートル付近の高地。文字どおり人里離れた山中にあるオトミ族の聖地に複数のロッジとふたつのジムが併設されている。いまはここで10月30日のアメリカの試合に向けたムンギア、そしてファン・フランシスコ・エストラーダとの再戦を控えるカルロス・クアドラスがキャンプを張った。
「5月に試合の話があったときもオトミで練習していた。新型コロナ発生で流れて、一度ティファナへ戻った。いまは改めてここへ戻ってきた形(ムンギア)」。決して崩れないコンディションを作るために、隔離された環境を求めて選手たちが集まってくる。
ハイメ・ムンギアのバッグ打ちを見守る父ランボー・ムンギア「かつての私のアイドル、フリオ・セサール・チャベスを始め、モラレス、“トラビエソ”アルセら、有名選手がここで調整してきた。私自身、ここでトレーニングした試合では負けたことがない。日本に住んでいた時、初戴冠する前の1ヵ月もここで合宿したよ」
アマ代表のときからオトミを知るクアドラスは、自分にとって縁起のいい場所と強調する。昨年4月、議論を呼ぶ判定の末に敗れたエストラーダへのリベンジ、何より世界チャンピオン返り咲きに向けて集中し切っている。
オトミ、サン・ファン・ヒキピルコとも、設備の整ったボクシングジムがある 10月23日にセットされたエストラーダ対クアドラスIIの開催地はメキシコシティだ。このクアドラスと戦うエストラーダもオトミと同じエリアにある高地サン・ファン・ヒキピルコへ、ソノラ州エルモシージョからチーム丸ごとやってきた。
朝6時に合同のロードワーク、午後はエストラーダがチームの中で最後にジムへ現れる。過去にブランクを作った右拳の不安はもうない。WBA世界スーパーフライ級スーパー王者ローマン・ゴンサレスとの再戦は金銭面でまとまらなかったけれど、「パンデミックの問題があるし、次の試合は無観客になるだろう。それでもまずはクアドラスを相手に2度目のWBC王座防衛戦をできることに満足している。再びゴンサレス戦や他団体王者と統一戦の話が持ち上がるよう、いい内容で勝利したい」と話すと、この日のジムワークは始まった。
サン・ファン・ヒキピルコにて。左からエストラーダ、トレーナーのホセ・カバジェロ、そしてミゲール・ベルチェルト
文◎信藤大輔 写真◎信藤大輔、Alma Montiel