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2021-09-01

ストレス環境下における子どもの心のサポート・1「ストレス反応に気付くには」

写真/BBM

新型コロナウイルスの子どもへの感染が広がってきている。部活動やクラブチームの活動が制限されたり、大会が中止になる、または大会に参加できなくなるということも今後増えてくるだろう。先の見えない状況は誰もがストレスを感じるもの。特に小中学生は感情をコントロールしたり、自分の気持ちを伝えることがまだ難しい年齢。そうしたジュニア世代を教える指導者は、どのようなことに気をつけたらいいのだろうか。
災害支援に携わる臨床心理士であり、日本ストレスマネジメント学会の常任理事も務める、桜美林大学リベラルアーツ学群准教授の池田美樹氏に、緊急時や非常時における子ども心のサポートについてお話をうかがった。全3回でお届けする。
※本稿は「ソフトボール・マガジン2020年11月号」掲載記事の再録です。


ストレス下で表れるいつもと異なる反応

 臨床心理士である池田美樹氏が深く携わっていることの一つが「災害支援」。災害が起きた際、被災した人々や、救急隊員、行政職員、医療従事者といった支援者に対して、心理・社会的な支援を行っている。

「災害支援に、心理的応急処置(サイコロジカル・ファーストエイド)というものがあります。「『3L:見る(Look)-聴く(Listen)-つなぐ(Link)』と要約され、誰が強いストレスを受けているのか(見る)、どのような支援(サポート)を必要としているのかを見極め(聴く)、適切な支援が得られるように手助けをします(つなぐ)。心理的応急処置が提供されることによって、その人は自分の持っている力で回復していくことができます。

 現在のコロナウイルス禍では、誰もがストレスを受け、いつもとは違う心や身体の反応(ストレス反応)が生じることがありますが、それは当たり前のことなのです。ただし、ストレス反応が強く生じていたり、長く続いているならば、個別に話を聞いたり、必要に応じて専門家に紹介しましょうという考え方です」

 新型コロナウイルス禍では、子どももストレスを感じる環境下にいる。学校生活では授業形態などが変更になり、スポーツでは目標となる大会が中止となったり、チーム活動にもさまざまな制限がされたりと、日常が様変わりしてしまった。また、最近では集団感染が発生した学校に対しての誹謗中傷が問題となったが、学校やチームでの活動に非難の目を向けられるのではという恐れも心に影響を与えるだろう。

 こうしたストレスから子どもたちを守るために、ジュニア世代を指導する大人たちには何ができるのだろうか。

「指導者は『こういう時期だから』と過剰に敏感になる必要はありません。強いストレス反応が生じていないかには、注意を向けていただきたいと思います。子ども、とりわけ小学校低学年くらいの年代は、自分の気持ちをうまく言葉で表すのが難しいものなので、いつもと様子が違っているところがないかを見守ることが大切です。例えば、いつもはみんなと一緒にいるのに一人ポツンと離れてじっとしている、いつもより表情や動きが硬い、あるいは逆にはしゃぎ過ぎているなどです。食事や睡眠にも影響が出ます。食欲の低下や不眠、反対に食べ過ぎる、寝過ぎて起きられない(過眠)場合もあります。

 また、乱暴な言葉を使う、他人を責める、ケンカしやすくなるなど攻撃的になることもストレスのサインです。特にチーム競技では、ささいなミスがあったときに、チームメイトを過度に責めてしまうこともあると思います。ただ、時にいら立ってしまうのは、大人も当たり前にあること。それをいちいち個別で呼び出されていては、逆に『なんだよ!』と反発心や攻撃性が強くなったり、孤立につながります。まずはチーム全体に向け『お互いのミスを責めないようにしよう』といった呼び掛けをしたほうがいいと思います」

 誰しもが少なからずストレスを受けているのが現在の状況。選手たちが徐々に前向きな気持ちに変わっていけるよう、指導者はまずチームの良い雰囲気づくりを心掛けたい。

「そこまで強い反応がなくても、なんとなくイライラしてしまったり、やる気が出なかったりという子どもは必ずいるはずなので、『今は気持ちに変化が起こりがちかもしれないけど、チームスポーツではお互いに気持良くプレーできることが大切。良いチームワークをつくりながら、パフォーマンスを上げていこう』といったように、ポジティブな働きかけが大事だと思います」

 
ストレス反応が長引いたときには

 そんな中でもふさぎがちになり練習を休むなど、ストレスへの反応が長期にわたる子どもが現れるかもしれない。チームの指導者として、どのような対処が最適なのか迷う人も多いだろう。

「チーム活動の中で見られた変化ならば、まずは直接見た人が『こういうところが気になっているんだけど、どう?』と、話を聞いてみるといいでしょう。その際、必ずしもチームの責任者である監督が聞かなければいけないわけではなく、コーチやスタッフなど、その選手が話しやすい人が対応してください。中には、チーム内の大人とうまく話ができない子もいます。あまり明瞭な反応がなかった場合は、次の段階として保護者や養育者など普段身近に接している大人へ連絡し、『少し様子が違ったので話を聞いてみたのですが、ご家庭でもお気付きのことはありますか?』などと、相談してみてください。

 もし、チームやご家庭だけでの解決が難しいようでしたら、専門家に相談することも選択肢の一つです。子どものストレス反応は、頭痛や腹痛など身体の症状として出ることも多いものです。まずは、かかりつけの小児科を受診し、相談してみてください。身体に問題がなければ、必要に応じて『心の専門家』を紹介してくれるでしょう。『心の専門家』に相談できる場としては、居住地域の教育センターや子ども家庭支援センターなどの公的機関があり、無料で相談が可能です。小・中学校の養護教諭やスクールカウンセラーの先生に相談するのもいいと思います」

(文責=ソフトボール・マガジン編集部)


*さらに詳しく子どもへの心理サポートを知るために
以下に紹介するウェブページでは心のサポートに役立つ情報がまとめられています。

日本ストレスマネジメント学会
「【特設ページ】新型コロナウイルスに負けるな! みんなでストレスマネジメント」
https://plaza.umin.ac.jp/jssm-since2002/covid-19/

セーブ・ザ・チルドレン
「【情報まとめ】新型コロナウイルス感染症対策下における子どもの安心・安全を高めるために」
https://www.savechildren.or.jp/scjcms/sc_activity.php?d=3192



<池田美樹(いけだ・みき)氏 プロフィール>
臨床心理士・公認心理師。早稲田大学大学院人間科学研究科修了後、東京都公立小・中学校スクールカウンセラー、武蔵野赤十字病院精神科 臨床心理係長などを務める。2015年に早稲田大学大学院人間科学研究科博士後期課程単位取得満期退学。16年より桜美林大学リベラルアーツ学群専任講師、19年より准教授。日本公認心理師協会災害支援委員委員長・日本臨床心理士会災害支援プロジェクトチーム副代表。
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