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2021-09-02

ストレス環境下における子どもの心のサポート・2「ストレスをためない環境づくり」

写真/BBM

新型コロナウイルスの子どもへの感染が広がってきている。部活動やクラブチームの活動が制限されたり、大会が中止になる、または大会に参加できなくなるということも今後増えてくるだろう。先の見えない状況は誰もがストレスを感じるもの。特に小中学生は感情をコントロールしたり、自分の気持ちを伝えることがまだ難しい年齢。そうしたジュニア世代を教える指導者は、どのようなことに気をつけたらいいのだろうか。
災害支援に携わる臨床心理士であり、日本ストレスマネジメント学会の常任理事も務める、桜美林大学リベラルアーツ学群准教授の池田美樹氏に、緊急時や非常時における子ども心のサポートについてお話をうかがった。全3回でお届けする。
※本稿は「ソフトボール・マガジン2020年11月号」掲載記事の再録です。


体調不良を言い出しやすい雰囲気

 ストレスの反応が出た子どもへの対応の仕方を考えておくことと同時に、ストレスをためないような環境をつくることにも目を向けたい。

「やはり、言いたいことを言える雰囲気は大切です。普段から『この人・この雰囲気は安心できるな』と思える、安心感・安全感のあるチームでは、子どもたちは良いことも、つらいと思うことも伝えられますし、指導者やスタッフも子どもの変化をキャッチし、必要な支援を提供しやすくなります。

 こうした雰囲気をつくるのは、ちょっとした声掛けです。子どもたちをよく見ることは大切ですが、何も言葉がないと監視のようで居心地悪く感じます。一方で、目が合ったときにあいさつをされたら、大人でも安心した気持ちになりますよね。『おはよう』、『お疲れさま』、『今日は調子が良いね』。こうしたちょっとした声掛けを指導者のほうからするだけでも、安心して自分の気持ちを発信できるようになるのです。
 言いたいことを言える環境づくりはスタッフ間も同様です。『あの子が少し気になる』といった報告をし、子どもたちの情報を共有できれば、より適切なサポートを行うことができます。

 これらは普段から行っていることだと思いますが、こういう時期だからこそ、チームの中での情報共有や子どもへの声掛けを改めて意識していただけたらと思います」

 自分の気持ちを発信できる環境は、コロナウイルス感染予防にもつながっている。文部科学大臣が新型コロナウイルスを理由とした差別や偏見をなくすようにメッセージを発信したが、「自分が感染してみんなから責められたらどうしよう」あるいは「みんなに迷惑を掛けたらどうしよう」と不安を感じている子どもも少なくないはず。そんな不安から、具合が悪くても言い出せなかったり、感染しても黙っていたりといった行動に出れば、チーム内感染拡大のリスクは高まってしまう。

「ウイルスは目に見えないものなので、大人でも子どもでも怖いと思うのは当たり前。しかし、たとえ予防をしていても感染するリスクは誰もがあります。感染者が出たとしてもお互いに責めたりしないようにしようといったことは、あらかじめ伝えておくといいと思います」

 感染者が出ればチームの活動は一時休止となるが、事前に体調の不良は悪いことではない、予防をしても感染することはある、そして感染した場合には互いに責めないといったチームとしての合意があれば、混乱やトラブルが起こることは少なくなるだろう。


 今できていることを感じられる工夫

 もう一点、ストレスをためない環境づくりとして大切なのが、ポジティブな雰囲気をつくることだ。

「全国大会が開催されるか分からない、チーム活動も以前と同じようにはできないといったように、どうしてもできないことばかりに意識が向いてしまいがちです。しかし、そればかりでは、できていることを忘れてしまったり、現在行っていることのモチベーションが下がってしまったりします。日々の取り組みの中でもできていることは必ずあるはずです。できるだけ、ポジティブな変化にも目を向けるようにしてください。

 特に子どもはやればやるだけ向上する時期。大人が日々の成長を評価し、また、数値化するなどして子ども自身も成長を感じ取りやすいようにすれば、それがストレスの軽減や、積極的な姿勢を生むことにつながります。これはスポーツに限らず勉強なども同様です」

 大人は長期的目標に向け、自分なりに計画を立てたり、イメージをするなどして取り組むことができるが、子どもは課題や目標を小さな段階(スモールステップ)に分けて示すことで小さな成功体験を積み重ねるほうが達成感を得られやすく、意欲を持ちやすいという。
 そこで、指導者が試合で生きるスキルを細分化し、選手の目標として設定してあげるといいだろう。例えば「遠投○㍍」「50㍍走○秒」といった、可視化しやすい目標を掲げ、それを達成できた場合だけでなく、目標に向けての取り組み姿勢や行動といった過程も評価することで、子どもたちの自己効力感の向上につながっていく。
 こうした目標は、食事や睡眠時間といった、運動以外のものでも構わない。

「食事や睡眠時間などの健康管理は、感染予防の一環として学校やチームで行っているところもあるかもしれません。ただ、『感染予防』だと、どうしても義務感を感じ、ネガティブなイメージを持つこともあると思います。十分な睡眠を取れていることやしっかりとご飯を食べられていることは、運動のパフォーマンスを上げることにもつながります。そこで『パフォーマンスを上げるために健康管理を導入していきましょう』といったように取り組みのポジティブな側面にも注目して伝えると、子どもたちの意欲向上にもつながると思います。同じ物ごとであっても、前向きな表現をすることでポジティブな雰囲気が生まれます」

(文責=ソフトボール・マガジン編集部)


*さらに詳しく子どもへの心のサポートを知るために
以下に紹介するウェブページでは心のサポートに役立つ情報がまとめられています。

日本ストレスマネジメント学会
「【特設ページ】新型コロナウイルスに負けるな! みんなでストレスマネジメント」
https://plaza.umin.ac.jp/jssm-since2002/covid-19/

セーブ・ザ・チルドレン
「【情報まとめ】新型コロナウイルス感染症対策下における子どもの安心・安全を高めるために」
https://www.savechildren.or.jp/scjcms/sc_activity.php?d=3192



<池田美樹(いけだ・みき)氏 プロフィール>
臨床心理士・公認心理師。早稲田大学大学院人間科学研究科修了後、東京都公立小・中学校スクールカウンセラー、武蔵野赤十字病院精神科 臨床心理係長などを務める。2015年に早稲田大学大学院人間科学研究科博士後期課程単位取得満期退学。16年より桜美林大学リベラルアーツ学群専任講師、19年より准教授。日本公認心理師協会災害支援委員委員長・日本臨床心理士会災害支援プロジェクトチーム副代表。
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