コンディショニングとは「目的を達成するために必要と考えられる、あらゆる要素をより良い状態に整えること」を意味する。選手それぞれが持つ個性をパフォーマンス発揮へとつなげるための情報を得て、しっかりと活用しよう。
※本記事はベースボール・クリニック2017年11月号掲載「野球のコンディショニング科学~知的ベースボールプレーヤーへの道~」の内容を再編集したものです。

文◎笠原政志(国際武道大学体育学部准教授)

第10回「高強度運動後の最適なエネルギー補給」

グリコーゲンの不足が疲労や集中力低下を招く

 戦略的リカバリーを実践していくためには、前回紹介したように各疲労状態に応じたリカバリーの実践が必要になります(第9回「疲労回復(リカバリー)の基礎知識」https://www.bbm-japan.com/_ct/17274633)。その一つとして絶対的に必要なものが「エネルギー補給」になります。
 エネルギー不足を車で例えると、ガソリンが枯渇してしまった状態です。すなわち、いくらドライバーが元気(脳が元気)でエンジンやタイヤも最適な状態(体力が良い状態)だとしてもガソリンがなければ動きません。

 エネルギーの主要になるものは糖質であり、炭水化物から食物繊維を除いたものがいわゆる糖質です。糖質は血糖値を一定に保つために必要不可欠なものです。
 この糖質が体内でブドウ糖などの糖類に分解され、その後使用されないブドウ糖はグリコーゲンとして筋や肝臓に蓄積されます。実はこのグリコーゲンが重要であり、グリコーゲンの枯渇が仕事効率の低下、集中力の低下、自覚的な疲労感の増大に強く影響します。

 特に野球の練習は1日中行われ、試合も3時間を要することもあるため、エネルギー不足からの疲労を招きます。このような状況にならないためにも糖質の摂取が疲労回復(リカバリー)として必要不可欠なのです。

 この裏付けとなる代表的な研究があります。図Aを見ると、糖質摂取が総エネルギー量の60%以上の場合に比べ40%以下だった場合は、3日間の連続した運動後の筋グリコーゲン量が明らかに低下していると分かります。つまり、糖質摂取量が少ないと筋グリコーゲンとして蓄えられる量が少なくなり、先ほど述べたように自覚的疲労感が強くなるのです。

画像: グリコーゲンの不足が疲労や集中力低下を招く

必要な炭水化物摂取量はどれぐらい?

 エネルギーの基本としてグリコーゲンの源となる糖質が重要であることが分かったわけですが、ではどの程度の炭水化物を摂取すべきでしょうか。
 これについて、アスリートの炭水化物摂取のためのガイドラインがあります(図B)。

画像: 必要な炭水化物摂取量はどれぐらい?

 低強度あるいはスキル主体の活動であれば体重あたり3~5gの炭水化物を1日で摂取する必要があり、非常に高い運動強度あるいは4時間以上の運動の場合では体重あたり8~12gの炭水化物を1日で摂取する必要があることが示されています。

 例えば体重70㎏の選手が非常に高い運動強度でトレーニングをした場合には、1日摂取する炭水化物量は560~840gにもなります。仮に840gの炭水化物を8枚切りの食パンで全てまかなうとすると、1日40枚も食べなければならない計算です。

 つまり、しっかりとした炭水化物の摂取が、野球のように長時間にわたる練習をする際には特に重要となるのです。

炭水化物を摂取するタイミング

 炭水化物をどのぐらい摂取すべきかについて紹介しましたが、次に大切なのが摂取するタイミングです。
 いくら炭水化物を多く摂取することを心がけたとしても、運動後からの時間が経ち過ぎると、実は筋グリコーゲン量を確保することは困難になります。

 アスリートの炭水化物摂取のガイドラインによると、運動直後の1時間で体重あたり1~1.2gの炭水化物を摂取することが推奨されています。さらに、タンパク質も同時に摂取したほうがチャージできる筋グリコーゲン量は多くなると言われています。

 従って、充実した野球の練習やトレーニングを行ったとしても、それだけではその効果は不十分なのです。充実した練習やトレーニングをした時こそ、家に帰るまで何も食べないのではなく、途中におにぎりやパンなどの炭水化物をすみやかに摂取する環境づくりが重要になるのです(図C)。

画像: 炭水化物を摂取するタイミング

 今回はエネルギー枯渇に関係する疲労回復としてのエネルギー摂取の必要性とその根拠について紹介しました。

 野球の練習は長く、週末となると1日かけて行うことも少なくありません。また試合ではウオーミングアップから試合終了まで含めると3~4時間かかります。ましてや野球は長い時間の中でワンプレーごとに集中しなければなりません。
 そうなると、糖質は絶対的に必要なエネルギーになります。満足した練習成果を得るためにもハードワークに対してハードリカバリー、運動時間および自身の体格に合わせてエネルギー摂取を心がけましょう。

かさはらまさし/1979年千葉県出身。習志野高校―国際武道大学。高校まで野球部で活動し、3年時には主将。大学卒業後は同大学院を修了し、国際武道大学トレーニング室のアスレティックトレーナーとして勤務。その後は鹿屋体育大学大学院博士後期課程を修了し、2015年にはオーストラリア国立スポーツ科学研究所客員研究員としてオリンピック選手のサポートを歴任。専門はアスレティックトレーニング、コンディショニング科学。現在は国際武道大学にてアスレティックトレーナー教育を行いながら、アスリートの競技力向上と障害予防に関わる研究活動を行っている。学術博士(体育学)、日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナー、NSCA認定ストレングス&コンディショニングスペシャリスト、日本トレーニング指導者協会公認上級トレーニング指導士、JPSUスポーツトレーナー。

文責◎ベースボール・クリニック編集部

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