コンディショニングとは「目的を達成するために必要と考えられる、あらゆる要素をより良い状態に整えること」を意味する。選手それぞれが持つ個性をパフォーマンス発揮へとつなげるための情報を得て、しっかりと活用しよう。
※本記事はベースボール・クリニック2017年9月号掲載「野球のコンディショニング科学~知的ベースボールプレーヤーへの道~」の内容を再編集したものです。

文◎笠原政志(国際武道大学体育学部准教授)

第11回「夏場の中枢性疲労回復に必要な睡眠環境とは?」

夏場の睡眠時はエアコンを使用してもいい?

 連載第9回で紹介したように、戦略的リカバリーを実践するためには、各疲労状態に応じたリカバリーを行うことが必要です。

 例えば、複数ある疲労状態の一つに中枢(脳)の疲労があります。中枢(脳)の疲労が続くと、ボーッとしたり集中力が欠けた状態になり、認知・判断能力が低下することは明らかになっています。この中枢性の疲労に対するリカバリー方法の一つはズバリ睡眠です。

 特に中枢性の疲労回復のために、より良い睡眠対策を考えなければならないのが暑熱環境時です。夏の寝苦しい熱帯夜は、なかなか良い睡眠を取ることができません。そのため睡眠時にエアコンをつけることになるのですが、そこで悩むのが「夏の練習や試合を想定すると、暑熱順化(暑さに慣れる)のためにエアコンを使用しないほうがいいのか? それとも寝苦しい夜を回避するためにエアコンを使用したほうがいいのか?」ということです。

 そこで、今回は中枢(脳)の疲労回復を目的としたより良い睡眠を確保するために、暑熱環境下における夏場のエアコン使用に関する考え方について紹介します。

睡眠環境が快適もしくは暑熱の場合における直腸温の変化

画像: 睡眠環境が快適もしくは暑熱の場合における直腸温の変化

 Okamoto-Mizunoは睡眠環境(温度と湿度)を変化させた場合においての、就寝時から起床時までにおける直腸温の変化について調査をした結果について報告しています(図A)。図の見方は縦軸が直腸温度、横軸が時間を示しています。睡眠時間は8時間とし、その間の直腸温を3条件で比較したものになります。

①睡眠中にエアコンを使用し続けた状態(室温26℃、湿度50%)では、直腸温は就寝と同時に下がり続け、起床時に上がってくることが分かります。

②前半4時間でエアコンを使用し(室温26℃、湿度50%)、後半4時間でエアコンを止めて暑熱環境にした場合(室温32℃、湿度80%)では、就寝と同時に直腸温度は下がり続け、後半になると少し直腸温度が戻り、起床時では3条件間で最も高くなっています。

③前半4時間を暑熱環境(室温32℃、湿度80%)とし、後半4時間でエアコンを使用した場合(室温26℃、湿度50%)では、就寝時~前半は直腸温が下がらない状況ですが、後半には直腸温が下がり、起床時では3条件の中でも最も直腸温が低くなりました。

 通常、起床時に徐々に体温が上がってくることで目覚めの良い朝を迎えることができます。一方、起床時に体温が上がってこないと、目覚めが悪く快適な睡眠をした実感がわかなくなります。
 従って、夏場における睡眠環境としては、タイマー機能をつけて、②のように入眠時にエアコンを使用し、後半にはエアコンを止めて、起床時に体温が上がってくるような環境をつくることが、中枢性の疲労回復を狙いとした睡眠環境づくりが必要なのです。

 また、③のように後半のみエアコンを使用すると、前半の暑熱環境でかいた汗を後半に急激に冷やすことになり、寝冷えを引き起こしやすくなります。さらに、前半の寝苦しい夜からのリバウンドで後半に深い睡眠状態になってしまうため、起床時に眠気が強くなってしまうのです。

睡眠時にアイスマクラを使用した場合の直腸温の変化

 ただし、エアコンを使用すると体調を崩しやすい方がいるのも事実です。そうした方はアイス枕を使用することもあるでしょう。それでは、アイス枕を使用することでも、夏場の睡眠に良い影響を及ぼすことになるのでしょうか。

 この点について実験した結果があります。暑熱環境下(室温32℃、湿度80%)で通常の枕を使用する場合、暑熱環境(室温32℃、湿度80%)時に冷却枕を使用する場合、エアコンを使用して(室温26℃、湿度50%)通常の枕を用いる場合の3条件で比較したものです(図B、C)。

画像1: 睡眠時にアイスマクラを使用した場合の直腸温の変化
画像2: 睡眠時にアイスマクラを使用した場合の直腸温の変化

 結果はアイス枕を使用した場合、暑熱環境で通常の枕を使用した場合と比べて直腸温に差はないものの、睡眠中の発汗量が減り、睡眠途中に目が覚めるような覚醒状態が少なくなりました。つまり、睡眠効率が改善したことが示されています。

 今回は戦略的リカバリー対策の一つである中枢性への疲労対策の観点から、夏場の睡眠対策の方法を研究結果を基に紹介しました。
 近年は全国で猛暑日が続き、毎年最高気温や熱帯夜の記録が更新されています。10年、20年前とは明らかに環境が変わってきていると感じる方も多いでしょう。そうした環境の中では、ますます睡眠環境を意識的に整えることが必要となります。今回紹介した情報が、エアコンやアイス枕をうまく活用し、睡眠効率を高める対策を考える一助になれば幸いです。

かさはらまさし/1979年千葉県出身。習志野高校―国際武道大学。高校まで野球部で活動し、3年時には主将。大学卒業後は同大学院を修了し、国際武道大学トレーニング室のアスレティックトレーナーとして勤務。その後は鹿屋体育大学大学院博士後期課程を修了し、2015年にはオーストラリア国立スポーツ科学研究所客員研究員としてオリンピック選手のサポートを歴任。専門はアスレティックトレーニング、コンディショニング科学。現在は国際武道大学にてアスレティックトレーナー教育を行いながら、アスリートの競技力向上と障害予防に関わる研究活動を行っている。学術博士(体育学)、日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナー、NSCA認定ストレングス&コンディショニングスペシャリスト、日本トレーニング指導者協会公認上級トレーニング指導士、JPSUスポーツトレーナー。

文責◎ベースボール・クリニック編集部

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