今週、世界中がもっとも注目するカードと言ったら、キース・サーマン(アメリカ)とマニー・パッキャオ(フィリピン)の激突である。オッズはここにきて接近しているという情報もあるが、常識的に考えるなら攻めてよし、守ってよしのサーマン有利と見るのが妥当。ただ、40歳のパックマンがその前戦、エイドリアン・ブローナー戦で力強い復活を印象づけたのも確か。「あるいは……」の予感もプンプンと漂ってくる。また、日本のファンには東洋太平洋ライト級チャンピオンの中谷正義(井岡)が、強打で脚光を浴びる新鋭テオフィモ・ロペス(アメリカ)と対戦する一戦も気になって仕方ないはずだ。

写真上=マニー・パッキャオ(左)とキース・サーマン
写真=Getty Images

7月20日/MGMグランド(アメリカ・ネバダ州ラスベガス)

◆前半にペースを奪い取れば、パッキャオにもチャンスあり

★WBA世界ウェルター級王座統一戦12回戦
キース・サーマン(アメリカ)対マニー・パッキャオ(フィリピン)

サーマン:30歳/30戦29勝(22KO)1NC
パッキャオ:40歳/70戦61勝(39KO)7敗2分
※日本時間21日午前11時よりWOWOWで生中継

 パッキャオの奇跡を信じるファンが、その根拠にするのは長大なキャリア、圧倒的な戦歴、さらに最新の戦いぶりにある。ジェフ・ホーン(オーストラリア)に敗れて無冠となり、ルーカス・マティセ(アルゼンチン)になんと10年ぶりのストップ勝ちを収めて再びタイトルを取り戻したが、両試合とも内容的には大いに不満が残った。そこにはかつてのスピード感、動きの切れがまったくなかったのだ。ところが、今年1月のブローナー戦は、シャープな切り口で攻防を積み上げ、ブローナーに戦う形さえ与えなかった。パッキャオを支持する向きには、この一戦の出来があって雄弁に語っているのだ。

 では、サーマンはどうか。デビュー当初、バタバタと倒し続けた攻撃型から、間合いを取りながらタイムリーヒットを飛ばす技巧派へと変身した。それでもショーン・ポーター(アメリカ)戦のように危険を顧みない打ち合いにも応じて、どんな形でも戦えるインテリジェンスも感じさせてきた。ところが、肩の故障から2年近くもリングを留守にしてのカムバック戦は「?」がつく内容だった(1月、ホセシト・ロペスに判定勝ち)。28歳から29歳とピーク寸前の地固めをしなければならない時期のブランクが、サーマンの能力を半減させたという声も出ている。

 サーマンが一歩、間合いを遠く取り、パッキャオの出ばなを叩いていって大差判定勝ちという線が順当な見方。パッキャオは持ち前の鋭いステップインを駆使して、サーマンの思惑を崩したいが、以前の力をそこまで取り戻しているかと言えば、いささか疑問ではある。ただ、サーマンがエロール・スペンス・ジュニア(アメリカ)を筆頭に次なるスターウォーズに進みたいなら、無難な勝ち方では物足らない。パッキャオ側からすれば、そこにつけめがあるのかも。

◆巧打のプラントがエリートの挑戦を受ける

画像: カレブ・プラント(左)とマイク・リー 写真=Getty Images

カレブ・プラント(左)とマイク・リー
写真=Getty Images

★IBF世界スーパーミドル級タイトルマッチ12回戦
カレブ・プラント(アメリカ)対マイク・リー(アメリカ)

プラント:27歳/18戦18勝(10KO)
リー:32歳/21戦21勝(11KO)

 強打のホセ・ウスカテギ(ベネズエラ)から2度のダウンを奪って世界チャンピオンとなったプラントの初防衛戦となる。長い間、右拳の不調に苦しんで、以前の豪快さは影を潜めたが、その間にタイミングをうまくつかんでの巧打を身につけた。

 一方の挑戦者は名門ノートルダム大学出身のリー。文武両道の戦士として、プロ転向時はトップランクと契約し脚光を浴びた。とにかく強くなることに意欲的で、指導者を求めて生まれ故郷のシカゴからテキサスに飛び、ロニー・シールズのもとへ。最近はカリフォルニアのサンディエゴに移り、元WBO世界ヘビー級王者クリス・バードのガイドを受けている。リング外でもビジネスマンとして活躍しているマルチタレントの持ち主でもある。

 話題性はともかく、そのリーのボクシングはやや淡泊。プランクとしては軽く手玉に取りたいところ。

◆ネリがパヤノと力試し

画像: ルイス・ネリ 写真=Getty Images

ルイス・ネリ

写真=Getty Images

 前座には日本でもおなじみの両者が戦う。WBCシルバー王座をかけたルイス・ネリ(メキシコ/24歳/29戦29勝23KO)とファン・カルロス・パヤノ(ドミニカ共和国/35歳/21勝9KO2敗)のバンタム級12回戦だ。山中慎介(帝拳)との2戦で薬物使用にウェイトオーバーと非道の限りを尽くし、ボクサーとしては日本で最大級のヒール(悪役)になっているネリは、その後はなにごともなかったようにリングに上り、3つのKO勝ちを追加。連続KOは10に伸ばしている。そして、PBC(プレミア・ボクシング・チャンピオン)と契約し、アメリカ進出2戦目がこの一戦となる。パヤノは昨年10月、WBSS(ワールドボクシング・スーパーシリーズ)初戦で井上尚弥(大橋)に初回KO負けしたが、老獪な試合運びには定評がある。ネリが簡単に勝利を手に入れれば、井上のライバルとして存在感を大きくアピールすることにもなるが、さて。

◆リピネッツ、ウガス、さらにアジャグバも登場

 ビッグイベントとあって、この日は豪華な顔ぶれがアンダーカードを飾る。

 ふたつのウェルター級12回戦は、ヨルデニス・ウガス(キューバ/33歳/23勝11KO4敗)対オマール・フィゲロア(アメリカ/29歳/28勝19KO1分)、セルゲイ・リピネッツ(ロシア/30歳/15勝11KO1敗)対ジョン・モリナ・ジュニア(アメリカ/36歳/30勝24KO8敗)と、いずれも次期世界挑戦者のセレクションの場となる。

画像: ヨルデニス・ウガス(左) 写真=Getty Images

ヨルデニス・ウガス(左)
写真=Getty Images

 ウガスは前戦でWBCチャンピオン、ショーン・ポーターに1-2判定負けと激しく迫った。派手さはないが几帳面な技巧派だ。フィゲロアは荒川仁人(ワタナベ)と大激戦を演じたこともある元WBCライト級チャンピオン。その王座を放棄した後はブランクも多く、アピールしきれているとは言えない。ウガスを相手に自慢の攻撃力が爆発するようなら、PBCの巨大なウェルター級軍団の一角にもぐりこむこともできよう。

画像: セルゲイ・リピネッツ 写真=Getty Images

セルゲイ・リピネッツ
写真=Getty Images

 リピネッツは実力者レイモント・ピーターソン(アメリカ)を劇的なTKOに破って引退を決意させた。大ベテラン相手に有利の予想は当然だが、モリナには一発強打があり、予断は許されない。

 リオ五輪ナイジェリア代表からアメリカでプロ入りしたヘビー級のホープ、イフェ・アジャグバ(25歳/10戦10勝9KO)は、圧倒的なハードパンチでセンセーションを巻き起こしている。今度は重要なテストマッチ第1弾。相手のアリ・エレン・デミレゼン(トルコ/29歳/11戦11勝10KO)もリオ五輪代表。唯一、KOを逃したのも失格による勝利と、これもアジャグバと同じ。ただ、アジャグバの216センチという驚異のリーチから打ち込むパンチはあまりにも強烈。凄絶KOを期待したい。

7月19日/MGMナショナルハーバー(アメリカ・メリーランド州オクソンヒル)

◆なるかリング人生の逆転劇。中谷正義が臨む大一番

画像: 中谷正義(左) 写真=ボクシング・マガジン

中谷正義(左)
写真=ボクシング・マガジン

★IBF世界ライト級挑戦者決定戦12回戦
テオフィモ・ロペス(アメリカ)対中谷正義(井岡)

ロペス:21歳/13戦13勝(11KO)
中谷:30歳/18戦18勝(12KO)
※ESPN+で全米にストリーミング中継

 中谷が勝てば、なぜ逆転劇なのか。アマチュア出身で不敗の連勝街道を歩んできた。保持する東洋太平洋タイトルも11度の防衛を刻んでいる。それでも、この試合に勝ってこそ、中谷は初めて世界へ飛翔するホープと呼べるようになる。

画像: テオフィモ・ロペス 写真=Getty Images

テオフィモ・ロペス
写真=Getty Images

 何しろ対戦する相手が危険に過ぎる。ロペスはいまもっとも注目を集める新鋭なのだ。ホンジュラス人を両親に持ち、ニューヨークの下町ブルックリンで育ったロペスは、速い身のこなしから強烈なショットを繰り出してくる。メイソン・メナード(アメリカ)、ディエゴ・マグダレノ(アメリカ)、エディス・タトリ(フィンランド)と、ここ3戦の出来も見事。無敵ワシル・ロマチェンコ(ウクライナ)との対戦が今から期待されるが、「問題はロマチェンコに僕と戦う準備ができているかだ」と超ビッグマウス発言も。そのロペスに比べれば、中谷が地元・大阪を中心に築いたキャリアはどうしても地味になる。

 予想がロペスの楽勝ムードなのは仕方ない。中谷はどうしても中間距離から自分の間合いを作りたい。そうなれば左フックを中心に鋭角的なパンチも活きてくる。ロペスのハイテンポにあおられるようなら苦境にもがくことになる。

◆ロシア対カリブの新鋭強打者対決

 同じ興行でもうひとつ注目したいのはスーパーライト級12回戦、マキシム・ダダシェフ(ロシア/28歳/13戦13勝11KO)対スブリエル・マティアス(プエルトリコ/27歳/13戦13勝13KO)のカード。

画像: マキシム・ダダシェフ 写真=Getty Images

マキシム・ダダシェフ
写真=Getty Images

 長いアマチュア実績で培った堅実な攻防から、鉄の拳でざっくりと倒すダダシェフは早い段階から注目されてきた。サウスポーの元世界王者アントニオ・デマルコ(メキシコ)には苦労(判定勝ち)してわずかに評価は下降したが、それでも『明日のチャンピオン候補』であることに変わりはない。アメリカ2度目の登場となるマティアスの強打はそれ以上に評判だ。倒してきた相手はパトリック・ロペス(ベネズエラ)、ダウリス・プレスコット(コロンビア)、アドリアン・エストレージャ(メキシコ)、ブレイディス・プレスコット(コロンビア)、フェルナンド・サウセド(アルゼンチン)と峠を過ぎた、あるいは上限がはっきりしている選手ばかり。ただ、彼らはみんなキャリア豊富だった。ここでダダチェフを乗り越えるようなら、マティアスはプエルトリコの新たな脅威にもなるかもしれない。

 村田諒太(帝拳)のアマチュア時代からのライバル、エスキバ・ファルカン(ブラジル/29歳/23戦23勝15KO)も出場するが、もうひとり、ミドル級8回戦を戦うダスティ・エルナンデス・ハリソン(アメリカ/25歳/32勝18KO1分)にも目をやってほしい。

 エルナンデスは聞き覚えのある名前かもしれない。人気ラッパーのJay-Zがスポーツ・マネージメントに着手して、ボクシングにも興味を示したころ、最初にプロモートした試合の主役が彼だった。その後、Jay-Zの活動が停滞し、エルナンデスのボクシングにもうひとつの決め手がないこともあって、上位に顔を出すことなく、一度は消えた。今年に入って3年ぶりにカムバックし、だんだんと調子を整えているところだ。対戦者はややランクが落ちる。ここはしっかりと倒し切りたい。

7月20日/O2アリーナ(イギリス・ロンドン・グリニッジ)

◆人気者ホワイトが暫定王座をかけ、不敗のコロンビア人と対戦

画像: ディリアン・ホワイト(右) 写真=Getty Images

ディリアン・ホワイト(右)
写真=Getty Images

★WBC世界ヘビー級暫定タイトルマッチ12回戦
ディリアン・ホワイト(イギリス)対オスカル・リバス(コロンビア)

ホワイト:31歳/26戦25勝(18KO)1敗
リバス:32歳/26戦26勝(18KO)
※日本時間21日午前2時からDAZNでストリーミング中継

 今やヘビー級の中心はイギリスにある。アンソニー・ジョシュアが思わぬ敗北で王座から転落したが、この国にはその後に続くスター候補がひしめき合う。タイソン・フューリーは別格ながら、エディ・ハーンのマッチルームとフランク・ウォーレンのクイーンズベリーが一騎打ちで、そのほかのタレントが激しく先陣争いにしのぎを削る。1週間前、ウォーレンは手駒のリオ五輪銀メダリスト、ジョー・ジョイスとダニエル・デュボアのカードで成功を収めたばかり。今度はハーンの番。所も同じO2アリーナで勝負をかける。

 主役はホワイトだ。かつて、ジョシュアをKO寸前にまで追い詰めたことのあるホワイトの売りは、好んで仕掛ける打撃戦。幻の世界王座獲得者ルーカス・ブラウン(オーストラリア)を失神KOに追いやり、元WBO王者のジョセフ・パーカー(ニュージーランド)とはダウン応酬の末に判定勝ち。そして、この日もリングに立つライバルのデレク・チゾラ(イギリス/35歳/30勝21KO9敗)には、11回に鮮烈KO勝ち。そして、暫定政権をかけて対戦するリバスはカナダをベースに戦っている。身長184センチとヘビー級としては小柄だが、堅実なテクニックには定評がある。荒くれ者ホワイトはどんな形で破壊を試みるのだろう。

画像: オスカル・ディアス 写真=Getty Images

オスカル・ディアス
写真=Getty Images

◆重量級のスター軍団勢ぞろい

 チゾラはサウスポーのアルトゥール・スピルカ(ポーランド/30歳/22勝15KO3敗)と対戦。スピルカはアメリカでデオンテイ・ワイルダー、アダム・コウナキに連続でストップされたが、同じポーランド人で身長202センチの巨人マウリシュ・ヴァフを破って体勢を立て直したばかり。チゾラとしては、多少手ごわい対戦者でも、もう負けられない。

画像: デビッド・アレン

デビッド・アレン

 イギリス国内では人気の高いデビッド・アレン(27歳/17勝14KO4敗2分)とデビッド・プライス(36歳/24勝19KO6敗)のライバル戦も見もの。アレンはプロとしてはルーキーにすぎないトニー・ヨカ(フランス)に敗れて「もうこれまでか」と思われたが、その後は4連続KOと持ち直してきた。とくにルーカス・ブラウンを一撃で沈めた左のボディブローで新境地を切り開いたともいわれる。北京五輪の銅メダリスト、プライスは打たれもろさが災いしてトップ級にはストップ負けを重ねている。浮上するためにはこれが最後のチャンスだろう。

画像: ローレンス・オコリー(左) 写真=Getty Images

ローレンス・オコリー(左)
写真=Getty Images

 売りはもう二組。こちらは近い将来にライバルとして対戦するはずのリチャード・リアクポーシェ(29歳/9戦9勝8KO)、ローレンス・オコリー(26歳/12戦12勝9KO)がそれぞれ保持するタイトルの防衛戦で登場する。

 この日のメインイベンター、ホワイトのマネージメントを受けるWBAインターコンチネンタル王者リアクポーシェは、196センチの長身から打ち込む強打が武器。そっくり同じ9戦全勝8KOのクリス・ビリアム=スミス(イギリス)との対戦となるが、スケール感は一枚以上上回っている。

 リオ五輪ヘビー級代表でWBAコンチネンタル・チャンピオンのオコリーも身長は196センチ。線の細さが解消され、堅苦しいファイトスタイルに滑らかさが出てくれば、大物になる予感もある。対戦者はマリアノ・アンヘル・グディノ(アルゼンチン/13勝8KO2敗)だ。

7月20日/パレス・デ・スポルト(フランス・マルセイユ)

◆カスターニョ離脱で、ソロが王座決定戦に登場

★WBA世界スーパーウェルター級王座決定戦12回戦
ミシェル・ソロ(フランス)対マゴムド・クルバノフ(ロシア)

ソロ:31歳/36戦33勝(22KO)2敗1分
クルバノフ:23歳/17戦17勝(11KO)

 本来ならこの日、ソロはWBAスーパーウェルター級タイトルの挑戦者としてリングに立つはずだった。ところが、チャンピオンのブライアン・カスターニョ(アルゼンチン)が突如、試合を拒否し、タイトルを返上してしまう。指名挑戦者のソロはカスターニョ戦を入札した上で手に入れた。ところが、カスターニョは既定の日時までにファイトマネーが入金されなかったこと、加えてVADAの薬物検査を強要されたとして、チャンピオンという立場も放棄してしまった。3月に難敵エリスランディ・ララ(キューバ)とも引き分けているカスターニョには、そのうちもっと条件のいい試合が回ってくるはず。何も既存の世界タイトルにすがりつく必要がない、実に今風の判断だった。

 かつてカスターニョに1-2判定(負け)にまで迫っているソロは、もう待ちたくはない。ロシアから新鋭クルバノフを呼んで世界王座決定戦を成立させた。クルバノフは世界的な実績となるともうひとつ。地元の声援を受けるソロの王座奪取は固いかもしれない。

文◎宮崎正博

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