WBSS(ワールドボクシング・スーパーシリーズ)決勝、WBA世界バンタム級スーパーチャンピオンのノニト・ドネア(フィリピン)戦が11月7日(木)、さいたまスーパーアリーナで開催されると公式発表されたWBA・IBF世界バンタム級チャンピオン井上尚弥(大橋)。5月に行われた準決勝でIBF王者エマヌエル・ロドリゲス(プエルトリコ)を2回KOで破り、同王座も獲得。これで日本、OPBF東洋太平洋、WBC(以上ライトフライ級)、WBO(スーパーフライ級)、WBAと、メジャータイトルをすべて獲得。さらに、権威ある『リング・マガジン』のベルトも贈呈され、7本のベルトを手中に収めた。ここまで18戦18勝(16KO)。明日16日発売の『ボクシング・マガジン9月号』では、2012年10月のプロデビュー戦から最新の2019年5月までの18試合から、井上本人に「ベストバウト5」を選んでもらった。どの試合を選び、どんな裏話があるかは本誌をご覧いただくとして、8月上旬に行ったその際のインタビューの中から、「さすがモンスター!」と唸る話、井上家らしい“おもしろエピソード”などをご紹介したい。

上写真=向かって左から日本、OPBF、リング・マガジン、WBC、WBO。肩に掛けているのは左がIBF、右がWBA。正真正銘の“コンプリート”だ

手際よく、しっかりとバンデージを巻いていく

(ベストバウトに選んだある試合をきっかけに、重心を落とすスタイルにモデルチェンジしたことについて)
「それまで重心を落とす練習はやってませんでした。でも、やろうと思ってパッとできました」

「海外でも日本でも、自分がいいなと思った選手の真似はします。やっぱりフォームが大事ですね。
マイキー・ガルシア(アメリカ)とか基礎がある選手って、なかなか崩せないじゃないですか。
その基礎のある選手を崩すのは、アメリカ人の独特のバネを持ったテレンス・クロフォードみたいな選手だったりしますけど」

「基礎のベースさえしっかりあれば、そこから崩したボクシングをすることはできる。でも、元々崩れてる選手が基礎的なボクシングをしようとすると、それは難しいですね」

──基礎の大切さには、いつごろ気づきましたか?
「いつごろだろう。気づいたら、って感じですね」

(練習の中身について)
「練習をやってる時間は同じなんですよ。ジムに入って、まず最初にシャドーを5ラウンドくらいやる。でも、その5ラウンドを、毎日、自分で意識してどうやるか。アップのシャドーなのか、確認のシャドーなのか。毎日5ラウンドをやって、意識してやってる選手とそうじゃない人ではそれが1年間になったら、すごい開きが出る。それに、なあなあのシャドーをやり続けてしまうと、みんなジャブとワンツーが打てなくなっちゃうんですよ。
 自分はジャブとワンツーですよ、ほとんど。基本的に、それがしっかり打てればチャンピオンになれます」

実戦に活きる、“生きたミット”にこだわり抜く

──井上家の選手(弟・拓真=WBC世界バンタム級暫定チャンピオン、従兄・浩樹=日本スーパーライト級チャンピオン)はスタミナがキツそうだというシーンを見たことがないですが。
「メンタルが弱いと、試合になると気持ちが弱くなって、その分、スタミナを使っちゃうんです。だから、自分はスパーリングのときの気持ち、いつも試合も平常心でそのままリングに上がります。
 もちろん、多少は緊張もするし、スパーリングとは違うから、違うエネルギーを使うけど、でもだいたいそのままの気持ちでリングに上がれば、練習でスタミナもできていれば、半分以上は出せると思いますから。
 試合中に休むときもジャブなんですよ。で、攻めるときもジャブなんですよ。深いですねー(笑)。気持ちは休ませてるけど、攻めてますね。で、やっぱりジャブですねー(笑)」

「自分はいろんなジャブを打ちますけど、それはキャリアを積んでいくごとに、自分でこういうときはこういうパターンかなーとか考えてつくっていきました。ざっくり言って、距離を測るジャブ、距離を取るジャブ、攻撃するジャブ、散らすジャブ、エサのジャブの5パターン。
 この前のロドリゲスは右のカウンターが巧いから、エサのジャブをずっと練習してました。当たれば強いのかもしれないけど、エサのジャブは、相手に当たるところまで出さないですから。
 相手の体やパンチを出させるジャブ。当てようと思ってるジャブじゃないので。自分がパンチを引いて、そこからさらに別のものを出すほうを意識しているから、あんまり入りすぎるとそこの反応が遅れるので」

──当てる気のないパンチは相手にも伝わるのでは?
「なので、それを悟らせないくらいのスピードが大事なんです」

──出だしはジャブで、打っている最中に軌道を変えることがありますよね。
「それは、ハナからそうやろうと思って打ってますから」
──アメリカでの試合では、レバーを打ちに行って、途中でみぞおちを目がけたボディブローに軌道を変えましたよね?
「ん~、それは感覚で動いてますから(笑)」
──打っている途中に感覚で軌道を変えられるというのは、やっぱり才能じゃないですか?
「でも、才能があったら、デビュー戦からそういう動きができるんじゃないですか。自分で、こういうふうにしたらいいんじゃないかって考えてるから。デビュー戦から比べて、戦い方はガラッと変わってるじゃないですか。それは自分で変えようとしてきたし、変えるにはどうしたらいいか、練習ですごい考えてきましたから」

画像: 左から浩樹、尚弥、真吾さん、拓真。現在、井上家には10本のベルトがある

左から浩樹、尚弥、真吾さん、拓真。現在、井上家には10本のベルトがある

「昔、ドネアが言ってたんですけど、『日本の選手はミット打ちの型がそのままスパーや試合に出るからやりやすい』って。むしろ、日本の選手はそれしかできないんです。だから相手がサウスポーになったらやりづらいとか。ただ打ってるだけの練習しかしてない。出されたミットを打つ。だから、相手がサウスポーになったときに自分の引き出しがない。もっといろいろ考えてできるはずなんですけどね。足の位置とか戸惑うのも、自分には意味がわからないです。
 これは自分が感覚でやっちゃうから、こういう考えなんですよね。できない人の感覚、その人の悩みとかもあると思う。でも、相手はミットじゃないから。サンドバッグじゃないから。実際に目の前にいるのは何をしてくるかわからない人間ですから。だから戸惑っちゃうんですよね、たぶん。
 シャドーのフォームがきれいな選手とかいるじゃないですか。でも、実戦練習になると、そのとおりにはいかないとか。それはイメージトレーニングをしてるかどうかですね。ただ漠然とやってるのかどうか。それで全然違います」

後輩でホープの桑原とマスボクシング。「桑原は考えて練習している」と尚弥も認めている

「足の位置取りとか、めっちゃ考えてますよ。みんなできないのか、それともできるようになる練習をやってないのか。ジムの後輩の桑原(拓)はそれができるんです。練習を見ていても、「考えてやってるな」って思う。シャドー見てもサンドバッグ見ても、いろんなことをやってるなって。
 でも、できない選手は考えてやってないですから。自分ができるコレ(と両手で小さな輪をつくる)しかやってない。スパーリングでも、テーマを持ってやってない選手が多いと思います」

「練習は長い時間やればいいってもんじゃなく、中身を濃密にするのがいちばん。ボクシングは1日中、練習できるものじゃないですから。
 自分は濃密にやってるのは2時間もないくらい。あとは筋トレしたりストレッチしたりでトータル3時間くらい。集中力が続かないですから」

「ボクシングは本当にバカじゃできないです。勉強がいくらできて頭が良くても、瞬時にキレる頭がないとできないです。あとは観察力が大事ですね。
 普段は、観察したいなと思った人は観察しますね。この人、ちょっと違うなっていう人がいるじゃないですか。どう考えてるんだろうって読めない人。そういう人は観察しますね。
 でも、そんなにジロジロ見るわけじゃないですけど(笑)」

「ロドリゲス、気持ち弱いですよって、だいぶ前から言ってたじゃないですか。本当に気持ち弱かったじゃないですか。(昨年、ロドリゲスの1回戦勝利後にリング上で対峙して)目を見て、一瞬でわかりました。次の対戦相手が目の前にいてあの表情は……。
 それに、気持ち強いやつが、あんなに首振らない(5月にダウンを奪った際のロドリゲスのアクション)ですよね」
──でも、本当に無理だったんじゃないですか?(笑)
「本当に無理だったのかなぁ(笑)」
──でも、3度目のダウンの後、よく立ったなと思います。
「たしかに! でも、セコンドが怖かったんじゃないですか。アイツが(笑)」
※試合前の公開練習でのひと悶着を起こしていたウィリアム・クルス・トレーナーのこと

ボクシングを離れて雑談に入ると、爆笑話ばっかり 写真_本間 暁

(ドネアとの決戦後、海外のビッグプロモーターとの契約の話がある)
「プレッシャーかかりますけどね」
──やっぱりかかりますか。
「いや、そんな感じないですけど(笑)」
──私だったら、毎日「お腹痛い、お腹痛い」ですが、そんなことないですか?
「全然ないですよ(笑)」
──悩みはないんですか?
「う~ん、悩みないですよ(笑)。
暑い。最近の夏は暑いっス。それですね(笑)」

「自分、『エアコンつけるな』で育ってきてるので。エアコンは体に悪いみたいな。でも、はたしてそうなのかと(笑)。暑いところに「アチ~」っているほうが体に良くないんじゃないかと。
 だって、実家に行ったら、いまだに網戸ですから。勘弁してくれよ~って(笑)。
“エアコンつけたら負け”精神があるんですよ、お父さん(真吾トレーナー)には(笑)」
──それは、昭和、大正を飛び越えて明治の人間ですよ!(笑)
「ホントですよ!(笑)。だから、家でエアコンをつけっぱにしてると罪悪感があるんです。
でも、最近、ちょっとそれを取り除いて、適度な温度でいることが体にいいって、自分に言い聞かせてます(笑)」

「だって、高校に入るまで、自分の部屋にエアコンなかったですから。扇風機と網戸。
お父さんたちの部屋にはエアコンがあるんですけど、『おまえたちがエアコンつけてないんだから、オレもつけない』って(笑)。
 で、昼間、お父さんがいないときにお父さんの部屋でエアコンつけて昼寝する、みたいな(笑)」

取材・構成_本間 暁
写真_福地和男

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