トリプル世界戦のトップ、WBO女子世界スーパーフライ級戦。王者の吉田実代は「女子でも面白い戦いを」と思いを胸に戦った。だが、大差勝利も内容は単調。吉田は涙をこぼした。

上写真=挑戦者のシーに右ストレートで迫る吉田(右)

 31日、31歳の吉田実代(EBISU K's BOX)は初防衛を飾ったリング上で泣いた。

「すいません、という感じです」

 何もかもが思いどおりにいかなかった。やりたいこと、できることが、いっぱいあったはずなのに、やっぱりできなかった自分を悔やむ。

 女子ボクシングの現状は、好ましくはない。関心は広まらず、多くの女子ボクサーは世間的には無名に近い。世界チャンピオンにしても事情にさして変わりなし。シングルマザーで世界王座をつかんだ吉田の話題性も、納得できるほどにはファンに届いていないのを自覚している。だからこそ、観衆をわくわくさせるような戦いにしたかった。

 条件はそろっていた。井岡一翔(Reason大貴)、田中恒成(畑中)と日本の軽量級ボクシングをけん引するスター選手とともに組まれたトリプル世界戦での初防衛戦。さらに、21歳の挑戦者シー・リーピン(中国)の力量は世界レベルからは落ちる。169センチの長身は要警戒でも、ここまで5勝2敗とまだルーキーに過ぎない。プロ14戦(13勝1敗)にしてKOはおろか、ダウンを奪った経験も一度もない吉田としては、技術を存分に見せつけ、ストップ勝ちを手に入れるには格好の対戦者だった。

 そして試合。シーの力は想像どおりだった。単調に左フック、右ストレートと打ってくるが、いずれも中途半端。吉田は一方的にそのシーを追い詰めていった。だが、いっこうに白熱しない。はっきりと言い切ってしまえば、吉田の攻防も雑だったからだ。

「もっと外したり、できることがあるはずなのに距離が遠くなりすぎたり、近くなりすぎたり。強引に行き過ぎてしまいました」

 確かに、試合前に「引き出しをいっぱい用意してきた」つもりだったが、ジャブは甘く、ステップもしっかりと刻めない。だから、頭を下げながら駆け込むようにして打つ右ストレートもまた甘い。女子ボクシングを盛り立てたいという志の高さばかりが空回りしていく。

 7回、吉田は左フックをカウンターで決め、伸びのいい右ストレートをクリーンヒットする。混戦模様ばかりで曇り空だった展開もようやく開けて、挑戦者をいよいよ追い詰めたが、そこまで。左目が大きくはれ上がったシーを、仕留められる気配もなく試合は最終ゴングまで流れ着いた。

「悔しいし、不甲斐ないです」

 やや厳しく書いたのも、観戦者としてそんな吉田の気持ちに応えたいがため。自分ができることをもっと突き詰めたい。さらに今、何が必要なのかを整理して、設計図から描き直してほしい。ベルトは残った。チャンスもまだ手もとにある。不断の努力が実る日もきっとやってくる。

 控室、やや気を取り直した吉田は、正月の予定を聞かれて、やっと笑顔を見せる。

「娘が『アナと雪の女王2』を見たがっていたので。しっかりと娘孝行したいと思います」

 どこまでも貪欲な闘うファイターの顔。4歳の娘との強い絆をほんのりとのろける母の顔。『表』と『裏』。いや、『表』と『表』がクルリクルリ。いよいよ始まる新年、よりよい明日のために吉田は歩き出す。

文◎宮崎正博 写真◎菊田義久

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