ついにアメリカにもコロナウイルスの“余波”が到達した。メジャースポーツ各種は軒並み、延期・中止を発表。ボクシング興行もそれに追随する形がとられ始めた。が、今月28日に開催予定の“あるひとつの興行”は、依然、開催予定となっている。そのなかに、日本のファンも注目のカードが含まれているのだ。

上写真=にこやかにポーズ要請に応じてくれたアラメダ

 コロナウイルスの世界的な拡がりによって、日々刻々と深刻な状況がアップデートされるなか、3月11日午後、ドナルド・トランプ大統領が新たな渡航規制をはじめとする対応策を発表したアメリカでは、スポーツ界も次々と競技催行に関し苦渋の決定を下した。プロスポーツでは選手の感染が明るみに出たNBA全米バスケットボール協会をはじめ、NHL全米アイスホッケー協会、MLSメジャーリーグサッカーがシーズンを一時停止。野球のMLBメジャーリーグはシーズンインを2週間遅らせる。

閑散とした大会場。ボクシングも、中止・延期、無観客試合などが検討されている

 そしてボクシング界でも、トップランク社が間近に迫った14日と17日のニューヨーク興行をいずれも無観客で開催することを発表し、PBCプレミアボクシングチャンピオンズは17日のオクソンヒル興行を延期。カリフォルニア州アスレティックコミッションは、州内で予定される格闘技興行を3月いっぱい催行不可と通達した。これを受けてゴールデンボーイ・プロモーションが3月19日、28日の2興行を延期したほか、中小興行主も同様の決定を下している。

 ウイルス感染拡大を食い止めるためと大義は理解できても、トレーニングを重ね、減量をし、セットされた戦いに備えてきたボクサーの落胆はいかばかりだろう。まだ試合の可能性が残されている選手たちも、明日また新たな決断が下され、目指すリングが遠のくかもしれないという不安を抱えながら、練習を続けている。

 3月28日、ネバダ州ラスベガスにスケジュールされている元WBC世界バンタム級チャンピオン、ルイス・ネリとの無敗メキシカン・サウスポー対決に向かうアーロン・アラメダも、そういうボクサーの一人だ。(PBCは12日現在、同興行の中止・延期は発表していない)。

 WBC世界スーパーバンタム級王座への次期挑戦権がかかるこの戦いは、ネリの同級本格参戦の第一弾。2017年の日本初遠征で、必殺の左を武器にWBC世界バンタム級王座12度の防衛を重ねた山中慎介(帝拳)からベルトを奪うも薬物陽性反応が発覚し、再戦では体重超過を犯した“悪童”は、それからも周囲を振り回してきた。昨年11月にはまたも体重超過。対戦相手の前IBF世界バンタム級王者エマヌエル・ロドリゲス(プエルトリコ)の陣営は条件交渉に応じず、好カードは幻になった。そしてやっと転級を決意し、世界2階級制覇を目指そうというわけである。

 アラメダにこの対戦オファーがあったのは、1月。「すばらしいニュースに、とても興奮しました。ネリは名前がある。これまでの試合とは注目度が違うはずです。待ちに待ったチャンス。未来をきりひらくためのチャンスだと思いました」。無敗のメキシカンは、2014年のプロデビューから二人三脚で歩んできたマネージャーでトレーナーのアルヌルフォ・ブラボーと、「必ず勝利を手に入れよう」と誓い合ったという。

 25戦全勝13KOの戦績を持つ26歳の左ボクサーファイター、アラメダが現在トレーニングの拠点としているのは、カリフォルニア州ロサンゼルス郊外にあるメイウッドボクシングジム。この10年ほど、数々の日本人選手がキャンプを行うことでも知られているメキシコ人街の平屋建てには、スパーリング相手を求めるボクサーが各地から集まってくる。

 リング2面で引きも切らず繰り広げられるスパーを見ていると、目を吸い寄せられるタレントというのはいるもので、アラメダはまさにそういう選手だった。目の覚めるようなスピードとか、うなる強打とかではなく、とにかく巧いのである。1年ほど前、サウスポーのTJ・ドヘニー(アイルランド)との統一戦を前にした、当時WBA王者のダニエル・ローマン(アメリカ)のスパーリングパートナーを務めていた。離れれば忙しくジャブを出し、インサイドでは長い腕と肩を使ったブロッキングと柔らかいボディワークでパンチをかわして死角から相手のスキを突く。玄人好みの巧さと粘りのローマンを、そうやって手こずらせた。

画像: LAのメイウッドジムでは、ホープ中谷ともスパーリングを重ね、世界戦直前の中谷を感心させる場面も

LAのメイウッドジムでは、ホープ中谷ともスパーリングを重ね、世界戦直前の中谷を感心させる場面も

 大一番ネリ戦へ向け、8週にわたり、月・水・金の週3日、時には12~15ラウンズに及ぶ対サウスポーのスパーリングを重ねるアラメダは、3月から合宿に入ったWBCフライ級3位・中谷潤人(M.T)にも協力を求めた。3階級差でも身長はアラメダより高く、以前にもスパーリングの経験があるという中谷は、「長いところが強いと思います。右ジャブがノーモーションでくる感じで、それにペースをとられそうになります」と、手合せの印象を語る。

 アラメダ自身、プロでの対サウスポー戦は数少ないもののむしろ得意だと言った。

「ボクシングを始めた時、自然にとったのがこの構え方だったから、ずっと左構えだけど、利き手は右です。だから右のジャブが有効に使える対サウスポーは、やりやすい。相手のパンチもよく見えます」

 バスケットボールでもサッカーでも、やれば何でも上手くできたが、元プロボクサーのおじに連れられて13歳でジムに通い始めるとすぐに、ボクシングに夢中になったという。「自分のスポーツはこれだと思いました」。ロンドン・オリンピックへの出場はならなかったが、メキシコ・ナショナルチームの要請で、WSB(AIBA国際ボクシング協会が立ち上げたプロリーグ戦)に参戦。21歳でプロに転向した。

 厚いアマチュア経験に裏打ちされた攻防技術、冷静な試合運びで勝利を重ねてきた。2016年1月に一度、PBCの興行でアメリカのリングにも上がっている。だが戦歴に特筆すべき対戦相手は見当たらず、ネリとの実績の差は歴然としている。体重超過で世界タイトルを失い不誠実を繰り返しながらも、優れたボクシングIQと圧倒的な攻撃力で、数々のトップファイターを封じて30戦全勝24KOの戦績を築くネリの強さは否定しようがない。ロドリゲス戦をフイにしたあと、名伯楽エディ・レイノソの下で世界2階級制覇に乗り出した“悪童”に、大きく有利が傾く戦いであることはたしかだ。

マネージャー兼トレーナーのブラボー氏とともに、勝利を信じて疑わない

 アラメダとブラボーも、そんなことは承知の上。それでも、全勝記録を危険にさらす価値がある大勝負だ。「ネリが強いことはわかっている。でも、特徴もある。それをふまえて戦術を練り、その作戦を遂行する。できる、と思っているよ」とブラボーは言った。

 まずは3月28日に、予定どおり開始のゴングが鳴るかどうかである。本稿を書くうちにもトップランク社の直近2興行は無観客開催から延期に変わっている。これから2週間のうちにパンデミック終息を期待するのは不可能だとしても、2週間のうちにPBCと放映局ショータイムが決行する方策を見い出す可能性は、ほんのすこし残されていると信じたい。

文&写真_宮田有理子
Text & Photos by Yuriko Miyata

おすすめ記事

ボクシング・マガジン 2020年4月号


This article is a sponsored article by
''.