筑波大学蹴球部の小井土正亮・監督はJクラブのトップチームでコーチを務め、分析を担当していた経験を持っている。「正しいゲーム分析」に必要とされるのはどのような考え方であり、作業工程なのか?

(出典:『サッカークリニック』2019年4月号)

CHAPTER 1
ゲーム分析とは

 皆さんに質問があります。

「サッカーとはどのようなスポーツだと思いますか?」

 さまざまな表現が可能だと思いますが、ほかの競技と比べてみることでサッカーというスポーツの特徴を浮かび上がらせたいと思います。例えば、バレーボールや卓球などでは、流れが悪いときなどは『タイムアウト』をとってリセットする時間をつくれます。一方、サッカーと近い競技という印象のあるラグビーにしても、実際のプレー時間は全80分のうち約30~35分、ゲーム全体の約40~45%(サッカーは90分のうち約55分で約60%[J1リーグ:2018年])と言われています。ラグビーはセットプレーからの再開が多く、プレーしていない時間が比較的長い、この点がサッカーと異なります。

 ですからサッカーは、試合開始からハーフタイムまで、そして、ハーフタイム明けから試合終了まで「プレーが連続している時間が長い競技」であると言えるでしょう。つまりサッカーのゲームを分析する際には、切れ目が少ない中で局面が頻繁に変わることを理解し、プレーが連続する中、一つひとつのプレーを評価する必要があるのです。

 また、「攻守が頻繁に入れ替わる」という点ではバスケットボールに似ていると言えます。しかし、「ボールを持ったら24秒以内にシュートを打たねばならない」というルールがバスケットボールにはあり、その結果、プレーの選択は制限を受けます。一方のサッカーは、そうした制約がありません。ですから、「攻守において自由度が高い」というのもサッカーという競技の特徴として挙げられるでしょう。オフサイドなどのルールに抵触しなければ、いつ、どこに、どのように攻めることも可能ですし、そうした攻撃に対する守り方にもいろいろな方法が考えられます。そのため、「チームを率いる監督の思考やチームにいる選手のプレーの特徴が反映されやすい競技である」とも言えます。

 つまり、サッカーという競技ではさまざまな要因が複雑に絡み合いながらプレーが展開され、野球における打率や防御率といった客観的なデータでゲームや選手の特徴を表現するのが簡単ではないのです。分析する人によって見え方や解釈が異なるとも言えます。そうした特徴はゲーム分析を難しくする一方、サッカーの面白さでもあります。日本代表の試合を例に挙げれば、誰もが「サッカー評論家」になりますし、最近では世界中の「戦術マニア」が注目ゲームを分析し、その内容をネット上に投稿してそれぞれの見解をぶつけ合うといったことも起きています。

 当然、それぞれの立場でサッカーを楽しむということ自体に問題はありません。しかし、「チームのパフォーマンスを評価する」、「個々の課題を見つける」、「トレーニングの成果を検証する」といったゲーム分析の目的を達成するためには指導者のゲーム分析がいい加減なものでいいわけがありませんし、分析結果がブレるのは良くありません。仮に分析結果がいい加減であれば、指導者が分析から設定した目的地や方向性が誤っている可能性が高くなり、誤った結果から導き出されたトレーニングに懸命に取り組んだとしても、期待したような効果は得られないでしょう。ですから、「良いゲーム分析が選手とチームを成長させるカギ」、これは断言できます。

「CHAPTER 2」では、より正確、かつ効果的にゲームを分析するためのポイントを整理していきます。

画像: 小井土正亮・監督による筑波大学蹴球部のミーティング

小井土正亮・監督による筑波大学蹴球部のミーティング

CHAPTER2
ゲーム分析のポイント

 ゲーム分析の流れは以下のように進みます。

ステップ(1)抽象的、主観的な情報を、

ステップ(2)具体的、客観的な情報に整理し、

ステップ(3)自分たちに必要な情報に変換し、

ステップ(4)その情報を発信、共有する

 では、各段階ですべきことを整理していきましょう(下の図1を参照。なお、4つのステップの背景にはチーム・コンセプトとゲーム環境が存在する)。

画像: ステップ(4)その情報を発信、共有する

ステップ(1)

 抽象的、主観的な情報とは、失点シーンにおける「シュートを決めた、決められた」、「いいクロスが上がった」、「中盤で簡単に相手に抜かれた」など、起きた現象自体を指します。こうした起きた現象自体は事実なのですが、「遠い位置でのプレーでよく見えなかった」ことによる不正確な情報や「あいつのせいでやられた」というような分析する側の主観や思い込みによって誤った情報が紛れ込むことがあります。この点は注意が必要です。また、ゲーム中に発生したすべてのプレーを分析するのは不可能です。ですから分析は、着目する情報(プレー)を決めることから始めます。今回は、「シュートを決められた」という場面に着目して話を進めましょう。

ステップ(2)

 具体的、そして客観的な情報に整理するとは、着目した情報(プレー)を「5W1H」(いつ、どこで、誰が、何を、なぜ、どのように)によって捉え直すということです。例えば、「シュートを決められた」という情報(プレー)であれば、以下のようなことを明確にします。

・時間帯
・崩されたエリア
・シュートの種類
・シュートを打った選手
・シュートを打った選手に対応していた選手

 では、以下の状況において考えてみてください。

「後半の立ち上がりに自陣左サイドでの1対1の状況からドリブルで突破され、ゴール前にクロスを上げられ、ゴール正面からフリーな相手にヘディングで決められた」(ケース・スタディA=下の図2)

 失点シーンをこのように振り返れれば(整理できれば)、以下の2点が問題として浮かび上がります。

・「サイドでの対応はどうすべきだったのか」
・「クロスを上げられたとき、ゴール前で相手選手がなぜフリーだったのか」

 そしてこの2点はトレーニングで改善すべき点とも言えます。

 しかし、目の前のゲームをライブで見ながら采配を振るい、しかもゲームを分析するのは簡単ではありません。「プレーそのものを見逃した」、「プレーの起点が分からない」などを含め、いろいろな障害が考えられます。試合後であれば映像を活用してもいいでしょうが、目の前の試合にも対処しなければなりません。ですから、ライブのゲーム分析では「起こりそうなことを常に予測しながら、かつメモを取りながら見る」といいでしょう。

画像: ・「サイドでの対応はどうすべきだったのか」 ・「クロスを上げられたとき、ゴール前で相手選手がなぜフリーだったのか」

ステップ(3)

 次に求められるのが分析結果を自分たちが必要とする情報に変換することです。その過程において、それぞれの状況(「ケース・スタディA」での「サイドでの対応時」や「ゴール前での対応時」など)において「どうすべきなのか」を自分たちがやるべきこと(戦術)とすり合わせて、ミスの所在と原因を明らかにします。「ケース・スタディA」をつぶさに分析した場合、例えば以下のような理由があり得るでしょう。

状況(1)「サイドでの対応」

1:前半から何度も突破されていたが、ピンチにならなかっただけだった

2:後半立ち上がりという時間帯であったため、対応した選手がゲームに入れていない状態だった

3:中盤の選手が戻って来て助ける約束事だったのにサボった

4:カバーリングすべきセンターバックが離れすぎていた

状況(2)「相手をフリーにしたゴール前の対応」

1:相手を見失っていた

2:マークについていたが間に合わなかった

3:マークの受け渡しがうまくいかなかった

 このように1つのミスにはさまざまな要因が絡み合っていることが分かります。また、「直接関係した選手だけの責任」であることのほうが少ないのです。そして、分析結果によって必要となるトレーニングも変化します。「状況(2)」で分析結果が1であれば、「マーキングの確認」をすべきでしょうし、3であれば、「マークの受け渡しの確認」といったことが必要になり、それをトレーニングに反映させるべきなのです。

 ゲーム分析の目的は決して「犯人探し」ではありません。ゲーム分析の目的は、「自分たちがすべきこと、できること」に対して「できなかったこと、やらなかったこと」を解き明かし、「同じような状況に再び遭遇したときにうまく対応できるようになるためにすべきことを明確にすること」なのです。

画像: 状況(2)「相手をフリーにしたゴール前の対応」

ステップ(4)

 ゲーム分析の最終ステップになるのが「情報を発信、共有すること」です。指導者、または一部の選手だけがゲーム分析の結果を分かっていることには意味がありません。チームとして「(次のゲームで)シュートを決められないために何をすべきか」を共有しなければいけないのです。指導者と選手、そして選手たちがバラバラの見解を持っている状態では前に進めません。次のゲームまでに「チームとしてどのような準備をし、ゲームで何にトライしていけばいいのか」を明確にするためには情報の共有が欠かせないのです。

 共有するための手段の一つがトレーニングになります。トレーニングの中にゲーム分析の内容を反映させたトレーニング・メニューを組み込み、ピッチの中で実際に解決するのです。しかし、ゲームで起きた現象をトレーニングで再現するのは意外に難しいものですし、同じイメージを共有するのも簡単ではありません。私がJクラブで分析を担当しているとき、「プロの世界でもピッチの中だけでうまく解決するのは難しい」と感じていました。

 イメージを共有する上で役立つのが映像を使ったミーティングです。言葉だけではどうしてもイメージが伝わりづらい面がサッカーにはありますが、映像を見ながら「この場面では、サイドにいるA選手のボールが来る前の準備がまずかった。周囲のカバーリングもなかったために簡単に突破された。しかも、全員がボール・ウォッチャーになり、最も大切なゴール前で相手のマーキングを疎かにした。だから失点してしまった」といった説明を加えれば、トレーニングですべきことが明確になり、共有できます。そのイメージが共有できていれば、「いい準備をしているか?」、「ボール・ウォッチャーになっていないか?」など、トレーニング中の声掛けが具体的なイメージを伴い、効果的なコーチングになるのです。こうすることで「情報を発信・共有すること」ができ、ゲーム分析は終了します。

 ステップ(4)に関し、「映像を使ったミーティングはしたいけれど、そのスキルと時間がなくて・・・・・・」という理由から実際に実施できていないチームも多いと聞きます。しかし、プロのチームでも特に高価な映像編集ソフトを使っているチームはほとんどありません。最近は比較的安価に映像編集ソフトを入手できますし、使いやすいものも出ています。思っていたよりも手軽に映像を加工でき、伝えたいメッセージを伝えられるものです。

 また、時間がどうして捻出できない場合、選手自身が映像作成を担うのも一つの解決策だと思います。指導者が基本的な考えを選手に伝え、選手自身がプレー映像を切り取り、そのプレーにおける問題点を話し合うだけでも選手の頭の中は整理されるでしょう。

 ゲーム分析は、プロや強豪校だけがお金と時間をかけて行なうものではありません。ゲーム分析は、具体的、そして客観的な資料を基に選手と指導者が一緒になってチームづくりをするためのツールです。すべてのチームにとって実施する価値があります。ぜひ、ゲーム分析にトライしてみてください。

【筑波大学の取り組み】

 筑波大学蹴球部には、学生が主体となって活動する『パフォーマンス局』があり、その中には、対戦相手のスカウティングを担当する『アナライズ班』がある。アナライズ班は、次の対戦相手の試合を現地で見て撮影し、持ち帰ってきた資料を基に対策を練っている。対策を練る上では映像編集ソフト『EDIUS Pro』を用いて相手の特徴を4つの局面(攻撃と守備、そして2つの切り替え局面)ごとに切り出し、選手たちに分かりやすく伝えられるように編集している。この取り組みを始めてから4年が経過し、より分かりやすい見せ方、論理的なプレゼンの仕方などを上級生が下級生に伝授するようになった。また、こうした取り組みの成果として、毎年Jリーグのトップチームの分析担当として次のステップに進む学生も出てきている。また以下のコメントにあるように、ゲーム分析の経験はいろいろなメリットを選手にもたらしている。

アナライズ班のコメント

「これまで、サッカーについて深く考えたことがあまりなかったため、いつも先輩や監督から分析の甘さを指摘されています。それでも、会場で見たときはよく分からなかったことが、映像を見返したときに発見できたときには喜びを感じます。自分でプレーをしているときも、周囲の選手に掛ける声などが変わり、サッカーが『見える』ようになってきたと思います」

画像: アナライズ班が映像編集を行なう

アナライズ班が映像編集を行なう

(文/小井土正亮 写真/gettyimages、BBM、筑波大学蹴球部)

画像: アナライズ班のコメント

【解説者プロフィール】
小井土正亮(こいど・まさあき)/ 1978年4月9日生まれ、岐阜県出身。各務原高校から筑波大学、筑波大学大学院へ進み、「スポーツ心理学」を学ぶ傍ら、水戸ホーリーホックでJリーガー、筑波大学蹴球部コーチ、柏レイソルのテクニカル・スタッフを1年ずつ経験した。その後、長谷川健太・監督の下、清水エスパルスで6年間コーチを務めた。2011年から12年は筑波大学大学院で再びコーチング学を学ぶ。大学院卒業後の13年には長谷川監督と共にガンバ大阪で指導。14年に母校・筑波大学に教員として戻り、筑波大学蹴球部ヘッドコーチに就任すると、14年の途中に監督に昇格した。16年には全日本大学サッカー選手権大会、17年には関東大学サッカー1部で優勝


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