「ボールを奪える」ことは、チームにどんなメリットを与えるだろうか? ここでは、ジュニア年代での「ボール奪取」を掘り下げて学んでいく。技術の成熟と戦術の基礎的要素の習得を目指す東京武蔵野シティフットボールクラブU-15を2016年から率い、15年まで指導したジュニア・チームでは世界大会でも実績を残すなどカテゴリーを問わず活躍している戸田智史・監督に解説してもらう。その1回目は「ボール奪取」の総論をお届けする。※5回(各回、前編・後編あり)に分けて掲載予定

(出典:『サッカークリニック』2015年4月号)

上のメイン写真=1対1に滅法強いリバプールのセンターバック、フィルジル・ファンダイク(左。オランダ代表) (C)gettyimages

世界は「速くて強い」
奪いに行く守備が常識

「ボール奪取」について私が話したい点は、2014年の11月に出場した『ダノンネーションズカップ世界大会』(※当時、戸田氏は横河武蔵野FCジュニアの監督を務め、日本代表として出場したこの大会で優勝に導き、世界一に輝いた)で強く感じた点でもあります。海外の選手は迷いなくボールを奪いに来るのです。南米やヨーロッパだけでなく、日本と同じアジアのサウジアラビアも守備時に迷いは感じられませんでした。

 日本では体験できない「速さと強さ」でした。バチンと音が聞こえるくらいの激しい当たり方で、まさに「ボールを奪われたら、奪い返す」、「ボールを奪ったら、ゴールを目指す」というスタイルで試合を展開していました。「ボールを奪ってゴールを目指す」という「サッカーの原点」に対して忠実だったという印象があります。

 ある意味、海外の選手は相手にかわされたり、裏をとられたりすることを恐れていないのだと思います。一方で「恐れていない」ということは、「相手に抜かれてはいけない」という指導をされていないだけのような気もしました。もちろん、相手にかわされることでチームはピンチに陥るわけですから避けなければいけません。しかし、ジュニア年代であれば、「自分の失敗の中から学んでいくことは大事である」とも言えます。

 失敗を経験し、頭の中が整理されれば、「頭脳的な部分」と「激しさの部分」がかみ合い、ボール奪取という面でいい選手に育っていくのではないでしょうか。当時の横河武蔵野FCジュニアの選手たちも、世界大会で相手の「速くて強い守備」を経験したことで、日本に帰ってきてから考えが変わりました。世界基準の「速くて強い守備」を実戦しようとしていました。

 巷では、海外選手が見せる「速くて強い守備」に対して、「海外の選手はフィジカルが優れているから」と、海外選手の持ち前のフィジカルの強さを「速くて強い守備」ができる理由として挙げられることがあります。

 しかし、私の意見は違います。フィジカルがどうこうではなく、「速くて強い守備」があることを選手は学び、意識を高めることが重要だと思うのです。指導者は、子供がチャレンジして失敗することも受け入れ、失敗の中から学ばせるという姿勢を持つことが必要です。指導者の姿勢が子供たちの「いい守備」や「高いボール奪取力」につながるのだと思います。

 ではここで、「ボール奪取」を行なうためのポイントを整理しましょう。

A:個人がボールを奪いに行くとき、後方の選手たちはしっかりオーガナイズする

 ボールを奪いに行くタイミングを局面ごとに切り分けた際、まず狙うべきは自分たちが攻撃から守備に切り替わったときです。

 この場合は、奪われた位置で、ボールに最も近い選手が奪いに行きます。できれば相手に前を向かせないようにします。もちろん、ボールを奪いに行くのは個人ですが、チーム全体がいい陣形を後方でつくっておくことが大切です。ボールを奪いに行った選手が相手に抜かれても、後方でしっかりオーガナイズできていれば、大きなピンチには直結しないでしょう。個人としても積極的にボールを奪いに行けます。

B:相手のボール保持時は2つのケースを見極める

 相手がボールを保持しているときのことを話しましょう。相手がボールを保持しているときのボールの奪い方は次の2つに分けて考えなければいけません。 

 1つはチームでの積極的な守備がうまくいっているときです。いい守備で相手を押し込んでいる上にボールを持っている相手が自分たちの圧力を感じているときは、「Aの攻守の切り替え時」と同様にボール奪取を目指します。

 もう1つは相手がボールを持ち、前を向いているときです。相手がこの状態であると簡単には奪えません。ボール保持者に対して安易に飛び込むこともできません。まずは、相手に自由を与えないようにプレスをかけ、プレーの選択肢を狭めることが第一にすべきことです。周囲の選手は、その間に自分のマークする相手、あるいは自分のエリアに入ってくる相手にボールが出そうなときに「守備の3原則」にしたがった守備を行ないます。「守備の3原則」が適切にできるようなポジショニングが重要です。「相手がパスしたら、次は自分がチャレンジに行く番になること」を想定し、しっかり準備しておくのです。

 個人と組織がうまくかみ合った「いい守備」ができれば、「いい攻撃」にもつながり、強いチームに育っていくことでしょう。

(取材・構成/長沢潤)

画像: 2014年のダノンネーションズカップ世界大会で優勝した横河武蔵野FCジュニアの選手たち。「激しく奪いに来る」世界基準の守備を技術と駆け引きでかわして優位に立ち、栄冠を勝ち取った(左上が当時の戸田智史氏) (C)横河武蔵野FCジュニア

2014年のダノンネーションズカップ世界大会で優勝した横河武蔵野FCジュニアの選手たち。「激しく奪いに来る」世界基準の守備を技術と駆け引きでかわして優位に立ち、栄冠を勝ち取った(左上が当時の戸田智史氏) (C)横河武蔵野FCジュニア

画像: B:相手のボール保持時は2つのケースを見極める

解説者プロフィール

戸田智史(とだ・さとし)/1976年8月19日生まれ、東京都出身。2002年から横河武蔵野フットボールクラブのスクールコーチ、ジュニアユースコーチを歴任し、08年からジュニア監督を務めた。09年に全日本少年サッカー大会で3位に導き、14年にはダノンネーションズカップ世界大会に日本代表として出場し、初優勝をもたらした。16年から名称を変更した東京武蔵野シティフットボールクラブのU-15で監督を務めている

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サッカークリニック 2019年8月号


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