2018年に優勝争いを演じたサンフレッチェ広島において、指揮官である城福浩・監督とともに貢献度を高く評価された人物がいる。フィジカル・コーチを務める池田誠剛氏だ。日本における「フィジカル・コーチの先駆者」との呼び声が高い池田氏は、1993年のJリーグ開幕前からフィジカル・トレーニングを突き詰め、国内外のチームで多くの選手の肉体を鍛え上げてきた。池田氏に、フィジカル・コーチという立場から令和時代に求められるフィジカル指導を聞いた。

(出典:『サッカークリニック』2019年9月号)

取材・構成/寺田弘幸
写真/寺田弘幸、gettyimages

上のメイン写真=2018年からサンフレッチェ広島のフィジカル・コーチを務める池田誠剛氏。広島を再び「戦える集団」にし、17年に残留争いを強いられていたチームを優勝を争えるチームに変貌させた。19年シーズンも上位に顔を出している (C)寺田弘幸

フィジカル・トレーニングに正解はない

──フィジカル・コーチとなって30年近くとなりました。30年前とは逆に、現在は情報が溢あふれている時代だと思います。その中で現在も知識をどんどんアップデートしているのでしょうか?

池田 「2年前に正しいと言われていたものが現在は違う」といったことがあり得る世界です。例えば「サッカー選手に素走りは必要ない」と言われたりもしますが、一概にそうとは言い切れないのです。ボールを使ったトレーニングだけをしていると選手の特徴によって与えられる負荷が変わってくるため、個々に適したフィジカル強化につながりにくいのです。実は、最近はヨーロッパでも素走りのトレーニングが多くなっています。私が言いたのは「『これが正解』のトレーニングはない」ということです。サッカー自体もどんどん進化していますし、常に学ぶ姿勢を持たなければいけません。もっと言えば、学ぶ姿勢がないのであれば現場を去るべきだと思っています。

──フィジカル・コーチを30年近くやってきても「正解」が見つからないものでしょうか?

池田 「根幹」のようなものが見えてきたのは確かです。私はこれまでフィジカル・コーチとしての引き出しをたくさん持っておくことに重点を置いてきました。そして今は引き出しの数を選りすぐって少なくしていく作業の途中です。もちろん、「新しいもの」へのアンテナも張っているつもりです。

──世界的な潮流を見ると、サッカーはどんどん科学的になっていきそうです。

池田 それは間違いありません。現在は本当に詳細なデータが出るようになっています。私もさまざまなデータが出るのはいいことだと思っています。ただし、データの使い方を今後は精査していかなければいけないと思います。走行距離やスプリント本数は選手を測る上での指標の一つになると思いますが、Jリーグではそういったデータの低い川崎フロンターレが2年連続で優勝していたりします。この事実をどう説明すればいいでしょうか?

 私は自分の主観を裏づけるものとしてデータを活用するようにしています。データの使い方がこれからのフィジカル・コーチの良し悪しを図る指標になっていきそうですが、「データがどれだけパフォーマンスにつながっているのか」をしっかり見ないといけません。選手たちにトレーンングの成果を感じてもらうためにもデータは大事ですが、良い数字を出すこととサッカーのパフォーマンスを高めることは違います。その見極めは難しい点でもあります……。

画像: 早稲田大学時代の同級生である城福浩・監督(右端)とともに、広島では指導2年目のシーズンを送っている池田氏(左から2人目) (C)gettyimages

早稲田大学時代の同級生である城福浩・監督(右端)とともに、広島では指導2年目のシーズンを送っている池田氏(左から2人目) (C)gettyimages

素早い切り替えに対応できる肉体強化

──現代の若い選手たちは小さい頃から体幹トレーニングなどをしてきていると思います。昔の若い選手と比べて体つきは変わってきていますか?

池田 現代の選手たちの体つきを一律に言うのは簡単ではありません。「育成期間をどのように過ごしたか」によってまったく違ってくるからです。

 昔と比べたら、間違いなく身長が伸び、体重が増えています。ただし私は、学校、サッカークラブ、家庭の3つがもっと密接な関係になる必要があると思っています。地域や学校によっては「中学生は学校から一度家に帰ってからでないとクラブに行ってはいけない」という規則があるようです。しかし、この際に生じる帰宅時間はすごく無駄になります。この規則があるために各クラブは練習開始時間を遅くしているので、帰宅時間も遅くなります。帰宅してから食事を摂る生活を続けていると栄養をうまく摂取できませんし、睡眠時間も足りなくなります。体をつくる上で良い循環とは言えません。生活習慣から考えていく必要があることは声を大にして言いたい点でもあります。

──現在もそうですが、サッカーはどんどん高速化し、フィジカル面の重要度が高まっていきそうです。日本サッカー界がやるべきこともたくさんありそうです。

池田 本当にたくさんあると思います。サッカーがさらに高速化していくのは間違いありません。頭の切り替えも含め、「攻守の素早い切り替え」が今以上に重要なワードとなるでしょう。

 ただし、日本人はその能力に秀でていると思っています。私が海外のクラブで指導したときに驚かされたのは海外選手の良い面だけではありません。悪い面も感じてきました。それが海外選手の敏捷性の低さです。だから敏捷性を高めていけば日本は世界ともっと対等に戦えると思うのです。

 これも私の意見であり、数年前から議論されている点ではありますが、Jリーグの開幕をヨーロッパに合わせて秋にしたほうがいいと思っています。なぜなら、現行の春開幕だと夏にも試合があるのですが、夏場には負荷をかけたトレーニングができないからです。トレーニングの強度を上げられず、エネルギーを溜めて試合に臨むことになります。試合のテンポも落とさざるを得なくなります。

 日本は育成年代でも夏に多くの試合があります。逆にヨーロッパは夏に長期休暇をとり、夏以外の季節に強度の高い練習や試合を行ないます。暑くなりすぎない時期にプレーするため、小さい頃から攻守の素早い切り替えが求められるサッカーに常に取り組むことができます。私はその差は小さくないと思っているのです。スケジュール面を含め、普段のサッカー環境を見直すべきでしょう。特に最も体が成長する中高生の環境を改善していくことが、日本サッカーの発展にとても重要だと思っています。

画像: 素早い切り替えに対応できる肉体強化

PROFILE

池田誠剛(いけだ・せいごう)/ 1960年12月16日生まれ、埼玉県浦和市(現在のさいたま市)出身。早稲田大学を卒業したあと、古河電工サッカー部でプレー。現役から退いたあとの91年、東日本JR古河サッカークラブでアシスタント・コーチとして指導開始。92年からジェフユナイテッド市原(現在のジェフユナイテッド千葉)でフィジカル・コーチを務める。その後、Jクラブなどでフィジカル・コーチを務めたあと、2013年には韓国代表でフィジカル・コーチ。その後も香港代表ほか国内外の各チームで指導にあたり、18年からサンフレッチェ広島でフィジカル・コーチを務めている

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